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※ 『なんでこんなことに……!』

 ―――――――第三防衛都市【カヴァランス】

 魔族の侵攻に対抗するため生まれたこの都市は戦争時の補給所として活用されており、人種や身分に関わらず様々な者が多く行き交い、交易都市としての役割も果たす人類にとっての重要拠点である。

 また、この都市に存在する冒険者ギルドは国の中でも有数の場であり、数多くの英雄や実力者を輩出していることでも知られている。

 カヴァランスで夢を追うために訪れる若者も多く存在し、そしてその多くが叶えることなく生涯を終える。

 しかし夢追い人は尽きることなく、ここ冒険者ギルドカヴァランス支部は今日も多くの人で賑わっている。


「え~!また採取依頼~!?」

 多くの人が語り合っているギルドの中、一際大きな声が響く。

 声の持ち主の名は、アリシア・フラッグ。身の丈よりも大きな剣を携える彼女もまた、夢追い人の一人である。


「あのねえアリシア、採取も立派な冒険者の仕事よ!選り好みしない!」

 杖を持った少女が、依頼書を机に叩きつける。

 腰掛けている二人は目を向ける様子もなく、どこか不満気だ。


「それはわかってるけど~……ねえ、リリアナ。私たちせっかくD級に上がったんだよ?そろそろ討伐依頼とかやりたいよ~!」


「アリシアと同じ意見なのは癪だが、俺だって毎日毎日草やキノコばっか採るのももう飽き飽きだぜ!」

 そう言ったのは、斧を携えた体格の良い青年。


「そうそう!って、ガウル!それどういう意味よ!」


「はぁ……」


 彼女たちは、D級冒険者パーティー【英雄の誓い】。

 戦士のガウル、剣士のアリシア、そして魔法使いのリリアナ。

 英雄譚に憧れを抱き村を飛び出してきた、この都市では珍しくもない結成一か月の新米冒険者たちである。


「とにかく!これを見てから文句言ってみなさい!普通の採取依頼じゃないんだから」


 リリアナは賑やかな幼馴染二人の頭に拳を軽く振り下ろし、机に置いた依頼書へと目を向けさせる。

 最初は文句を言っていた彼女らも、依頼の内容に目を丸くする


「え~何々……エーレ大森林における輝きキノコの採取および魔物の動向調査依頼……なんだこれ?」


「輝きキノコは時々採りに行ってるやつだよね?でも魔物の動向調査ってどういうこと?しかも、いつもより報酬がいいような……リリアナ、説明してよ~」

 動向調査依頼という聞きなれない単語にアリシアとガウルはいくつもの疑問を浮かべる。


「受付のエレナさんが言ってたんだけど、最近エーレ大森林の様子がおかしいみたいなの。

 本来好戦的なワイルドホーンボアが襲ってこなかったり、奥地に魔物が全然いなかったり……スタンピードの前兆かもって」


「魔物の集団暴走か……でもあれってダンジョンから溢れ出した魔物が引き起こす現象だろ?エーレ大森林のダンジョンに問題なんてなかったはずだぜ?」


「そ!れ!に!どうして私たちに?調査依頼ってもっとランクの高い冒険者の仕事でしょ?」


 冒険者ギルドの依頼というのは、受付が冒険者達に個別に割り振るもので、D級の場合だと大抵採取や討伐依頼が舞い込んでくる。

 C級に上がってようやく調査依頼やダンジョンの探索が許されるため、実力の低いD級に調査を依頼するというのは、おかしい。

 それはこの中の誰もが理解している。


「私もそれは疑問に思ってエレナさんに同じことを聞いたわ。

 あくまでも採取がメインで調査はおまけみたい。他の冒険者にも頼んでるみたいだし。

 異常のあるなしに関わらず、輝きキノコと報告書を提出すれば依頼達成。報酬もいつもよりいいし受けない理由はないわよね?」


 夢追い人とはいえ、その日暮らしの冒険者。いつも通りの仕事に少しの労力を割くだけで報酬が多く貰えるというならば断る理由などあるわけもない。


「よーし!それじゃあ早速エーレ大森林にしゅっぱ~……」

 アリシアが立ち上がり号令を取ろうとしたその時、大きな音が鳴る。

 彼女の、腹の音であった。


「アリシア……」

「…………とりあえずいつもの勇者食堂、行くか?」

「…………うん」

 微妙な空気になってしまったことに恥ずかしさを覚え、彼女たちはギルドを出る。

【英雄の誓い】リーダーのアリシアは、肝心な時に締まらない。

 この後彼女は(今日の報酬が多い分沢山食べてもいいよね!)と開き直って大量の料理を食べ財布を軽くし、リリアナに怒られるのであった。





 ――――――――――エーレ大森林にて


「……確かに魔物が少ないね。それになんだか……」


 輝きキノコの採取は、普段よりも早く終わった。

 後は調査依頼を達成するだけなのだが、調査するまでもなく、全員が異常を感じていた。

 ……いつも見つかり次第襲ってくるワイルドホーンベアが襲って来ないどころか、他の魔物でさえ近づいて来ない。戦闘が一切発生しないというのは、初めてのことだった。


(それに、空気が重い。エーレ大森林って、こんなに怖かったっけ……)

 森に早く去れと言われているような。そんな錯覚を感じるくらい、空気が重い。

 木々が揺れる音でさえ不気味に感じるここは、以前依頼で訪れた時とは違う。まるで別世界のようだった。


「おいリリアナ!大丈夫か!?」


 そんな声が聞こえてリリアナの方に目を向けると、顔色が悪い。

 体がブルブルと震えていて、ガウルに支えられていないと今にも倒れそうだ。

 森に入った時から少し様子がおかしいとアリシアとガウルの二人は気づいていた。

 だが本人に聞いても「大丈夫」としか返ってこなかったため、気にする程度に留めておいたのだが、まさかこんなに悪化しているなんて!


「リリアナ!……もう帰ろう?ここ、確かに変だよ!前来た時と全然違う!キノコも集まったし、ギルドの報告書は私が書くから、帰って休もう?」


「いえ……私はもう大丈夫よ。それよりもう少し、調査しましょう」

 そういった彼女の顔は、とても大丈夫そうには見えない。だが一人で立てるくらいには回復したようで、少しホッとする。

 リリアナは頑固な性格で、こうなると中々説得するのは難しい。それは幼馴染の二人が一番良く知っていることだった。


「リリアナ……わかった。でも無理しちゃダメだからね?」


「…………」


 ガウルは黙りこんでこちらの方へ耳打ちしてくる。


「万が一の場合は、俺がリリアナを抱えて走る。お前は援護を頼む」

「うん。任せて」


 私は、こういう時のガウルの頼もしさを信頼していた。

 普段は適当な性格に見える彼だが、意外と色々考えているのだ。

(大丈夫。魔物は襲ってこないし、ワイルドホーンベアくらいなら一人でも倒せる)


 リリアナが先行して、ガウルが横で警戒。アリシアは後方で殿を務める陣形で歩いていると、二人が立ち止まる。

(…………?)

 急いで駆け寄ると、開けた場所へ出た。

 木々のない空間。そこにいたのは…………

(…………!?)


 赤い、竜だった。幼い頃にみんなで集まって見た絵本に描かれていた、赤い竜。

 伝説上の存在だと思っていたもの。それが目の前で眠っていた。


「あ…………」


 そんな声を出したのは、自分かリリアナかガウルか……それとも全員か。

 恐怖で動けない。怖いもの知らずのアリシアも、頼りになるガウルも動けなかった。

 リリアナに至っては座り込んでしまっている。


 ――――――竜が、目を覚ましている。こちらに視線を向けている。


 いつの間に!?いつの間に目を覚ましたというのか?自分の体はまだ動かない。

 ガウルの体も、リリアナも動かない!このままでは全滅だ。

(ここで、死ぬ?)


『何用だ。人間』


 頭の中に響く声。私だけでなく、二人共聞こえているようだ。


『そう恐れずとも良い。取って食ったりはしない。約束しよう』


 その瞬間、自身の体を支配する恐怖が軽くなった気がした。

 足も、動くようになった。逃げられるとは思わないが。

 目の前にいるのは、多分レッドドラゴンだ。勇者物語に出てくる悪い竜。

 誰もがその名前を知っている。でも私はなんとなくだが、目の前の竜が悪いように見えなかった。

 恐怖は感じるが、こういう時の私の勘は外れたことがない。


「あ、あの!私たちはあなたと敵対する気がありません。どうか、見逃してもらえないでしょうか」


 勇気を出して声を出してみると、竜はこちらを見つめてくる。


「おい、アリシア!」


「大丈夫。私を信じて」


 ガウルもリリアナも、さっきよりは動けそうだ。

 最悪私が殿を務めれば、二人は助かる確率が高い。

 ――――ここが勝負所だ。頑張れ、アリシア・フラッグ!

 私から視線を逸らされないように、こちらに注目を向けてもらうために声をかけ続ける。


「わ、私たちは採取依頼を受けてきただけで、あなたの眠りを邪魔するつもりはありませんでした。

 どうか、お許しいただけないでしょうか」


『そう畏まらずとも良いのだがな……ふむ……』


 竜は少し考え込んでいる。やはり私の拙い謝罪では駄目なのか?


「ここに最初に来たのは私です。私はどうなっても構いませんので、どうか、二人は見逃してもらえませんか」

 リリアナが突然そんなことを言い出して、私とガウルは驚いて、つい口々に言い合う。


「! 食べるなら俺を!アリシアとリリアナだけは見逃してください!」


「!? いえ!いえ!食べるなら私を!この二人のことは見逃してください!」


 ―――――――この時、私たちはとにかく必死だった。他二人を死なせないという目的から、自分を食べてもらうスピーチに変わるまでにそう時間はかからず。

 まるでラブコールのように、自分がいかに食べ応えがあるかをスピーチしている三人に、竜は少し……いや、結構引いていた。ドン引きだった。

 ……私たちが本来の目的を思い出すまで、あと10分。


『え、ええ……!?私の方が健康的で美味しい?俺の方が筋肉があって食べ応えがある?何をわけのわからないことを……!俺に人間を食べる趣味はないと言っているだろう!ええい!静かにしろ!』


『はあ……なんだこいつらは……!なんでこんなことに……!』

心理描写が拙く申し訳ないです。


※矛盾点を修正したため、セリフを少し変更しています。

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