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第七章 「権威(フィクション)」

王宮への道中、僕たちの奇妙な一行は多くの注目を集めた。勇者、ドラゴン、騎士団、冒険者、そして謎の女性。この組み合わせは確実に前例がなかった。


「人々が見ています」若い冒険者が呟いた。


確かに街の人々は僕たちを見つめていた。しかし、その視線には恐怖よりも好奇心が含まれていた。ドラゴンが暴れることなく人間と歩いている光景は、彼らの常識を覆すものだった。


「あれは本当にドラゴンか?」


「勇者様と一緒にいるということは...」


「もしかして、魔物と人間が協力する時代が来たのか?」


人々の囁きが聞こえてきた。彼らの中にも疑問が芽生え始めていた。


女性が僕に言った。


「見てください。物語の変化が人々に影響を与えています」


確かにその通りだった。僕たちの行動が、この世界の常識を揺るがしていた。


王宮に到着すると、衛兵たちは困惑した。ドラゴンが一緒にいることに驚き、どう対応すべきかわからないでいた。


騎士団長が衛兵に説明した。


「勇者様が王にお会いしたいとのことだ」


「しかし、ドラゴンが...」


「ドラゴンも一緒だ。問題があるか?」


衛兵は上司に確認を取りに行った。しばらくして、宮廷の高官が現れた。


「これは異例のことです」高官は言った。「ドラゴンを宮廷に入れることはできません」


ドラゴンが口を開いた。


「なぜいけないのか?」


高官は驚いた。ドラゴンが話すことに。


「それは...ドラゴンは危険な存在だからです」


「私が誰かを傷つけたか?」


高官は答えることができなかった。


女性が介入した。


「私たちは皆で王に会う必要があります。分けることはできません」


「しかし、規則が...」


「規則は誰が作ったのですか?」僕は聞いた。


「それは...伝統的に...」


「その伝統の根拠は何ですか?」


高官は困惑した。多くの規則や伝統が、明確な根拠なしに維持されていることが明らかになっていた。


騎士団長が言った。


「私が責任を取る。何か問題があれば、私の責任だ」


高官は躊躇したが、最終的に僕たちを宮廷に案内した。


王座の間は荘厳だった。高い天井、豪華な装飾、そして王座に座る王。王は中年の男性で、威厳に満ちた外見をしていた。しかし、僕たちを見た瞬間、彼の表情に困惑が浮かんだ。


「これは...予期しない訪問ですね」王は言った。


僕は前に出た。


「王様、僕は召喚された勇者です。いくつか質問があります」


「質問?」王は眉をひそめた。「魔王討伐の準備ではないのですか?」


「その魔王についてお聞きしたいのです」僕は言った。「魔王は本当に存在するのでしょうか?」


王座の間が静まり返った。この質問は誰も予期していなかった。


王は長い間沈黙していた。そして、ついに口を開いた。


「魔王...魔王とは何でしょうね」


この答えは曖昧だった。王は直接的な答えを避けていた。


女性が前に出た。


「王様、私たちは真実を知りたいのです」


王は女性を見つめた。その視線には認識があった。


「あなたは...管理者ですね」


「はい」女性は認めた。「そして、あなたも」


王も管理者だった。これで全てがつながった。


「王様」僕は言った。「この世界は物語によって構成されているのですか?」


王は深くため息をついた。


「そうです。そして、私もその物語の一部です」


騎士団長が驚いた。


「王が...物語の一部?」


王は騎士団長を見た。


「申し訳ありません、忠実な騎士よ。私は王としての役割を演じていましたが、真の権威者ではありませんでした」


騎士団長の世界観が崩れていく様子が見えた。


「では...私の忠誠は...」


「無意味ではありません」王は言った。「しかし、その対象を再考する必要があるかもしれません」


ドラゴンが言った。


「我々は皆、騙されていたのだ。しかし、同時に騙す側でもあった」


これは深刻な認識だった。管理者と被管理者の境界が曖昧だった。


「では」僕は聞いた。「真の管理者は誰なのですか?この物語を本当にコントロールしているのは誰ですか?」


王と女性は顔を見合わせた。


「それは...」王は言いかけて止まった。


「我々にもわからないのです」女性が認めた。


これは衝撃的な告白だった。管理者すら、真の管理者を知らなかった。


「では、この物語は誰も完全にはコントロールしていないということですか?」


「そうかもしれません」王は言った。「物語は自律的に動いているのかもしれません」


自律的な物語。これは恐ろしい概念だった。誰もコントロールできない物語の中で、僕たちは踊らされているのかもしれない。


若い冒険者が言った。


「でも、僕たちは今、物語を変えようとしています。それも物語の一部なのでしょうか?」


これは鋭い質問だった。物語への反抗も、より大きな物語の一部である可能性があった。


「わからない」僕は正直に答えた。「でも、わからないからといって何もしないのは間違いだと思います」


王が立ち上がった。


「勇者よ、あなたは正しい。不確実性の中でも行動しなければならない」


「王様は僕たちに何を望みますか?」


王は考え込んだ。


「私は...この役割に疲れました。王として、物語の一部として存在することに」


「では、役割を降りてはいかがですか?」


「それは可能なのでしょうか?」


女性が言った。


「試してみる価値はあります。私たちは皆、新しい存在の仕方を模索しています」


そのとき、宮廷魔術師が現れた。彼は慌てた様子だった。


「王よ!大変なことになりました!」


「何が起こったのですか?」王は聞いた。


「民衆が宮廷の周りに集まっています!彼らは勇者とドラゴンを見て、疑問を持ち始めています!」


これは予期しない展開だった。僕たちの行動が、より大きな社会的変化を引き起こしていた。


「どのような疑問ですか?」僕は聞いた。


「彼らは言っています。『なぜドラゴンと人間が協力できるのに、我々は魔物を恐れなければならないのか』『物語で語られていることは本当なのか』と」


民衆の覚醒が始まっていた。物語への疑問が広がっていた。


王は窓に近づき、外を見た。


「本当に多くの人が集まっていますね」


「王様」僕は言った。「民衆に真実を話してはいかがでしょうか?」


「真実?」宮廷魔術師が驚いた。「それは危険です!民衆が真実を知れば、この世界の秩序が崩壊します!」


「その秩序は本当に必要なのでしょうか?」女性が聞いた。


宮廷魔術師は困惑した。


「秩序がなければ...混乱が...」


「混乱は悪いことなのでしょうか?」ドラゴンが聞いた。「混乱は新しい秩序の始まりかもしれません」


これは重要な選択の瞬間だった。現状維持か、変革か。安定か、可能性か。


王は決意を固めた。


「民衆に話しましょう。真実を」



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