牛肉味の飴玉って、何だ?
はあ……人間と接触出来たのはいいものの、あまりの勢いに押されてドラゴンらしい話し方が出来なかった……と、落ち込んで歩いていると目的地に到着した。
――――前見た時も思ったが、デカい洞窟だな。
ドラゴン一匹が入れるくらい大きな穴に、内部は整備された道が広がっている。
しかし、どうにも人の手が加わっているようには見えない。不思議な場所だ。
何故か居心地が良いようにも感じるし、やはりここを寝床とすべきか。
その時、奥から何かが歩いて来るのを感じた。
目を向けるとそこにいたのは外にもいたイノシシの魔物。だが外とは違い、こちらへ強い敵意を向けている。
これが威嚇の切れた効果か?丁度いい。少し腹も減っているし俺の胃袋に収まってもらうとしよう。
イノシシはこちらへ突進してくるが、俺はドラゴン。当然当たっても傷一つつかず、あっさりと俺の爪で倒れた。
魔物とはいえ、こうも力の差がある相手に突っ込んでくるものだろうか?外にいたあいつらはしっかりとした動物なりの本能に従って動いていたように感じたが。
まあ、俺としては腹ごしらえ出来るからいい……が……?
「グァ!?」
はあ!?俺の仕留めた魔物が消えてる!?一体どうなってんだ!?
先ほど仕留めたであろう魔物の位置には小さな石のようなものが転がっていて、死体は綺麗さっぱり消えている。
ここは洞窟ではないとは思っていたが、これでようやく確信出来た。
恐らくゲームでよくあるダンジョンか、その類のものだろう。
そして魔物は沢山いる。であればやることは一つだ。
スキルを試させてもらう。地上ではなかなか場所に困るが、ここはダンジョン。
相手も場所も整っている。活用しない手はないだろう。
丁度オオカミの魔物がこちらに向かってくる。【咆哮】や【威嚇】は効果を確認していて、スキルの使い方もなんとなく分かるようになってきた。
脚に嚙みつかれるその瞬間、足に力を込めて【硬化】を発動させてみた。
結論から言うと、オオカミの歯が砕けた。何が起こったかわからないようで俺の脚に嚙みついたまま固まっていて、その様子に自分がやったことだというのに少し申し訳なく感じてきたのでトドメを差し、先へ進むことにした。
歩きながら思考を巡らせる。スキルの実験という課題だが、試していないのはあと【ドラゴンブレス(炎)】【魔力操作(炎)】【領域作成(炎)】【再生(強)】の四つだろうか。
この中だと一番気になるのは【魔力操作(炎)】だろうか。
説明は確か、”魔力を消費して炎を自在に操ることが出来る。消化も可能”と書いていた。
どうすれば使えるのだろうか。とりあえず、今までスキルを使った時みたいに強く念じてみる。
…………駄目だ。何も発動しない。
そもそも魔力というのはなんなのだろうか。概念は分かる。ただ、自分の中にそういう力があるという実感がないのは困った。
次第に俺は考えるのが面倒になって、襲ってくる魔物を【硬化】の実験台にしながらダンジョンを進んでいった。
――――ここが行き止まりか?
歩いていくと大きな扉を発見する。他に道などはなく、先へ進むにはここを開けるしかなさそうだ。
ゲームで例えるならば、ここはボス部屋だろうか。
力を込めて扉を押してみると、重い音と共にゆっくりと開く。
足を踏み入れると扉は閉まり、だだっ広い空間に人影を見つけた。
そこにいたのは、牛の頭と人間の体を持つ魔物。手には大きな斧を持っている。
ミノタウロス、だろうか。そいつはこちらを見るや否や今までの魔物と同じように襲ってくる。
「ブモォォォォ!」
マズい。俺のこの体じゃ避けることは出来ない。
当たる寸前に【硬化】を発動させ、斧と鱗がぶつかり合う。響く金属音と、飛び退くミノタウロス。
素早いな。だが、俺を殺せるほどの力はなさそうだ。
自分の一撃が弾かれたからだろうか。ミノタウロスはこちらを警戒している様子で突っ込んでこない。
他の魔物に比べて知能が高いな。
相手の方が素早いのであればだ、やるしかないだろう。アレを!
そう!ドラゴンブレスだ。ドラゴンに憧れを抱く者ならば誰もがやってみたいと夢にまで見るドラゴンブレス!
地上では森が燃えて大変なことになるだろうし、ダンジョンで試していたのは主に【硬化】や【魔力操作】だ。魔力操作に至ってはなんも発動しなかったが。
ミノタウロス、感謝する。ここで俺にドラゴンブレスを使う機会を与えてくれたことを。
相手はこちらがどう動くか伺っている。では見せてやろうとも。
大きく息を吸い込んで、口腔に力を込める。
本能が理解している。段々力が集まってくるのを感じる。
ああ、これが魔力というやつだろうか。今なら分かるような気がした。
喰らえ!ドラゴンの必殺技を!
「ガアアアアアアアアア!!!!!!!!」
溜まった力を解放した瞬間、炎の息がミノタウロスへと襲い掛かる。
奴はブレスに反応する間もなく、飲み込まれていった。
「ブモォォォォ!オオオオオオオオオ!!!」
断末魔が鳴り響く。抵抗することすら許されず、ミノタウロスは燃え尽きた。
お、おお!おおお!おおおおお!
あのドラゴンブレスを、俺が放ったのだ!思っていたより小回りが利かないことが残念だがそれもまた嬉しい発見だ。
ああ、俺の夢がまた一つ叶った。俺は今、間違いなく日本にいた頃よりも幸せだ。
しばらく余韻に浸った後、何もいなくなった空間を見渡す。
ミノタウロスの居たであろう位置には大きな石が落ちており、それ以外には何もない。
ドラゴンブレスを撃ったせいだろうか。なんだか無性に腹が減っている。
そして俺の食欲は、認めたくないがミノタウロスの落としたものである大きな石へ向いている。
本当に食べるのか?これを?今から地上へ戻って新しい魔物を狩ればいいのではないか?
理性は拒否しているが本能は正直で、俺はその石を食べた。
石は飴玉みたいに口の中で溶けていく。
味は……何故だか牛肉味だ。牛肉味の飴玉だ。美味しくはあるが、少し複雑な気分になる。
ふう……満腹、とは言えんが充分空腹は満たした。
ドラゴンの腹を石で満たせるというのは不思議だが、もう考えないようにしよう。
正直言ってもう休みたいが、まだやるべきことがある。
まずは【魔力操作】だ。あの時。ドラゴンブレスを放ったその時、自分の中に眠っている力を知覚した。
多分だが、今なら使えると思う。
地面を燃やすイメージで、自身の中にある魔力を放出する!
瞬間、爆発音のような音と共に炎の柱が何本も立つ。
なるほどこうするのか。柱を動かすイメージをすれば柱が動き、柱を丸いボールに変えるイメージをすれば炎のボールに変化する。
これは、正直凄く面白い!魔法というものに魅力を感じる人間は現代にも沢山いたが、ドラゴンにしか興味がなかった俺はドラゴンがたまに使う付属品程度の認識だった。だがいざ自分が使うとこうも楽しいものだとは!
夢中になってしばらく遊んでいたが、ハッと我に返る。
そういえば、もう一つ使わなければならないスキルがあったんだった。
名残惜しいが一旦炎を消し、【領域作成(炎)】のスキルを発動させる。
領域作成の効果は”周囲を自分の領域に変化させる”というものだ。
説明が説明の意味を成してないが、そこはそれ。習うより慣れよという言葉がある。俺の好きな言葉だ。
ゴゴゴと地面が揺れ、周囲の何もない石で包まれた空間が徐々に広がっていくと同時に、マグマがどこからか流れ出る。
その光景を眺めていると、そこにあったのは先ほどまでとは全く違う景色。まさしく炎の領域そのものだった。
何もなかった場所は倍以上の広さになり、扉があった場所も崩れ、一本道の通路が繋がっている。
向こう側にはさっきまで歩いてきたダンジョンの景色とは大きく異なった炎で包まれた空間。どうやらあちらも俺の領域に含まれていたようだ。
周辺はマグマで明るく照らされ、玉座のようなものからマグマ風呂のようなインテリアまで。
天井も広がりドラゴンの俺にとって過ごしやすい空間にリフォームされている。
ここが自分の領域、というものなのか。どう考えてもダンジョンごと作り変えているように見えるのだが、深く考えないようにした。俺にとっては過ごしやすいしな……
それよりもスキルを沢山使ったせいだろうか。なんだかとても疲れた。
次に目を覚ました時、人間がいないことを祈って俺は眠りについた。
すみません。出来る限り毎日投稿を心掛けているのですが遅くなりました。
4話5話にもセリフや展開に少しだけ改変を行っています。