空腹満たせば眠気が来る
女神の声が消え、自由なドラゴン生活が始まってから二時間。
周囲は木々に囲まれており、魔物の存在は既に複数確認しているし、その中には喰えそうな魔物が何体も。
しかし、未だ腹ごしらえは出来ていない。
では食べられそうな植物はどうかというと、それも微妙だ。
明確に食べられそうな果実はないし、食べられる草の見分けが付かないし、なんとなく食えそうなものを食べてみても腹は満たされない。あとマズかった。苦い
キノコ類も発見したが、森で、さらに言うと右も左もわからない異世界でいきなり見つけたキノコを食べる勇気は俺にはない。
毒に対する耐性がどれくらいあるかもわからない状態で食べるのは、半ば自殺行為だろう。俺はまだドラゴン生を終わらせたくない。
ドラゴンというのは作品やその種類によって設定が違う。
当然だ。実在しない生物なぞ想像で補完するしかないだろう。
肉食だったり雑食だったり、少ないが草食のケースもあるし、毒に対する耐性があったりなかったり……と作者によってバラバラ。
女神に聞いておけばよかった……と後悔してから何回かコンタクトを取ろうとしたが反応はなく、俺は自分の愚かさを呪った。
世界の均衡だの魔王だのなんだの気になる単語が沢山出てきたもので疑問は尽きなかったが、もっと気にすることあっただろ!
世界にいるドラゴンの種類とか、何を食べるとか、どうやって繫殖するかとか!!それに……!
……いかん。つい感情的になってしまった。
昔からドラゴンのことになるとこうなってしまう。両親や友人を引かせたことも結構あった。
話を戻そう。一時間色々探し回った俺は、結局魔物の肉を食べるのが一番良いと判断した。
大抵のドラゴンは肉食として描かれているし、俺も肉は好きだ。
では、どうやって狩るか?スキルを使用することにした。
俺は火竜であり火属性を司るらしいが、何も実験していない状態で炎を使うというのはナシだ。
もし森林火災になったら近くの都市にも異変は伝わるだろうし、俺の存在がバレて追われる身になったら最悪だ。
俺だって元人間だ。出来れば人間は殺したくないし、友好関係を築けるならそちらの方がいい。
悪逆非道の限りを尽くしたというレッドドラゴンと同じ俺と、仲良くしてくれるとは到底思えないが……
それで炎以外で何を使うかと言われれば、【咆哮】というスキルを使用しようと思う。
正直、これも使いたくない。
近くに人はいないことは確認しているが、ドラゴンの咆哮がどこまで聞こえるかも不明だからだ。
だが正直言って空腹が限界で、持っているスキルの中で一番マシなこれを使うことに決めた。
近くには、隠れている猪型の魔物がいる。
やるなら今しかない。
「…………」
大きく息を吸い込んで、力を込めて……!【咆哮】!!
「ギャオオオオオオオオオ!!!!!」
木々が揺れる。スキルの効果は絶大で、近くにいた猪型の魔物は動けず止まっている。
その隙に近づいて、鋭い爪を振り下ろした。
俺の攻撃を回避する素振りもなく、あっけなく絶命した。
初めて命を奪ったというのに感じたのは達成感と高揚感。それと少しの罪悪感。
「グゥルルル……」
そうして魔物の死骸を見下ろして、もう一つの問題に気が付いた。
―――――――生で、食べるのか?せめて焼いて……いや、ダメだ。
グゥ~っと腹が唸る。早く食べたいと言っているような気がした。
…………いただきます!!
覚悟を決めて死骸に牙を突き立てる。日本人の俺は首を振っていたが、今の俺はドラゴンだ。
多分大丈夫だと思う。ドラゴンって大抵肉食で書かれてるし。
「……!」
ドラゴンの体だからだろうか?それとも空腹のせいだろうか。
生だというのにやけに美味く感じて、夢中でがっついてしまう。
気づいた時には骨も残さず食べていた。
ごちそうさまでした。と心の中で言ってから、満足感で眠気が襲ってくる。
色々探索して俺が入るくらい大きな洞窟?は見つけているが、そこで休んでもいいものか?
何故疑問形かというと、洞窟というには内部の空間が整備されているような感じがしたからだ。
いや、やめておこう。
俺が目覚めた時にいた、木々の生えていない空間。
そこで今日はもう休むことにした。まだ日は出ているが、眠気がもう限界だ。
スキルの確認とか、空が飛べるかとか色々やりたいことはあるが、目覚めてからでも出来るだろう。
それじゃ、おやすみ……
次回はもうちょっと早めに書きます。