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わずかな休息後、三人と冒険者は森を抜け、村へと帰還した。

村はひっそりと静まり返っていた。

家々の窓からは怯えた村人たちの視線が覗き、誰も外に出ようとはしない。血に濡れた武具と、疲れ果てた面々の姿が余計に恐ろしく見えたのだろう。


だが、三人の姿を認めると、扉がわずかに軋み、最初の一人が恐る恐る戸口に現れた。続いて、あちこちの家から人々が顔を出し、やがて広場へと集まり始める。


「……勝ったんだな」


誰かの震える声が、静寂を破った。

その声を合図に、村人たちが次々と三人と冒険者たちを囲み、歓声が上がった。


「よかった、本当によかった!」

「あんたたち、もうダメかと思ったよ!」

「お前たちがいなければ村は守られなかったよ。助かった。」


涙ながらに叫ぶ者もいる。

冒険者たちが三人の活躍を口々に話す。


「武器が持ちこたえたのはシル坊のおかげだ」

「カイルさんの処置とサポートがなきゃ仲間は死んでたよ」

「リディアちゃんがいなきゃ、武器は届かなかった」


称賛と感謝が、次々と口にされる。

カイルは少し照れくさそうに頭をかきながら口を開いた。


「……いや、俺たちなんざ、あんたら冒険者の背中に必死で食らいついただけだ。前に立って斬り合っていたのは、紛れもなくあんたらだ」


その言葉に、冒険者たちは驚いたように目を瞬かせ、すぐに笑みを浮かべた。


「おいおい、カイルさんにそう言われちゃあ鼻が高えなあ」

「だが、あんたが仲間の傷を塞いでなきゃ、ここには何人も立ってなかったさ!」

「壊れても武器が途切れずに出てくるなんざどんな魔法かと思ったぞ」


すると今度はシルヴァンが肩をすくめて口を挟んだ。


「僕は……ただ直して投げただけ。戦ったのはみんなだよ」


すぐさま、豪快な笑い声が返ってきた。


「ははっ、シル坊!無茶しやがって、格好良かったぞ!」


大きな手が彼の髪をぐしゃぐしゃにかき回す。

「や、やめろよ!」と顔を赤くして抗議するシルヴァンに、周りはどっと笑った。

リディアもつい吹き出してしまい、慌てて口を押さえる。


「私も守ってもらったから、ここに立っていられるの。だから、一番すごいのは、みんなだよ」


その言葉に、冒険者も村人も、静かにそして温かく頷いた。


やがて広場には焚き火が焚かれ、村人が保存していた酒や食料が持ち寄られた。

「祝いの宴だ!みんな、生きて帰ったんだ!」

冒険者の一人が叫ぶと、歓声が上がる。

子どもたちが泣き笑いで駆け寄り、年寄りが手を合わせて拝む。

長机に並んだ料理は質素だったが、誰もが心からの笑顔を浮かべていた。


少し離れた焚き火の側では、シルヴァンが酔った冒険者に肩を組まれ、豪快に笑っている。


「大槌振るう鍛冶屋なんざ初めて見たぜ!」

「武器を直しながら戦うなんて、無茶しやがって!」

「その傷だって男の勲章だ!舐めときゃ治る!」


カイルは席の端で薬草をすり潰し、戦士たちの傷を手当てしている。リディアはその隣で器を運び、包帯を巻く手を助けていた。不思議と、二人の息はぴたりと合っていた。


笑いと酒が飛び交い、夜は賑やかに更けていった。

リディアはふと、焚き火の赤い火に照らされたカイルの横顔を見やった。

――この村で生きていくなら、きっと彼と共に。

そんな想いが胸に灯るが、言葉にはしなかった。



宴も終わりに近づき、村人たちは少しずつ家に戻っていった。

焚き火は小さくなり、酒に酔った冒険者たちが肩を組んだまま眠り込んでいる。


シルヴァンはというと、酔った誰かに無理やり杯をあおらされ、結局そのまま丸くなって眠ってしまっていた。


「ふふ……シルヴァンらしいね」


リディアが毛布をかけてやると、カイルがその横で荷をまとめながら苦笑した。


やがて広場には、二人と、遠くで寝息を立てる者たちだけが残った。

火の粉がぱちぱちと弾ける音がやけに大きく聞こえる。

リディアが空になった器を重ねながらぽつりと漏らした。


「……生きて帰れて、よかった」


カイルは手を止め、しばらく火を見つめてから口を開いた。


「俺もだ。正直な、戦いの間中……ずっとお前のことばっかり気にしてた」


リディアは驚いて顔を上げた。

カイルは不器用に頭をかきながら続ける。


「お前が傷付くのが嫌で…でも止めても前に出るんだろ。だから俺は、ずっと隣にいようと思った」


そして、深く息を吐いて言った。


「リディア……俺は、お前が好きだ」


一瞬、時間が止まったように感じた。

胸が強く打ち、頬が熱を帯びる。

――あぁ、自分もずっと、この人のことが好きだったんだ。

そのことにようやく気付き、確信をもてた。

けれど、素直に口にはできなくて、リディアは小さく笑った。


「……今さら言うこと?」


そう言いながらも、リディアの口元は笑みを隠しきれなかった。カイルも照れくさそうに目を逸らす。


「………私も、カイのことが好きだよ。」


ふと、二人の手が焚き火の明かりの中で触れ合った。

握りしめるでもなく、ただそっと触れるだけ。

けれど、それだけで十分だった。


互いの想いは、もう確かに伝わっていた。


火の粉がぱちんと弾け、夜は静かに更けていった。

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