おもうもの
*『つないでいくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでいくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)
*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」
「八雲、見て凄い綺麗よ」
「もう、お姉ちゃん、今は瑞でいいよ」
「そうだね」
ホテルの部屋の窓辺で苦笑し手招きをしている姉の皐の元に駆け寄る。
「うわぁ」
目の前に青い海と空が広がる。山も島かな?緑も多く見えて目に優しい。
「こんなに景色がいいなんてね」
「うん、綺麗なとこだね」
「とりあえず、今日はオフ。明日は7時に集合で、8時からロケね。明後日は…」
「もうお姉ちゃん、今日はオフって言ったじゃん」
姉の肩を小突く。
「アハハ、ごめんごめん、何か飲む?」
「うん、お茶が良いな、熱いの」
「そうだね、エアコンでどうしても冷えるし、ちょっと待ってて」
「ありがとう」
海の上にはさっき乗って来たフェリーが沖に向かって進んでいる。
小さく息を吐く。役作りはオーケーだ、ここ一ヵ月のスタジオの撮影で監督が意図する主人公の久子へのイメージとダブってきている。
ポケットからスマホを取り出し、目の前の景色を写真に収め、ついでに記事を確認する。変わってはいない。何事もなければこの記事の通り、二人にその日に会えるはず。
「瑞どっか行きたいとこある?」
「ああ、あるけど…人が多いから…」
港での出迎えの人の多さと、フェリーに沢山の人が乗っていた事を思い気が引ける。
「そうか…ちなみにどこなの?お茶入ったからこっちおいで」
姉はテーブルにティーカップを置いてソファに座る。瑞は隣に腰掛けてスマホの画面を見せた。
「どれどれ、ん?これ絵じゃない?夕凪島の何処かなの?」
「ポストに鷹取展望台って、寒霞渓?っていう所にあるみたいなんだ」
インスタグラムにアップされているイラストで、「ミイ」という人の描く絵のタッチがほんのりとしていて好きになって、プライベート用のアカウントでフォローしている。先日は二人の巫女さんが宵の海を舞台に舞っている幻想的なイラストをアップしていた。
「寒霞渓ね…」
瑞はティーカップを持ってお茶を飲む。冷えた体に熱が染み渡る。
「おいしい」
もう一口飲んでいると、
「ああ、有名な観光地みたいで確かに人が多いかもね…でも…そのナントカ展望台は寒霞渓の広場みたいなところから少し離れた所にあるし、近くに駐車場があるから行ってみる?」
思いもよらぬ回答に、体が反応して姉の方を向いた際にティーカップのお茶がこぼれそうになった。普段なら、ごめんね止めとこうか、そもそも自分が招く混乱を恐れて敢えて我慢することの方が多い。それを受け皿に置き、姉の顔を見る。
「いいの?」
姉は目を閉じて大きく頷く。
「折角来たんだし、たまにはさ…いつも瑞は我慢してくれてるし……そうね、伊達眼鏡とミージーな感じにしたら?」
「ハハ、分かったありがとう」
嬉しくて、姉に寄りかかる。
「あ、そうだ。勲先生、特別出演でオファー受けたみたいよ明日、こっちに来るって」
「え?ほんと?嬉しいな」
良いことは続くんだ。
「あんだけ、こっぴどく叱られたのにね…今となっては大恩人だものね…」
「うん」
肩をポンと叩き、姉は立ち上がり洗面所に向かう。ティーカップを手にし口を付ける。
瑞こと、杵築八雲が一躍名を馳せた連続ドラマ『源義経』で演じた静御前。そこで女優として花開いたのには勲先生。大先輩の津山勲の激があったから。
丁度、静御前を務める一年前、時代劇に興味を持ち、勲先生が主役を務める時代劇に端役で出させて貰ったことがあったのだが、コテンパに叱られた。演技が出来ていない、歴史を知らない、端役と言えども役には文字通り役割がある。ちやほやされてきた文字通りのアイドル人形だな……かなり辛辣な言葉を浴びせられた。元はと言えば興味を持っただけで臨んだ自分がいけないのだけれど、叱られて泣いてしまった。それでも勲先生の説教は続き、涙の訳が分からいままでいたけど、撮影をこなしていくうちに、悔しくて泣いたんだと後から気が付いて、撮影後、勲先生のお部屋に姉と謝罪に行き教えを乞うた。
「本気かね」
鋭い眼光で見据え睨まれる。髭を蓄えた形相は荒武者、いや閻魔様の様に見える。
「はい、お願いします」
頭を下げていると、
「そうか、わかった」
その声に見上げた勲先生は、まるで布袋様のような笑みを湛えていた。そこからトントン拍子に所作、立ち居振る舞い、茶道、華道の個別指導の先生を紹介して下さり、滅多にメディアに出ない大女優の岩田真由美さんも紹介して頂き。そのお陰で、後の静を演じ切ることが出来たのだ。ティーカップの中のお茶が波紋を作る。
「瑞、支度して行くよ」
「あ、ちょっと待ってよ」
残りのお茶を喉に流し込んだ。
ソファの周りを考えながらグルグル回る。加賀美は脇に控え直立不動で微動だにしない。
「加賀美どういうことなのよ、特に困ってる事は無いって、しいて言うならこのコロコロ変わる記事が何なのかって。どうして私の所には来て、あの二人には来てないの?」
自分でも珍しくイライラしている。原因は分かっている。分からないことにイライラしている。お尻からソファにドスンと座る。
「さあ…」
「さあじゃなくて…さあ」
「さあ」
「か・が・み?」
クビよのクまで出かかったが、加賀美は一礼をして、素早い身のこなしで向かいのソファに座る。
「お嬢様、水内家は代々巫女の家柄故、夢で見られたような啓示がありました。香様、美樹様は今日の今日、お嬢様とお知り合いになられました。まだお話になられていない事があるような気がします」
「どうして、ワタクシは洗いざらい自分の事話したわよ」
あ?麺類が好きな事と、寝るのが好きな事って話したかしら?
「そうは仰られましても。人、それぞれでございます、お嬢様」
加賀美が言いたいことは分かる。確かに…全て話した訳ではないけど…
「そういうものなの」
「少し私にお時間をくださいませんか?」
「いいわよ…でもワタクシの世話はどうするの?」
「私めに着いて来てくださればいいの良いのです…ただ、ロールスロイスは使いません」
「どうして?」
「小回りが利きにくいですし、目立ちすぎます」
迫っ苦しい車はイヤなのに…そうしたら自分にご褒美上げないとね。
「ふーん、加賀美、お寿司が食べたい」
「かしこまりましたお嬢様」
加賀美は立ち上がると一礼して、隣の部屋へ入って行く。
「ハックション…もう…」
もう一度シャワーを浴びる為、浴室に向かう。背後で加賀美の声がする。
「お嬢様、寿司屋の予約が取れました。ただ、今から出ませんと時間的に少々…」
「もう、分かった。じゃあ、ひまわり用意して」
「かしこまりました」
香と美樹をエントランスまで見送ると、舞はラウンジの席に戻り、先程の香との会話の中で、愛という女性と、自分が結界の中にいた時と同じように話をしたということが腑に落ちないでいる。あの時、双子の神様は香の力は無くなったと言っていた。それが香の祖母である遥の願いだったからと。だけど会話が出来たという事は…香は力を無くしていないということになる。神様が嘘を言うとは思えないけど……それに鈴や愛といった、あの記事を見た人間がいる。他にもいるのかもしれない。あの日、麻霧山での神舞の最後に四散した光…六つのうち一つは夕凪島に降り注いだ。五つの光か…という事は五人いる?私やお兄ちゃん、それから世良さんは当日、夕凪島にいたから、それ以外に?鈴、愛、後三人いる?いや、夕凪島に降り注いだ光は島のすべての人々に注いだ…四散した光も同じなはず。関係ないか…ん?二人組の女性が足早にロビーを駆け抜けエントランスを出て行った。杵築八雲?彼女達もここに泊まっているんだ。
それにしてもお兄ちゃん遅いな……すぐ終わりそうなこと言っていたのに……
スマホの時計は11時になろうとしている。記事を確認するも変化はない。ホッと小さくため息をつく。
「やあ、こんにちは」
聞き覚えのある声に顔を上げると、京一郎が両手を広げ笑っている、驚きながらも変わらない感じに、思わず笑ってしまった。
「こんにちは」
「まさか、あなたも来ているとはね、これも必然なんだろうね」
あなたも?に引っかかたが、必然というワードが今の舞に取って気にかかる重要な物であると、勘が告げている。
ここで、必然に京一郎と会ったということ?彼から以前、この言葉を聞いた時に感じた衝動を思い出す。
「必然ですか?」
「うん…ああ、そうか…例の記事の事かな…知ってる理由は話さなくてもいいよね?」
ああ、この人にはやっぱり適わないな…
「はい、どういうことだと思いますか?」
「そうだね……未来は創れると思う?」
「ん?」
意外な質問に思わず、顔を突き出し首を傾げた。京一郎はちょっと待ってと言うように片手を顔の前に広げる。
「本来であれば、これから起こることは分からない…そうだな……」
京一郎はテーブルの上を見つめ、ストローの紙袋を指さすと、それを小さく丸めている。そして掌の上に乗せてこちらを見てニッコリ笑うと、
その丸めた紙くずを宙に放つ。紙くずは勢いの頂点に達しテーブルの上に落ちた。
すると京一郎は両手を広げ、
「こういう事…この紙くずを上に投げた。下に落ちるという事は決まっていた。でしょ?」
「それはだって、重力があるから…」
「原因と結果の話ね、僕が力を加えたから紙くずは上に、これが原因でしょ」
「あ、それが、あの記事にも起こっているということ」
指をパチンと鳴らし、京一郎は嬉しそうだ。
「本来はあの記事に関わらず、全てに起こっている事だけどね」
「そうしたら…原因がコロコロ変わっているって事になる…」
「そうだね…どんな記事があったかは分からないけど…原因があるから変わるんだと思うよ」
舞はスマホを出して現在のニュース記事を見せながら、今までに変わった内容を説明する。
「ふーん。なるほどね。日付が後退したんだ…香ちゃん自身の行動に変化があった、この一日の間に?そもそも、この記事がどうして顕現したのかな?」
腕組みをして考える京一郎に、香から聞いた行動を伝えてみる。
「一見何事もないように思える行動だけど、その中にヒントはあるかもしれないね。うーん。あなた達の行動も関与していたら……」
「私達の行動も?」
「うん、たぶんこの世界で生きている以上、一人ではない訳でしょ、因果も同じ。でもやっぱりなぜ記事が見えたのか?起因なのか結果なのか…まあ結局はそれの繰り返しなんだけど、何かあなた達の行動にも要素がある筈なんだよね」
舞は昨日の行動を思い出した。午前中レポートを書いて、香ちゃんから素麺が届くとメッセージが着て、お昼食べて、素麺が届いて、兄がニュースで驚いて、本を読んで…
「でも、あなた達の行動が記事を変えた要因に含まれている事は間違いないとは思う…もしかしたらもっと前に何かの原因があったかもしれないけどね」
「行動……か…」
「こんな事を言う人がいてね、時間や日付は地球の計測方法に過ぎない、時間という概念はなく過去も未来もない。あるのは一瞬、一瞬の連続だって」
「ん?」
「要は今しかないってことらしい。今、さっきの紙くずを投げる。落ちる。自分しか作用していないから自分の思い通りの未来は創れる。紙くずが落ちる未来。でも投げた紙くずをあなたが空中で取る。紙くずはあなたの手の中にある未来。落ちた未来も、あなたの手の中にある未来も、今。原因は同じでも異なる結果となる」
「あ、分かった。私達が今ここにいる事が作用しているって事」
「たぶんね…あ、そろそろ行かないと」
「あ、ありがとう…」
「僕も色々調べてみる…そしたらね」
ニッコリ笑い身を翻すと軽やかにラウンジを出て行く。京一郎がこちらを向いていたせいで、初老の男性とぶつかり、頭を下げて謝っている。初老の男性は笑顔で対応していて、折り目正しい服装からも、どこぞの偉い紳士に見える。その脇には娘さん?お孫さんかな。黄色いワンピースを着た髪の長い若い女の子が腰に手を当ててそれを眺めていた。
その時々の選択によって未来が変わる。時間や日付は地球の計測方法に過ぎないか。
言い換えれば未来は創れる。結果が分かっていれば、それに見合った行動をする。原因と結果の連続体が時間という計測方法の中で起こっている。因果という事なのね。
ということは、原因が変わった事………もしかして、それは香ちゃんと美樹ちゃんが生きているという事?それによって結果が変わっている。運命が変わる…双子の神様は言っていた…本来は香ちゃんと美樹ちゃんの魂は召還される筈だった。もっと言うと本来この世界には存在していない筈の人間がいる事による因果なのかもしれない。
でも、因果の連続が過去と未来という事なら過去も未来もたくさんある筈、あ、時間という概念があるから過去や未来という言葉が生まれる訳か。囚われてもいけないのかもしれない。原因は二人が生きている事だとしたら?結果はどうなるの…結果があの記事?なの…
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