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智子のルビー(北海道編)  作者: ゆずさくら


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21/21

疑い晴れた後

 香山が農場の小屋に戻ってきた。

 智子の疑いは晴れ、香山から受けた監禁状態から解放された。

 香山は、彼女に気をつかってか、智子の車を北見まで運転した。

 さらに途中、香山のお金で燃料を満タンにしていた。

 警察署に着くと、智子はようやく車と家の鍵を返してもらった。

「すまない」

「……」

 智子は香山に対して何も言わず、そのまま車に乗り込んだ。

 智子は車を運転すると、まず運送会社の事務所に立ち寄った。

 佐藤に欠勤の説明をすると、涼子社長から連絡があったという。

「警察からお詫びが入ったみたいね」

 智子は佐藤に何度も謝って、今日は休ませてもらうことを伝えた。

 車で家に戻ると、智子はすぐにアルバートの棺を家に入れた。

 そして夜を待って、今度はルビーの姿になると、アルバートと共に農場に向かい、建物に入ると四人をロッカーから出した。

 二人で担ぎあげ、メルヴィンの眷属たち四人を、ひとまず智子の家の地下に匿った。

 今のところ、四人とも拒絶反応などもなく、順調にルビーの眷属へと変わりそうだった。

 暴れたり騒がれたりしないよう、彼と手分けして四人とも毛布に包んだ。

 智子はルビーに話しかけた。

『またこの()たちの『呪い』を解かないといけないのね』

 イヴァンナにしたと同じように、どこかでルビーの指示を与えて『呪いを解く』必要があるのだ。

 そこまでやって、この件はおしまいだ。

 アルバートがルビーを求めて(・・・)くるので、智子はそっと意識を消した。




 疑いが晴れた数日後。

 智子はふと、思うことがある。

 ルビーの体になっているときに、私は(・・)アルバートとセックスしている。

 体そのものが智子に戻った時、影響はないのだろうか。

 智子のノートパソコンの後ろから、ふらっと白い猫が現れた。

『妊娠するわけないでしょ』

「うそ!」

 智子の後ろに立つ佐藤が驚いた声を上げた。

 白い猫は、自分にしか(・・)見えないはずだ。 

「な、なんですか?」

「ほら、ここ!」

 佐藤の視線を追っていく。

 智子のノートPCの左の方……

「何もないですよ」

 いや、智子には(・・)白い猫が見えている。

「すぐ消えちゃったけど、ほら、ここに」

 佐藤が智子のパソコンに触れると、左下の領域にニュースが表示された。

「消息不明となっていた四人、相次いで発見される、だって。ほら、例のイヴァンナと同じようにいなくなった()が相次いて見つかったって」

 佐藤は勝手に智子のパソコンで記事のウィンドウを広げ、読み始めた。

「四人とも病院で検査を受けたが、短期記憶障害となっている以外は健康に異常なしということ…… だって。全くイヴァンナと一緒ね」

 佐藤が気づいたように言った内容が『白い猫』でないことに安心し、智子は胸に手を当ててから、言った。

「とにかく、見つかってよかったですね」

「これで安心して飲みに行けるわね」

 それを聞いて、智子は思った。

 確かに失踪事件は解決したかもしれない。けれど、世間的には加田(かだ)の殺害事件も、神河(かみかわ)社長の事件も解決していない。

 佐藤にとっては、そんな状況でもいいのだろうか。




 その晩、智子と佐藤は、山村(やまむら)を加えて飲みに出かけた。

 三日月に入ると、すでに大勢客がいて、盛り上がっているようだった。

 三人を迎えてくれたのは、いつものアーニャだった。

 山村が言った。

「なんか盛り上がってるね?」

「イヴァンナたちが休みをもらってこっちに遊びに来てるの」

 見ると、奥の席にはメルヴィンに捉えられた五人が集まっていた。

 智子たちは彼女たちの隣の席に案内された。

 イヴァンナたちは、智子を見ると何か顔つきが変わった。

「……」

 智子はイヴァンナが入院した際に、病院に見舞いに行っていることを思い出し、言った。

「イヴァンナ、体調はどう?」

「智子ありがとう。やっぱり記憶は戻らないけど、体調はとて良いの」

 イヴァンナが微笑むと、周りの四人も同じように智子に対して笑みを見せた。

 まさか、記憶があるのではないだろうか。

 智子は考えた。

 記憶しているとしてもルビーの姿であって智子の姿ではないはずだ。

「さっきまで五人で話していたんです。智子さんには言っておこうと思って」

 山村と佐藤の方を見ると「気にしないで」と言われた。

 智子はそのまま五人のいる席で話を聞いた。

「加田さんと神河のことです」

 五人が代わる代わるに発言していく。

 壁谷が警察から聞いたことなどを合わせて考えるとこうだった。

 スナックの店員と代行運転のバイトを掛け持っていた加田は、ある時、代行運転の依頼を受けて神河社長の車を運転した。

 青海が経営する代行運転を派遣会社は、代行運転者が性的サービスを行う風俗営業の裏の顔を持っていた。

 神河社長の依頼も、その目的だった。

 加田は度々指名されることになり、神河と親しくなっていた。

 彼女たちの話だと、休みの日も会っていて、二人の関係は、代行運転とその客、ではなくなってしまったのだ。

「加田、辞めたいって言ったの」

 加田は『スナックを』辞めようと考えていたらしい。

「けど、マイナスな感じじゃなくて、プラスの方ね。幸せになりたいって」

 加田は神河から妻の涼子(りょうこ)と清算し、加田と新しい人生をやり直す、とそう言ったそうだ。

「けど、なかなか仕事を辞めないから、どうしてと聞いた」

 そう尋ねると、加田が泣き出したという。

「夏頃は、情緒が不安定になっていた」

「けど、突然、ニコニコしてるから何かあったの、と聞くと内緒と言った」

「デート、と聞くと、ニヤニヤしていたから」

 どうやらそれが彼女たちが覚えている最後らしい。

 その最後のデートで、加田は神河に殺された。

 五人は、警察にそう証言したそうだ。

「店を閉めて帰る時、神河社長の車が走り去っていくのを見た」

「加田は乗っていなかった」

 加田と連絡が取れなくなってすぐに、それを言わなかったのはまさかと思っていたからだということだ。

 警察は彼女たちの証言をもとにもう一度、加田殺害の件を調べなおすことしたらしい。

「これで解決するといいけど」

 智子はイヴァンナが最後に言った言葉が印象に残った。

「神河が死んだのは、きっと加田さんを殺した報いなのよ」




 その日以降、智子はメルヴィンの眷属となっていた女性と友達になっていた。

 彼女たちは同じスナックで働いているため、全員の休みが合うことはほぼなかったが、それでも暇を見つけては会っていた。

 山奥に住んでいる智子が街に出て、レリアとエフゲニーと一緒に服を見ていた。

「いいね、似合うよ」

「けどこれ、どっちかというとイヴァンナの趣味かな」

「イヴァンナは昨日のお店が遅かったから、今日は来れないんだって」

 智子は頷くと、質問した。

「サーシャとヴァレリーはなんか言ってたっけ?」

「二人は、健康診断を受けにいくんだって」

「あっ、それ私、受けてない」

 レリアがスマホのカレンダーを見て、何か悩んでいた。

「早く行かないと」

「!」

 エフゲニーが、何かに気づいたようで、智子の肩を叩いた。

「あれ、アーニャじゃない? 誘った時は何か用事があるとか言ってたのに」

「あっ、ほんとだ……」

 智子はアーニャに声を掛けようとして、近づきかけ足を止めた。

 アーニャはスマホで誰かと話している。

 とても、深刻な顔つきだった。

「!」

 冬の北海道で、不自然にもゴルフバッグを二つ持つの男が、視野の隅に見えた。

 智子の記憶が蘇る。

 吸血鬼を殺すための特殊な(もり)。それを入れておくための、ゴルフバッグ。

 バンパイア・ハンターの冴島(さえじま)だった。

 メルヴィンは智子が陽の光で殺した。

 眷属だった彼女たちも解放している。

 北見(ここ)に冴島の仕事はないはずだ。

 だが、彼が北海道に来ているということは…… まだ、いる(・・)

 この瞬間から、アルバートとルビーそして智子の三人は、新たな事件に巻き込まれていくのだった……




  おしまい


最後まで読んでいただきありがとうございます。


お手隙でしたら、評価いただけると幸いです。


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