※ 転生者に出会った転生者
「本当に神殿みたいになってる……」
緑に覆われた世界にあるのは、以前まであった洞窟型のダンジョンとは大きく異なる外観。
ひび割れた柱や屋根があったであろう形跡だけ残っているその建造物は、存在しない歴史を感じさせるほどである。
「神殿って言っても、ホントに形だけね。ここには祀ってる神なんて存在しないし、見よう見まねで作ったみたい」
「カーリーにしては冷静なんだね。僕は前あった洞窟と全然違って驚いたよ」
「してはってどういう意味よ!!こんなの誰が見ても分かるわよ!」
「ごめんごめん。じゃ、行こうか」
神殿の中に入ると、そこは別世界。以前はただの道が作られていたそこは、大きな橋がかけられた広い空間。橋の先には大きな城のようなものが建てられており、橋の下にはマグマの海が広がっている。
大規模なダンジョンはコアの持つ魔力によって空間を歪めるものもあるが、ここはその大規模ダンジョンの特徴によく似ていた。
つい二週間前は小規模ダンジョンだったここが、だ。
「B級の報告書と全然違うわね。以前の面影があったって書いてあったのに、そんなのないじゃない。変な城建ってるし、マグマで泳いでる魔物もいるし」
「まだ変化し続けてるってことなのかな……どうする?一旦戻る?」
「そんなの有り得ないわ。大体大規模ダンジョン程度なら何度も掃討任務はこなしてるでしょ。このまま進んで最深部にいるボスをぶっ飛ばすわよ!」
「そう言うと思った」
驚きもあるが、僕らが感じてるのは久しぶりの冒険の気配。二年前異世界に来た時に感じたワクワク感を思い出すこのダンジョンを見て引き返す選択肢は、僕らには残されていなかった。
先へ進もうと思いカーリーが歩みを進めたその時、マグマの海から飛び出してきた小さなトカゲのような魔物。サラマンダーだ。
「邪魔よ」
サラマンダーは大きな火球で攻撃しようとしたが、カーリーの素早い斬撃により真っ二つに割れ消滅した。
サラマンダーの死骸があるであろう位置には小さな赤い魔石が転がっていて、僕はそれを拾いに動いた。
赤い魔石。それを見た時、ある違和感に気づいた。
――――似ている。転生者の魔力に。
魔力というのはこの世界に生きる人々の魂に備わっている力であり、そのため魔力保有量が増えれば増えるほど魂が強化され寿命が長くなるという特性を持つ。
しかし転生者はその魂に備わっている魔力というのが存在せず、転生時にその力を女神に与えられているため、魔力を使用することができるようになる。
だがここで異世界人との決定的な違いが現れる。通常であれば微々たる違いであり、気づくことはない。例え転生者同士であっても。
それでも僕が気づくことが出来たのは、僕が転生したばかりの時に出会った彼のおかげだ。
低ランク冒険者であった僕が遺物を所持していたことで尋問を受けた際に紹介された、同じ転生者でありこの世界では賢者をしている彼から教えてもらったことで、見分け方を知ることができた。
だから間違いない。このダンジョンを進化させたのは、同じ転生者だ。
しかし、ダンジョンを進化させるということはどういうことだろうか。魔族はダンジョンを故意に進化させることが出来るというが、もしや転生者は魔族であり人類へ敵対しているのだろうか?
(そうだったら僕は同じ転生者を殺すことになる、のか?)
「ちょっと!魔石をずっと見つめてなにしてんのよ!」
「……このダンジョンを進化させたのは転生者だ。僕と同じ」
「え!?じゃああの城から感じる大きな気配は転生者ってこと!?どうして……いいえ。女神様が送ったってことはきっと何か意味があるわ。第一、会ってから問い詰めてやればいいのよ」
「……うん、そうだね。カーリー、ありがとう。」
「何よいきなり……ほら!そうと決まれば早く行くわよ!」
カーリーのこういうところは、深く考えがちな僕をいつも助けてくれる。
だから、少し恥ずかしいけど感謝を口にして、僕たちは先へ進んだ。
「おっしゃああああああたしの勝ちよ!図体だけデカくても大したことないわね!あは、ははははは!」
「危ない危ない。魔石に防御魔法かけといて良かった……」
いつもの悪癖はあったが、魔石は無事であるため良しとしよう。
――――ダンジョン内。城前にて
カーリーのおかげであっさりと城前までは到達出来た。出てくる魔物がそこまで大型でないせいか暴れる回数も少なく済んだことも幸いだろうか。……ゼロではないが
大きな扉だが、僕たちが近づいた時に自動で開き、内部へと誘われる。
こういう仕掛けは中規模以上のダンジョンでありがちなもので、特に驚きもせず僕たちは中へ入る。
それと同時に扉が閉まり、城へ閉じ込められる形になる。
「閉じ込められたわね。まああたしには無駄だけど」
「ただ扉が閉まっただけみたいだね。魔法がかけられてなくて良かった」
外はマグマの海が広がっていたというのに、それを感じさせないほど城内は暗く、冷たい空気が漂っている。
広い空間と扉は沢山あるが、内装は作り込まれておらず生物の雰囲気すら感じない。まだ作りかけなのだろうか。
「なにもないね。カーリー、魔物の気配は感じる?」
「一つ、大きな気配を感じるわ。階段を上がった先の……多分玉座の間かしら。それにしても、とんだハリボテね」
「そうだね。まだ進化を続けているのかもしれない。……行こう。玉座の間へ」
階段を上り一際大きな扉を開けると、ハリボテだった城内と違って作り込まれた空間が広がっている。その中心で眠っているのは、竜だった。巨大な、赤い竜。伝説上に出てくる存在がこんなところにいるとは考えにくい。何者かが幻影を見せていると言われた方が納得できる。
しかし、その何者かで一番有力な転生者らしき姿は見当たらない。隠れているのだろうか?
「レッドドラゴン……!?コアの見せる幻影かしら?まあいいわ!仕留めた後で確認すれば!」
カーリーが走り出しドラゴンの首へ飛び上がり、剣を振り下ろす。が、聞こえてきたのはドラゴンの首が斬れた音でなく、剣が弾かれた音。ドラゴンには傷一つついていなかった。
仕掛けたからだろうか。ドラゴンが大きな欠伸と共に目を覚まし、こちらを睨み付けてくる。
「ちっ!久しぶりに骨が折れそうな相手が来たわね!ユウ!」
「わかってる!」
ドラゴンの射程範囲外へと走りながらカーリーへ防御魔法と補助魔法を付与する。
強大な相手に僕の魔法や武器は通じない。だから僕に出来ることはカーリーを支援することだけ。
しかしそうやって僕らは生き残ってきた。大規模ダンジョンのボスだって倒してきた。
だから今回も上手くいくと信じて、カーリーを信じる!
『待て待て待て待て落ち着け!』
「落ち着いてられないわ、よ!」
再度カーリーが剣を振り下ろすが、先ほどと違い大きな金属音が鳴り響き、弾かれた。
剣では攻撃が効かないと判断したカーリーは魔法を唱え氷の槍を相手に降り注がせる。
ドラゴンの頭を正確に狙ったその攻撃はどこからか現れた炎の壁によってかき消される。
『話くらい聞け!お前たちと敵対する気はない!』
「そんな話信じられると思う!?ドラゴンの後ろで隠れてないでとっとと出てきなさいよ!転生者!」
『転生者!?俺の後ろにいるのか!?』
顔へと魔法を絶え間なく降り注がせるカーリーに、それを防ぎながら背後を確認するレッドドラゴン。
……まさか
「カーリー!攻撃を止めてくれ!」
「冗談はやめて!ブレスに焼かれたいの!?こいつを倒して隠れてるやつを引きずり出さないと!」
「そのドラゴンが転生者だよ!……ですよね?ドラゴンさん」
「は?」『え?』
僕がそう言うとカーリーとドラゴンはお互い魔法を止めて呆けた顔をしている。
『君も転生「う、噓でしょおおおおおおおお!?」うるさ…………』
ドラゴンの念話をかき消すほどのカーリーの叫びが玉座の間に反響する。
同じ転生者と話せるまで、あと……
次は竜吾視点です。