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「俺をドラゴンにしてくれ!!」

 ―――――突然だが、犬や猫は好きだろうか?

 大体の人が好きと答えるだろうし、そうでなくても嫌いと言う人は少ないだろう。

 来世は犬、または猫になりたい。という願いを抱えて生きる現代人も珍しくない。

 かく言う俺、西崎竜吾(にしざきりゅうご)もそういった願いを抱えている一人だ。


 こんなモノローグを一人で考えるくらい、俺は現実逃避をしている。

 何故なら、今俺がいるのは自分の体以外何もない、どこまでも広がる暗闇の中。


 ここに来る前までのことはハッキリと記憶している。

 仕事を終えて、家に帰る前に夕飯をコンビニまで買いに行った。

 このまま何事もなく帰宅して、飯を食べて風呂に入って、お気に入りのフィギュアの手入れをした後に泥のように眠る。

 そんないつも通りの一日の終わりを迎えるはずだったのに、信号を渡っていた時、車が突っ込んできてそのまま轢かれて死んだ。

 幸いだったのは、俺以外に被害者がいないことだろうか。


 それから目を覚ますと、辺り一面真っ暗で何も見えない空間。

 しばらく歩いたり走ったりして出口を探してみたが特に何もなく、ここがあの世か。と自分を納得させた。

 実家の父母の事が気掛かりだが、死んでしまった以上俺に出来る事は何もないし、そもそも現世への未練もあまりなかった。

 きっとこれから神様や天使が現れて天国か地獄に連れていかれるのだろう。

 と、考えて約一時間。未だ神らしき存在も他の死者の魂も見えない。


 ずっとこのままここにいるハメになるのか?これは夢なんじゃないのか?

 本当の俺は死んでいなくて、ただの悪夢を見ているだけなんじゃないか?

 不安に押しつぶされそうになる心でそんなことを考えた矢先、眩い光が射した。

「!!」

 目を開けていられないほどの光に、思わず声が漏れてしまう。


「はあ……まさかここにいるなんて思いもしなかった。

 もう目を開けていいわよ。人間!この女神サンレイズ様が迎えに来てあげたわ!」


 言われた通りに目を開けると、先ほどまで何も見えない真っ暗な空間が白く染まり、春のような暖かさを感じる。

 空間の中心には、輝く金色の髪を持つ絶世の美女と呼ばれるような人物がそこにいた。


「本当にあんたを探すのにどれだけ苦労したか……転生者候補が私の領域にいないなんて初めてよ!」

 女神はぶつくさ文句を言いながら、どこから取り出したかもわからない椅子に座る。


 正直、こちらの落ち度はないと思うのだが。


「あの、ここは死後の世界……なんですか?」


 恐る恐る質問してみると「そうとも言えるし、そうでないとも言えるわね」という曖昧な回答が返ってくる。


「ここはね、あんたのような適正のある人間が送られる待機所のようなもの。

 異世界転生ってのは、知ってる?」


「一応、知識だけは……でもそれは、物語の設定であって存在していないのでは?」


「普通の人間はね。あんた達にとっては、そうではないわ。

 簡単に言うと、あんたは異世界に転生する候補者の一人。私は案内人ってところね」


 なるほど何も理解出来ん。大学時代にweb小説を書いている友人から、そういう設定が今は人気なんだと聞いたことはあったが、

 そんなものが存在すると思っていなかったし、ましてや自分が当事者になるとは。

 まだ、夢の中であると考えた方が自然だ。

 だが、頭は理解している。この話は噓ではないと。


「転生者は混乱するか、異常に理解が早いかが大半なんだけど、どうやらあんたは前者の方みたいね。

 ま、それが普通の反応だと思うわ。説明を続けてもいいかしら?質問は後にしてくれるとありがたいんだけど」


 俺は無言で首を縦に振る。


「賢明な判断ね。楽でいいわ。

 西崎竜吾さん。あなたは26歳という若さで不幸にも死んでしまいました。

 しかし、ここに居るということは選ばれたということ。選ばれたあなたには、異世界へと転生してもらいます。

 そこは魔物や魔法、スキルが存在する世界。しかし、タダで転生しろとは言いません。

 特別に、なんでも一つ願いを叶えた状態で転生して頂きます。

 魔法の才能が欲しいなら、天才と呼ばれる才能を。

 特別な武器が欲しいのなら、あなたの要望に答えた強力な武器を。

 はたまた魔王になりたいのなら、魔族を統べる王となる力を与えましょう。

 さあ、あなたの願いを捧げなさい。私、女神サンレイズが叶えて差し上げましょう」


 異世界。魔法。魔物やスキル。気になることは色々あるし、疑問は山ほど浮かんでくる。

 けれど、一番気になったのは


「なんでも一つ、願いが叶う……?」


 その言葉が、今の俺には悪魔の誘惑のように聞こえた。

 様々な疑問などどうでもよくなるほど、魅力的なそれは、叶わないと諦めていた俺の夢に手が届くチャンスだった。


「なんでもと言っても、叶えられないものもあるわ。

 例えば願い事の数を増やしてほしいとか、世界を破壊する能力が欲しいとかね。

 世界の均衡を大幅に崩すような願いはNGよ。

 ま、とりあえず願いを言ってみなさい。その様子だとあるんでしょ?」


「俺を……俺をドラゴンにしてくれ!」


 これが、ずっと叶えたかった願い。地球では絶対に叶わない、幼い頃からの夢である。


「ぷ、あはははははは!!ドラゴンになりたいって、あんた本気!?

 そんな願い事をする人間初めてだわ!!」


「俺は本気だ。本気で、ドラゴンになりたいと思っている」


 子供の頃から好きだった。きっかけは、両親に与えられた少年が悪いドラゴンを退治する絵本。

 俺はあの時から、絵本に書かれていた赤い竜に憧れを抱いていた。

 威厳のある話し方、圧倒的な力。彼は物語の中では悪そのものだったが、俺はそんなドラゴンに魅入られた。

 父や母におねだりしてドラゴンの図鑑を買ってもらった。

 世界中で想像されたドラゴンは、どれもカッコよかったのを覚えている。

 家庭科で使うエプロンや裁縫キットはドラゴンの柄にしたし、

 修学旅行では龍が巻き付いた剣のキーホルダーを買ってカバンにつけていた。

 成長期の少年であれば一度は通る道だろうが、俺は成長するにつれて自分の中での憧れが欲望に変わったのを感じた。

 ドラゴンになりたい。あの大きな翼で空を駆けてみたい。

 当然そんな願いは叶わない。何故なら創作の世界だけの存在だから。

 わかっている。わかっているから、日々ドラゴンのグッズを買って自分を誤魔化していたのが、

 この俺、西崎竜吾の日常であったのだ。


「ふうん……どうやら私を笑わせるための冗談じゃないみたいね。

 いいわ。叶えてあげる。

 ただし!この願いにはいくつか注意点があるわ。それを聞いてから、判断しなさい。

 本当になりたいのかね。叶えた後じゃ、後悔しても遅いわ」


「ああ。わかった」


 そうは言われたが、心変わりはしないつもりだ。


「まず、ドラゴンは魔物の中でも賢く、危険度が高い。

 そしてその鱗や牙で作られた武具は高値で取引されているし、肉も高級食材として使用されているわ。

 あんたの存在がバレた瞬間、面倒事に巻き込まれることは避けられないでしょう。

 ここまではわかる?」


 無言で頷く。面倒事に巻き込まれても構わない。

 というか、ドラゴンになれるならなんでもいい!


「はあ……あんた、拗らせてるわね。

 次行くわよ。転生させる際、あんたの魂をドラゴンの魂と混ぜ合わせるわ。

 人間の魂ではドラゴンの体には適応出来ずに直ぐに死んでしまうからね。

 魔物の魂と混ぜるから、良くも悪くも影響はあると思ってちょうだい」


「影響って、具体的にはどんなものだ?」


「食事の趣向が変わったり、殺しに躊躇いがなくなったり……かしら。

 私は人間と魔物の魂と掛け合わせることなんて初めてだから、どんな影響があるか詳しくはわからないわ」


「なるほど、問題はない。注意事項はそれだけか?」


「もう一つだけあるわ。ドラゴンに転生したあなたは長い時を生きることになるわ。

 1000年は寿命が尽きないし、魔力量によって寿命は伸びるからそれ以上生きる場合もあるでしょうね。最後にもう一度だけ聞くわ。本当に、ドラゴンに転生したいのね?

 変えるのなら今のうちよ」


 答えはもう、決まっている。俺の願いは変わらない。

 26年生きてきて、ずっと叶えたかったことだから。


「ああ、頼む!俺を、ドラゴンに転生させてくれ!」


「あんたの願い、この女神サンレイズが受け取ったわ!さあ西崎竜吾、準備はいい!?

 転生先はレッドドラゴン!異世界【イーヴィング】で、思うが儘に生きなさい!」

 体が光に包まれていくと同時に、意識も遠くなっていく。

 途切れる前に感じたのは、少しの不安とそれを大きく上回る喜びだった。

初投稿です。

明日から本格的に投稿していきます。

色々拙い点はありますが、何卒よろしくお願いします。


4/8 1話の改訂を行いました。

4/10 設定の変更に伴い描写を変更しました。

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