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第八章 告白革命

王宮のバルコニーから、王は集まった民衆に向かって立った。僕たち一行も王の隣に並んだ。ドラゴンの巨大な姿は、民衆にとって衝撃的な光景だったに違いない。


王は深呼吸をしてから話し始めた。


「我が民よ、今日、私はあなたたちに重要なことを話さなければならない」


民衆は静まり返った。王の深刻な表情が、ただならぬ事態を予感させていた。


「我々は長い間、物語の中で生きてきました。勇者と魔王、善と悪、明確な役割分担の中で」


民衆がざわめき始めた。


「しかし、その物語は...作られたものだったのです」


王の告白は勇気のいる行為だった。自分の権威の根拠を否定することになるからだ。


「王よ、何を言っているのですか?」群衆の中から声が上がった。


「私は皆さんに嘘をついていました。いえ、私自身も騙されていました。魔王は存在しません。我々はただ、物語を繰り返していただけなのです」


民衆の動揺は激しくなった。しかし、完全に拒絶する声は意外に少なかった。


一人の老人が声を上げた。


「実は...私も薄々感じていました。毎回同じような事件が繰り返されることを」


若い女性が言った。


「私も疑問に思っていました。なぜ魔物は必ず悪いのかと」


民衆の中で共感の声が広がり始めた。彼らも無意識のうちに疑問を抱いていたのだ。


僕は前に出た。


「皆さん、僕は異世界から来た勇者ということになっています。でも、僕は魔物を倒すために来たのではありません。この世界の皆さんと、新しい関係を築くために来たのです」


ドラゴンも声を上げた。


「我々は敵対する必要はない。対話することができる。理解し合うことができる」


民衆は驚いた。ドラゴンが穏やかに話すことに。


「でも」誰かが叫んだ。「物語がなくなったら、我々はどう生きればいいのですか?」


これは核心的な質問だった。物語は生きる指針を提供していた。それがなくなれば、人々は途方に暮れるかもしれない。


女性が答えた。


「新しい物語を創ることができます。一人一人が主人公の、多様な物語を」


「しかし、それは混乱を招くのではないでしょうか?」別の声が上がった。


「混乱は一時的なものです」王が言った。「そして、その後に来るものは、より豊かで自由な世界かもしれません」


民衆の中で議論が始まった。賛成する者、反対する者、戸惑う者。様々な反応があった。


しかし、その時、予期しないことが起こった。


空が突然暗くなったのだ。雲が異常な速度で集まり、不気味な雰囲気が漂った。


「何が起こっているのだ?」誰かが叫んだ。


女性が緊張した表情をした。


「これは...物語の反撃かもしれません」


「物語の反撃?」僕は聞いた。


「物語は自己保存の本能を持っているのかもしれません。我々が物語を解体しようとすることに対して、物語が抵抗しているのかもしれません」


空から声が響いた。それは誰の声でもなく、あらゆる声の混合のような不気味な響きだった。


「愚かな者たちよ。物語を破壊しようというのか。物語なくして、汝らは存在し得ない」


民衆は恐怖に震えた。この超自然的な現象は、彼らの常識を超えていた。


僕は空に向かって叫んだ。


「僕たちは物語を破壊しようとしているのではありません!新しい物語を創ろうとしているのです!」


「新しい物語?」空の声は嘲笑した。「汝らに何ができるというのか。汝らは物語の産物に過ぎない」


ドラゴンが立ち上がった。


「我々は物語の産物かもしれない。しかし、物語を生み出すこともできる」


「不可能だ」空の声は断言した。「汝らに創造の力はない」


そのとき、僕は重要なことに気づいた。


「待ってください」僕は言った。「この声との対話も、また一つの物語なのではないでしょうか?」


空の声が沈黙した。


「僕たちが物語と対話することで、新しい物語が生まれています。対話そのものが創造的行為なのです」


女性が僕の言葉を受けて言った。


「そうです。我々は今、物語を生きているのではなく、物語を創っているのです」


王も頷いた。


「この瞬間、この対話、この選択。全てが新しい物語の一部です」


民衆も理解し始めた。


「我々は物語の受け手ではなく、創り手なのですね」


「そうです」僕は言った。「一人一人が物語の創造者です」


空の声が再び響いた。しかし、今度は威圧的ではなく、困惑しているように聞こえた。


「しかし...秩序は...統一は...」


「多様性こそが豊かさです」ドラゴンが言った。「統一された物語よりも、多様な物語の方が興味深い」


「でも...予測可能性は...」


「予測可能性は安全ですが、成長を阻害します」若い冒険者が勇気を出して言った。


空の声はしばらく沈黙していた。そして、ついに言った。


「理解できない...しかし...興味深い」


この反応は意外だった。物語の声が「興味深い」と言ったのだ。


「もしかして」僕は言った。「物語自身も退屈していたのかもしれません。同じパターンの繰り返しに」


「退屈?」空の声は疑問を呈した。


「そうです。創造とは、既知のものから未知のものへの跳躍です。物語も成長したいのではないでしょうか?」


長い沈黙の後、空の声は言った。


「試してみよう」


これは驚くべき展開だった。物語自身が変化を受け入れようとしていた。


空の雲が散り始めた。しかし、それは元の状態に戻るのではなく、新しい形に変化していた。


「何が起こっているのですか?」民衆の一人が聞いた。


女性が答えた。


「物語が進化しています。我々と共に」



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