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※ ドラゴンと友になりたい男の苦悩。

「はあ……」


 冒険者ギルドカヴァランス支部執務室。そこで大きなため息をついている男が一人。

 男の名は、リカルド・ゼン。カヴァランス支部のギルドマスターであり、現在大量の報告書を眺めて頭を抱えることになったことへの不運を嘆く人間でもある。


(都市を一週間ほど離れただけなのに、何故こんなにも報告書があるんだ)

「はあ……あーあ……」


 ため息をつくと幸せが逃げるとはよく言ったものだが、その言葉を信じるのであればもう既に一生分のため息をついている。

 そんなリカルドの頭を悩ませているのは、カヴァランス近郊に存在するエーレ大森林の大異変の報告書が大半を占めている。


 二週間前、エーレ大森林にて起こった小規模な異変。

 それは魔物の動きが少し変化したり、空気が重く感じるという様子からダンジョンから魔物が溢れることによって発生するスタンピード現象の前触れかのように思われた。

 しかし、大森林のダンジョンには異常なく、森の異変自体も数日経てばほぼ収まったので大した問題ではないと認識していた。


 だが、それは大きな間違いだった。森の異変解決から一週間後、ダンジョンの定期掃討へと向かったB級冒険者パーティーから異常が報告された。

 曰く、入口は炎が燃え盛る神殿のような外観へと変化しており、内部は以前の面影を少し残していはするもののほとんど別世界だと。

 魔物も変化しており、シャングウルフは全身から炎を纏わせていたり、本来エーレ大森林のダンジョンに存在するはずがないサラマンダーが確認されたりと、出現する魔物が火属性へと変化したことから、ダンジョンコアの進化であると判断された。


 幸いB級パーティーはリーダーの判断により負傷者を出さずにダンジョンから脱出したが、ギルドに帰ってきたリカルドを待っていたのは書類の山であった。

 それを見たリカルドはすぐさま副ギルドマスターへ何が起こっているのか状況説明を求めようとしたが、彼女も書類の山に忙殺されていた。

 あれが未来の自分の姿だと思うと、今すぐ逃げ出したい気分だった。

 今ならこう思える。逃げ出せば良かったと。


(そもそもエーレ大森林のダンジョンは非常に小規模なものだ。いきなり神殿になったりするものか。いや、なってるんだよなあ……)


 そもそもダンジョンというのは、ダンジョンコアという魔物が周囲を領域化することによって発生する建造物などの総称であり、スタンピード現象というのはダンジョンコアが進化することで溢れ出る魔力で生成された魔物たちがダンジョンから放出される、いわゆる魔物災害の一種である。


 ダンジョンコアが進化する条件はただ一つ。コアへと貯蓄された魔力が一定量を超えた場合に発生する。そのため冒険者ギルドではダンジョン内の魔物を定期的に掃討する依頼を発行し、それは現存する全てのダンジョンで行われている。

 エーレ大森林のダンジョンも例外でなく、定期掃討は欠かさず行っており進化する兆候はなかったはずだ。

 仮に進化するとしても、あのダンジョンの属性は風であり、いきなり火へ属性が変化するというのは有り得ない。


(しかし、何が原因なんだ?魔族の仕業か?いや、魔族はここ100年動きを見せていない。そもそもここは第三防衛都市。真っ先に攻撃を仕掛けるとは考え辛い。ああああ!もうわからん!!)


 半ばヤケクソ状態となっている彼は、椅子から立ち上がり窓の外を眺めることで現実逃避を図る。

 まだまだ書類は残っている。他都市への報告、変化したダンジョン攻略へと向かわせる実力ある冒険者の手配からお偉方への説明などなど……

(やめてえ……こんなことなら冒険者を続けるべきだったか)


 以前のリカルドは他と変わらない、夢見る冒険者の一人だった。違うのは、冒険者の到達点と呼ばれるS級まで一人で上り詰めた実力者でもあることだろうか。

 彼の夢はいつかドラゴンの上位種と友になること。ドラゴンを手懐けている者は少しいるが、上位竜を手懐けたものは歴史上一人も存在しない。

 リカルドはあくまでも使役でなく対等な関係になりたいという夢だが。


 しかし、上位種は見ることさえ不可能に近いと言われており見つからない。

 三十路に突入し、諦めかけていた時に誘われたのが、ギルドマスターになったきっかけだった。

 それでも心のどこかで、まだ諦めていない自分もいる。


(…………いつか、なあ)


「ギルドマスター。今お時間よろしいですか?」


 物思いに耽っていたリカルドの耳へコンコンコンというノックの音が入ってくると同時に現実に引き戻される。

 仕事をサボっていたことをバレないように椅子へ座り書類へと目を向けながら「入っていいぞ」と言うと、「失礼します」という声と共に扉が開いた。


「エレナさんか。どうしたんだ?」


 そこにいたのは受付嬢の中でも長く勤めているエレナ・シャープであった。

 リカルドが冒険者時代の時から受付をしているが見た目がほとんど変わっておらず、不老不死ではないかと囁かれている。本人は否定しているが。

 尚、彼女の年齢について話すのはタブーである。


「はい。変化したダンジョンの攻略を依頼する冒険者リストを作成いたしましたので、ご一読ください」


 そう言って渡された紙には複数のA級~B級冒険者パーティーの情報が書いてあるリスト。

 一通り目を通すが、一切詳細が不明なダンジョンにB級は向かわせられない。万全を期してA級を向かわせたいが……


「これはまた、曲者揃いだな。これだけか?他に候補者は?」


「現在カヴァランスにいる冒険者の中で、攻略の可能性があるのはこれだけですね」


「それなら俺が行く「ダメです」…………」

 食い気味で拒否された。だよなあ……

 だとするなら、A級の中でもS級に近い実力を持つこのパーティーに決まりだろうか。


「【遺物(アーティファクト)持ち】のユウ。こいつのパーティーにしよう。早速呼んでくれるか?」

今回から竜吾視点でないものに『※』をつけます。

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