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村の広場には、少しずつ日常の光景が戻りつつあった。子どもたちの笑い声が再び響き、長屋の前には穏やかな風が吹く。森の方角からの湿った風も、以前ほど不気味さを帯びてはいなかった――冒険者の話によれば、魔獣の影も減り、森の様子は以前に近付いているという。


リディアは店の扉を開け、並べられた武具を整えながら深呼吸する。戦いの余韻はまだ消えないが、心に少しだけ安堵が広がっていた。


「……やっぱり、日常っていいな」


リディアの呟きに、カイルはさりげなく重ねた包帯を整えながら笑う。二人の間には、戦いの緊張とは違う、柔らかな空気が漂っていた。


その様子に、シルヴァンは少し離れた火床の傍で眉をひそめる。以前までのリディアとカイルの距離感と違っていることを肌で感じていたのだ。

何か自分の知らないところで、関係が変わってしまった焦燥感。今言わないと後悔する気がした。


「……リディ姉ちゃん、話があるんだ」


シルヴァンは、火床から離れてリディアの前に立つ。顔には緊張が走り、手元を落ち着かせながら言葉を紡ぐ。


「僕は……リディ姉、いや、リディアが好きだ。もっと鍛えて、男として向き合えるようになったら――その時に…」


リディアは目を見開いた。そしてカイルに目線を移した後、静かに深呼吸し、優しい笑みを浮かべてシルヴァンに向き合った。


「……ありがとう。シルヴァンの気持ちはとても嬉しい。ただ、私は…」


シルヴァンの表情が少し硬くなる。だが、リディアの瞳に誠実さと揺るぎない決意を見て、彼は深く息をついた。


「……うん、分かってる。だからは、焦らない。リディ姉ちゃんが心から幸せになるその時まで――僕は待つ。男として、もっと成長して、もう一度だけ挑む」


カイルはそのやり取りを少し離れたところから見守っていた。彼はシルヴァンの視線を受け止めると、静かに頷き、低く声をかける。


「……誰も入る隙はないくらい、リディアを大事にする。俺は、そう決めてる」


その言葉に、シルヴァンはわずかに息をのんだが、無言で応じる。心の中では悔しさもあったが、それ以上に、リディアが守られていることに安堵していた。


「……カイルなら、仕方ないか」


小さく呟くように言う。言葉にしなければ、心の中の整理がつかない気がしたのだ。あの人なら、リディアを本当に大事にしてくれる――そう認めるしかなかった。


火床の傍で、鍛冶槌を握り直す。手元に集中することで、心の乱れを落ち着ける。告白できたこと、言葉にできたこと、それだけでも胸の奥は軽くなった。


「……これで、一区切り。後は、俺がもっと強くなるだけだ」

小さく笑みを浮かべながら、シルヴァンは決意を新たにした。焦燥と悔しさは、次に向かう力に変わっていく。


リディアはそんなシルヴァンに気付き、そっと微笑む。カイルは横で、リディアの手を握り締め、目を細める。

三人の間に言葉はなかったが、互いの心が少しずつ理解し合った瞬間だった。

それぞれの思いを抱えながらも、長屋の小さな日常は確かに続いていく。



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