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「神様仏様リディア様!今日も可愛いね!!だからお願い!少しまけてくれない?今月全然魔獣狩れなくてさ、金欠なの…!」
「もーお兄さん、上手いんだから。仕方ないな、銅貨三枚おまけしてあげる!」
「リディアちゃん、俺もー!」
夕暮れ、街の外れの木造長屋の一角。武器屋から冒険者たちの笑い声がこぼれる。
この長屋は、村人たちが効率を重んじて壁を取り払い、一つの大きな空間に三つの店を並べたものだ。いくつもの店が肩を並べるその造りは、村ならではの寄り合い所のような雰囲気を持っていた。
「ええ!?まあいいよ。今度もまたうちの店で買ってよねー!」
壁に吊るされた剣や槍は赤い陽に照らされ、刃先が淡く輝き、店内は小さな戦場のようだった。しかしそこに立つ女主人が笑えば、その場は一瞬にして陽だまりに変わる。
赤茶の髪を高く結んだポニーテールは、元気よく跳ね、彼女の動きに合わせて左右に揺れる。笑うたび、そばかすが頬に浮かび、白い肌の上で小さな星のように瞬いた。客の無茶な値引き要求さえ、彼女が「まあいいよ」と笑って答えれば、まるでそれが当たり前のことのように感じられてしまう。
「おいおい、そんなんだと店が破産するだろうが…」
低く呆れた声が横から落ちてくる。リディアの隣、無骨な体格の青年がカウンターに腕を組んで立っていた。
短く刈った黒髪、日焼けした肌、右耳で光る銀のピアス。力仕事で鍛えられた腕には細かな傷がいくつも刻まれている。道具屋を営む青年――カイルだ。
「げ、カイルさん」
「お前らもちょっとは遠慮しろよ。ほら、閉店だ。買ったらもう帰った帰った」
客たちを追い出すように手を払うカイル。
冒険者たちは「リディアちゃんまたね〜」と笑いながら去っていき、残されたのは木の床を踏む靴音と、沈む夕日の赤。
ふっと静まり返った店で、リディアは両手を腰に当て、むっと頬を膨らませた。
「もー!カイは真面目なんだから!お得意様だからご贔屓にしてるだけですー!」
「はいはい」
「はいは一回!」
口を尖らせて詰め寄るリディアに、カイルは顔をしかめながらも視線を外さない。その眼差しは、彼女が気づかぬほど長く、深く留まっている。軽口に覆われているが、その奥底に潜む感情は、彼自身でさえ時に持て余していた。
「でも冷静になって考えてみろ。銅貨三枚なんて、ひと月で見れば大損だぞ」
「えー、大丈夫だよ。ほら、うちのお客さん、結局また戻ってきてくれるもん」
リディアは腰に手を当てて笑い、まるで陽光の一部になったかのように無邪気だった。
だがカイルの心はまた少しざわつく。小さな店の片隅、目立たない影に潜むささくれだった感情も、彼女の笑顔で見えなくなる。
「……お前は昔から変わんねえな」
「え?」
「いや、なんでもない」
彼はそっと視線を逸らし、武具が当たって所々欠けたカウンターに指を滑らせる。ざらついた感触に、長年のリディアへの想いと見守る個人的な想いが交錯する。
リディアはその目線をたどり、頬を少し赤くしながらも穏やかに笑う。
「ありがと。でも、そうやって気にかけてくれるのも、ずっと昔から変わらないね」
「…………」
「ねえ、カイ」
「なんだ」
「これからも頑張るから、隣で見守っててよ」
その言葉に、カイルの肩が一瞬だけ緊張する。だがやがて苦笑を浮かべ、肩をすくめた。
「柄にもないこと言っちゃった。そろそろ帰るね。また明日!」
「ああ」
手早く帰り支度をし、足早に去るリディアの後ろ姿を見送りながら、目を細める。
「お前に言われなくても、勝手に隣にいるよ」




