さがすもの
*『つないでゆくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでゆくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)
*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」
朝の時間帯なのにフェリーに乗船する人や車が多い。そう思うだけで普段と変わりはないのかもしれない。観光客の中には夕凪島に帰省すると思われる人々の姿も、ちらほら見掛ける。
船尾の上部に描かれているパンダが迎えてくれ乗り込んだフェリーは、夕凪島に初めて行った日の行き帰りに使用した物で、こんなところにも縁を感じる。
「舞、見てこれだよきっと、杵築八雲がいた理由」
フェリーの客室の売店のカウンターにポスターが貼ってある。『二十四の瞳・新 主演:杵築八雲 来春公開予定』
「へー、映画を撮ってるんだ」
お婆ちゃんが好きだった映画だ。リメイク版ってことか。
「お兄ちゃん、あそこ」
「ん?…あ、杵築八雲」
何気なく見た視線の先に、船首付近のシートに腰掛けようとしている彼女の姿があった。昨日とは打って変わって控えめな服装で、きっと一般の乗客に紛れるためなのだろう、それでも隠し切れない身に着いている所作が美しい。
舞達は窓際の二人掛けのシートに腰掛ける。客室は、ほぼ満席で、この中で杵築八雲の存在に気がついたら騒ぎになるだろうな…賑やかな客室を眺めて思う。
視線を窓に移すと真っ青な空が広がっている。気温もさほど高くなく清々しい朝だった。目覚めた時に記事を確認したが変化はない。
「舞」
兄はスマホを見せてきた。
「また、変わってる…」
「え?」
スマホを手に取り記事を見る。日付は8月10日、『映画二十四の瞳のロケ好調。映画オリジナルシーンの撮影に地元の高校生、松薙香さん、跡部美樹さんの二人が夕凪島伝統の神舞を舞う……』
今までと全く異なる内容に首を傾げて兄を見る。
「何が起こっているのか、この1時間で何があったのかあれだけど……今回初めて二人の身に何もない記事だ、どう思う?」
「うーん、日付が後に行くにしたがって、どういったら良いか分からないけど、良くなってるってことかな」
「ああ、俺もそう思う」
ブルブルとお尻に小刻みな振動が伝わり、フェリーが出港する。
「理由は何だと思う?」
「香ちゃんの行動か、思考か、何かが変わったんだと思う…確証でもないし、勘でもないけど」
「そう、だよな…」
実際に会って、香ちゃんに話を聞かないと何とも言えないけど…兄の会議がどれくらいで終わるか分からないから、香にも美樹にも夕凪島に向かっている事は連絡していない。不安があるものの、二人に会える喜びがあるのも事実で、色んな感情が混ざり合いドキドキしている。陽射しを受けた水面がキラキラと眩しいくらいに瞬いていた。
二つのモニターにはゲーム画面と例の記事が映し出されている。ゲーム画面には綺麗な山と海の景色が映し出されている、それを背景にアニメ調のかわいいキャラクターを操作し写真を撮っている。今日は愛ちゃんと、ゲームのフレンドとこれから遊ぶ予定になっている。
「あー、愛ちゃん。愛ちゃんのー、言った通りになってんだけどー…つーかー、コロコロ変わってるよ、あの記事ぃ」
ゲームのコントローラーを操作しながら話し掛ける。
「…」
カチカチと、爪を噛む音が聞こえる。
「まーなーちゃん。聞いてるのー」
「んだ、聞こえとるぞな…分かっとるんじゃ…」
「何なのこれー、ねーえー」
「んにゃ、口を縫い付ける」
「あ、ごめん。愛様」
「んだば、記事が変わる原因じゃが、さっぱりじゃ、んだど、香さの見えている世界と、私さ見てる世界、違うのは確かじゃて…恐らく、私さ見てる世界…しかも私とあんたさにしか記事は見えとらんかもしれん…」
「そうなんだ。この記事の送信元って分からないの?」
「…」
「…」
「…」
「愛様?」
「んにゃ、あんたさの名前通り冴とる…」
「出来るの、愛様?」
「波長、波動が合えばじゃが…」
カチカチと音はリズム良く止むことが無い。
「愛様、また爪嚙んでる…それ止めた方がいいと思うよ」
「私さにそんなこと言ってええじゃな」
「あー、ごめん」
千峰冴はYouTubeで占いを行っている。世にいう所のVTuberとして活動している。「冴えてる冴の売れない占いチャンネル」という愛が考えたチャンネル名で。ただ、実際の占いは愛がしている、愛とはこのテレパシーのような通信能力のお陰で小さい時から知っている。
冴は人の感情や思考が読めてしまう。何気なく口していたことが、相手にとって不都合で、そんな事が続き気味悪がられて、人と会話するのが怖くなった。
そんな小学一年生のある日、頭の中に聞こえたのが愛の声だった。最初は不思議で頭がおかしくなったのかと思ったけれど、愛は自分の事を理解し受け入れてくれた。「冴は、何も悪くないんじゃ、ただ人より少しだけ勘が良いだけじゃ」それから、毎日のように愛と会話し、その支えもあって学校生活を送って来れた。中学までは。
高校に入ってから、環境も変わり少しずつ人と話す様に頑張ってみたが、その感度が上がったのか、人の裏の声が意図せずとも聞こえてきて、聞こえないように、聞こえないように意識を向けても、聞きたくない声が聞こえてくる。欺瞞や偽善で溢れかえる空間に身を置けなくなり、人がこっちを見ただけで、話し掛けられるのが怖く、やがて外に出れなくなった。それ以来引きこもり生活を続けている。
そんな状況でも愛は変わらずに寄り添ってくれ、ある時、愛とオンラインゲームで遊んでいる時にYouTubeを勧められた。でも…と、二の足を踏んでいると、愛は「とりあえずやってみるんじゃ、私も傍におるじゃで」優しく粘り強く説得され、ゲームをすること自体は好きだったから始めてみると、不思議とコメントの文字からは感情は読み取れず、リスナーと会話をすることが出来た。何も気にせず人と話せたのは愛以外で初めてで。それから、毎日数時間行う配信が冴にとって生きがいになった。こんな風に初めはゲーム実況をしていたが、リスナーの相談に愛を通じて軽く乗っていたら徐々に噂が広まり、ゲーム配信より相談、雑談配信をが人気を博し、冴の気怠い喋り方と当たる占いが評判を呼び、それを気にチャンネル名を変更し今日に至る。お陰様で登録者は100万人に届く所までまで来ている。ちなみに利益の半分を愛にお礼の意味を込めて上納している。
「んだば、今から試してみるじゃ」
「え?ゲームは?フレンドのアヤカさん、蜘蛛さん、もう来てくれてるよ」
「それも大事じゃが…今はさ、こっちさ大事じゃ…」
「うん、分かった、愛ちゃん…無理しないでね」
「んだば」
ここの、お寺になかったとすると…どこ行ったんだろ。
この急な坂道を自転車を押して上るのも、チョーしんどかったけど、乗って降りるのもチョー怖い。さっきなんか勢い余って林の中に突っ込みそうになった。
やっと、まともなアスファルトの道に出たので、帰雲紅はポケットから棒付きの飴を取り出す。
「香ちゃんと美樹ちゃんを助けろ…か」
道路脇の砂利だらけのスペースに自転車を止め、リュックの中からペットボトルを取り出してゴクゴクと飲み、飴を舐める。
二人とは同じ高校でもクラスも違うし、会話もしたことが無い。でも美樹の事は瀬田港のうどん屋でバイトしているのは、その店の常連になっている親から聞いて知っていた。ごく、たまに一緒に行った日には、何故かいなかったけど…香に関しては今年の神舞のお祭りで知った程度だった。神舞の翌日、物珍しさに、二人の教室に行ってみたが沢山の生徒がいて会えなかった。
蝉の鳴き声と、木が風に揺れる音しか聞こえない。3年前に家族で東京から夕凪島に引っ越してきて、都会の殺伐とした環境でいじめを受けて暮らしていた事を思えば、この島は長閑でいい。ただ虫だけはマジ無理…
先週の日曜日、夢を見た。誰だか知らない女性の声で二人を助けろと、夢の中でどういう事か聞いてみると、私が出来る事をすれば、それでいいと言う。それが分からないと尋ねると、あなたの怒りの根源よ、辛いことを思い出すかもしれないけどね。
そこで目が覚めた。不思議と起きてからも夢は覚えていて、怒りの根源はすぐに思いついた。小学生の頃、大事に使っていた上履きをいたずらされた。それに怒った自分が相手を問い詰め「どうせ汚れるんだし、新しいの買えばいいじゃんか」男子生徒のセリフに何かが弾け、子供ながらにぼこぼこにしていた。普段は威張り散らして偉そうにしているに、殴られた瞬間ビビッていた。これがお前が私の上履きにした事、今のお前が上履きが思っていたことだ。そう思った瞬間、手を引っ込めた。
家に帰って洗ったけど墨汁で染まった上履きは元の色に戻る事はなかった。その上履きは足のサイズが大きくなり履けなくなるまでちゃんと使って、上履きの役目を終えた。まあ、それからは、あいつはおかしい、あぶない。人間より物を大事にすると噂が立ち、相手にされなくなった。俗に言う無視だ。中学校でもそれは続いた、小学校の同級生のほとんどが同じ地区の学校に通う。親は違う中学を勧めたが。あんな連中に屈するのが嫌だったし、あの時の自分の感情を裏切るのも。それでも心根のいい子達が声を掛けてきてくれた。その子とは、こっちに来た今でも連絡を取っている。
だって、大好きだった、じっちゃんとばっちゃんが言っていた、物にも魂はあるって。大事に使って使命を果たさせてあげないと勿体ない。もったいとは、物の本来の役目をいい、全うすることなく終わってしまう事を勿体ないと言うんだよ。そう教わった。夢の中で最後に黒い石が浮かんでいた。探して…そう石が話す。
ブーン、一台の軽自動車が道路を走り抜けていく。
取り出して見るスマホの記事は、二人が映画のロケの為に神舞をするというものに変わっていた。マジ何なのこれ?コロコロ変わるんですけど?
ペットボトルの残りを飲み干す。
それからというもの黒い石を探している。親や彼氏に聞いても黒い石のことはさっぱりで、ネットで調べても宝石やらパワーストーンとして紹介されている物ばかりで、夢で見た黒い石とは見た目が全然違うものばかりだった。
それから最初の二人のニュース記事を見た瞬間、さっきの寺の赤い社が頭の中に浮かび、最初はこのお寺だっていう事は知らなかったけど、今日の朝、近所の宝樹院のお坊さんに聞いたら、このお寺にある事と、赤い社の中に磐座という石の神様を祀ってあると教えてくれた。
「あのお坊さん、磐座さんが無くなっているの知らないみたいだったし…あーつーい。もうマジ暑い」
蝉が目の前の地面に止まる。
「…」
「キャー、どっか行って、マジ無理」
ハッと立ち上がると蝉は何処かへと飛び去ったが、後ずさりながら立ち上がったせいでお尻が自転車にぶつかり、ガシャンと横に倒れた。
「もー…」
自転車を引っ張り起こすと、
「ごめん」
サドルに手を添えて謝った。
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