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おもうもの

*『つないでいくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでいくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_

*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)

*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


ロイヤルビレッジ夕凪島のロイヤルスイートルームはただ広くリビングには大きな窓が付いていて、そこから瀬戸内海が一望できる。

車の中で鈴は自己紹介をして、長野から6時間掛けて昨日の夜高松に着いたことや、資産家の令嬢で、趣味はスキー、好きな物はお洋服(高くても安くても着心地と可愛さが一番)、ケーキ、嫌いな物はオセロ(加賀美に勝てないから)、父と母は豪華客船で外遊中、等々、覚えきらない情報量を提供してくれた。ほぼほぼ鈴のアピールタイムに終わり、香は家が素麺屋、趣味はゲーム、美樹は家が素麺工場、趣味は絵を描く事、ゲームと話すと、

「あら、素麺シスターズね」

鈴は自分で言って笑っていた。

この空間を美樹とフラフラ物珍しげに見ていると、シャワーを浴びていた鈴がバスローブのまま部屋に出てきた。

香が美樹と顔を見合わせていると、

「こちらへいらして」

リビングの中央にある大きなソファを手で示している。するとジュースとケーキが乗った台車を加賀美が押してくる。

言われるがままソファに腰掛けると、鈴は足を組んで座り、それが合図のように加賀美がテーブルにケーキとジュースを丁寧に一人一人の前に置いている。

「どうぞ、召し上がって」

「はい…」

何故か言いなりになってしまう。そもそも車に誘われた時点で警戒しなきゃいけないのだけど、鈴の顔を見た時に、拒否できないというか理屈抜きに惹きつけられるものがあった。

「お口に会うかしら?」

「う…はい、美味しい…です」

しどろもどろに美樹が答える。

「あの?鈴さんは、どうして私達の事を知っているんですか?」

「あら?可笑しいわね?ご存知だと思っていましたのに…加賀美」

「はい、お嬢様。えー香様、美樹様、お嬢様は巫女の血を連綿と受け継がれたお方になります。先週の事でございます。お嬢様が天啓を受けられました。香様と美樹様を助けるようにと。ただ、啓示を受けたのはお名前だけで、そんな中、このような記事が出てきました」

加賀美はタブレットを香と美樹に見えるようにテーブルの上に置いた。

その中には幾つかの記事があり、自分達が事故や火事で亡くなるというもの、ケガを負ったというもの、映画のロケで神舞かまいを舞うというものであった。

「何やの…」

美樹は気味が悪そうに両腕を擦って身を縮めている。

香は二つの事が気になった。神舞かまいの記事に関しては確かに来月の10日に、映画の撮影で美樹と神舞を踊る予定になっている。もう一つは、最初に出てきたという車の事故の記事が舞が連絡してきた理由ではないかと思う。

「ワタクシは、何か特別な力があるという訳ではありませんの、ただ、変な夢を見てそれをこの加賀美に話したら、ワタクシの家は巫女の家系である事を教えてくれたの。そして加賀美があなた達の事を調べてくれて」

鈴がチラッと加賀美を見ると、加賀美がタブレットを操作する。そこには今月の16日に行われた瀬田神社での神舞かまいのニュース記事が表示される。

「あなた達を見つけた訳」

鈴はグラスに手を伸ばしストローでジュースを飲む。

「で、お困りのことは?」

腕を組み微笑みながら首を傾げている鈴に、香も首を傾げた。


兄は車を借りる際、たまたま使用されていなかった「相棒」の軽自動車を見つけ、それを駆ってロイヤルビレッジ夕凪島に向かっている。

「やっぱり、こいつとも縁があるんだな」

首を捻り不思議がってはいるが、兄の顔は笑っている。心なしか、軽快にエンジン音を鳴らす車も何だか嬉しそうだ。

島を去ったのは、ほんのちょっと前なのに懐かしいというか、帰って来たというか、首を傾げ見る窓の外の変わらない景色にエネルギーを貰いつつ。町並みを走り抜けていく。

瀬田港に着いた時、かなりの人だかりがあって、杵築八雲を出迎えていたようだが、八雲は全員ではないだろうけど握手を交わし笑顔を見せていた。まあ、自分には、ああいうことは出来ないな……有名税と人は言うけど、なった人にしか分からない苦労もあるんだろうな。

車は県道を逸れホテルへと向かう坂道を上る。空は青々としていて、飛行機が陽射しを機体に反射させながら何処かへと飛んでいる。

「舞見て、ロールスロイスだよ」

兄が指さす方向には黒塗りのそれが似つかわしくない大きな図体を休めている。

「映画の関係者かな?」

「大物俳優でも泊ってるかもな」

兄はそれを避けるように、小さな、けれども功績の大きな戦友を向かい側の駐車スペースに止めた。

あれだけの長期間泊まっていたのもあってか、ホテルのスタッフは覚えていてくれて、兄がダメ元で部屋を使用できるか尋ねると、小さな声で「本当はダメなんですけどね」と気のよさそうなスタッフが融通を利かせてくれた。それもそのはずネームプレートには「支配人」と銘が打ってある。

用意してくれた部屋も同じで、

「何か家に帰って来たみたいだな」

大きな陶器の灰皿を持ち上げて、兄はこっちを見て笑う。

舞は窓の外に見える西龍寺の護摩堂に手を合わせ、三井津岬の大岩にも手を合わせた。気が付くと兄も同じ事をしている。

早速仕事に取り掛かる準備を始めた兄に、

「ちょっとロビーに行ってるね」

邪魔をしたくなかったので、部屋を出てロビーに向かった。

流石にお客さんは外出しているのか、ロビーにはスタッフの姿しかなく、窓から差し込む光が明るく一帯を照らしていて、その中でも一際目立つのが柱の一つにある杵築八雲のポスターだった。

ラウンジでアイスコーヒーを注文して、スマホで記事をチェックしたが変化はなくホッとする。このまま、このまま、大丈夫。

両手を挙げ伸びをすると、読むことが出来なかった『巫女に関する考察』のページをソファにもたれながら捲る。

世良家に関して、先に述べた通り、巫女の血脈というだけで、俗に言われるような特殊な力を有する者が後裔として出て来た訳ではない。ただ血脈は女性として受け継がれるているようだ。系図を見れば一目瞭然で女系であることが分かる。もちろん男子も生まれているが、基本は女性が婿を取り家名を保っていたようだ。男子が家名を相続するような世になってからは苦労が絶えなかったようだが。図らずも毛利家に庇護される様になってからは、婿を迎え家を保つことが容易くなり、ただ当時は世良家は女腹という風聞は立っていたようである。このような家柄であれば巫女に対する興味が湧く。巫女に連なる伝承を見聞しに何カ所か当地を訪問したが、どの地も想像以上に口が堅く、余所者を寄せ付けない。ただ…

ん?人の気配がする。視線を上げると香と美樹のニコニコした顔がある。

「舞さん、来てたん?」

「来るんやったら、言うてくれたら良かったのに」

舞は本をテーブルに置いて、二人に抱き着いた。匂いや感触もある。二人はちゃんと存在している。

「どしたん、舞さん?」

「く、苦しい…」

抱擁を解くと、二人の顔を交互に見比べて、

「ビックリしたでしょ?」

笑って見せる。本当は自分の方が驚いているんだけどね。それより嬉しかった。嬉しくて嬉しくてたまらない。


香は以前の舞よりどことなく影があり、元気が無いように感じた。抱き着かれた時に何か不安感の様な、上手く言い表せないけど、きっとその原因は舞が電話で言っていた記事なのだろうとは思う。

「あれ?お兄さんは来てへんの?」

「ああ、お兄ちゃんは仕事してる」

美樹の問いに、舞は人差し指を上に向け肩をすくめている。

「香ちゃんと美樹ちゃんはどうしてここに?あ、とりあえず座ろう」

さっき鈴の部屋でジュースとケーキをご馳走になったばかりでお腹は満たされていたけど。美樹と一緒にジュースを頼んで貰う。

香は舞に、りんという子から、自分達に関するニュース記事を見せて貰った事を伝え、それが舞が話していた物と同じではないかと尋ねると、舞は頷いてスマホの画面を見せてくれた。確かにさっき鈴から見せて貰った内容と同じ記事であった。

それから鈴が、お山での「神舞かまい」の日に自分達を助けるようにとの夢を見て夕凪島に来たこと。さらに、舞や美樹と話した時みたいに、昨日の夜、三輪愛みわ まなという女性からコンタクトがあり会話をしたことを話すと、さすがの舞も驚いているようだった。

みんな自然と前屈みになって、声を潜めて話す。

「ということは、少なくとも、私とお兄ちゃん、鈴さん、まなさん、あと世良さんという女性、少なくとも五人が見ているんだ…」

「世良さんって」

美樹が聞き返す。

「あ、私も詳しくは知らないけど、巫女の血筋の方みたい。てことは鈴さんやまなさんも巫女の血筋なのかしら?」

「うん、鈴さんはそう言うてた」

「たぶん、まなさんも、私と話が出来たという事は、そうなんだと思う」

まなに聞けばよかったな……

「巫女の血筋の人達が見てる?でも私達は、そんな血筋じゃないけど…」

「それで、舞さん達は私達を心配してわざわざ来てくれたんやね」

「うん、兄の仕事が終わったら連絡しようと思っていたんだけどね」

「そうやったんや、ありがとうさん」

「でもこうやって二人の顔が見れて安心した。記事の件は気味が悪いけど…」

「でもどうして、記事がコロコロ変わるん?」

香は素朴な疑問を投げかける。舞は良く分からないし推察だけどと前置きをして、私の行動が関係しているかもと言う。

さそっく思い出してみる…

昨日は、午前中、舞にメッセージを送って、店を手伝い、午後から美樹の家でゲームをして、夜に愛からコンタクトがあったくらい。今朝は美樹たちと杵築八雲を見に行ったけど噂ですっぽかされて、待っていたヘリから出て来たのが鈴で、さっきまで鈴の部屋で話をしていた事を話す。

「ああ、杵築八雲とフェリーで一緒だったよ」

「え?あ、ヘリじゃなくてフェリーやったんや」

美樹は残念そうに膨れている。

「特にこれって何かした訳じゃないけど……」

「そっか…」

自分の行動で記事が変わる。未来が変わる。でもそんな極端な行動はとっていないし…何やろ?ああ、でも私が見た未来では啓助さんや舞さんが島に来るのは今日じゃないんよね。もう一度、見てみようかな?無意識に服の上から勾玉を触っていた。それに…

「香、そろそろバスの時間」

「じゃあ、舞さんまた連絡する」

「あ、少し待っててくれたら、車の鍵持ってくるから送ってくよ」

「バスがあるから大丈夫、ありがとう舞さん、後で連絡するね」

「そう?そしたら、またね」

エントランス迄見送りに来てくれた舞は変わらない笑顔で両手を振っている。さっきのは気のせいだったのかな?それとも私達と会えて安心したのかな?


お読みくださりありがとうございます_(._.)_

適宜、誤字や表現等変更する場合がございます。予めご了承の程を。

まだまだ文才未熟ですが、もし面白い!と少しでも感じてい頂けましたら、いいねや評価をポチッと押して下さったら、嬉しいですし、喜びます(^^;。モチベーションにも繋がります。よろしくお願いしまし_(._.)_

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