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うごきだしたもの

*『つないでゆくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでゆくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


兄は新幹線に乗ってから、ずっと仕事をしている。岡山からはマリンライナーという快速電車に乗り換えれば高松まで約一時間で着く。今日中に高松に着ける算段を兄が取ってくれ、ホテルは高松駅前のエレガントホテルを予約した。高松港のすぐ傍で少しは睡眠を確保出来ると考えたから。新幹線はもうすぐ京都に着く、トンネルに入り速度が落ち女性のアナウンスが入る。

舞は結局、持ってきた本に目を通す気力はなく、その点、仕事とはいえキーボードを叩く兄に敬服している。いやずっとしているのだけど、今回の事や、自分の失踪?で一段と兄の存在の大きさと大切さを再認識したとでも言えばいい。状況が変わらないうちに出来る事をやっとくのだそうだ。イヤホンをして集中している兄の横顔を見ていると、視線に気がついたのか、こっちを見て首を傾げている。舞は手を振り、口の動きで「なんでもない」と伝える。兄は、ニコッと笑い作業を再開する。

京都駅に着き降車する客が多い中、数名の乗客があり、前の席にサングラスを掛け華やいだ服装の、けれども品を感じる、恐らく自分より若い女性が腰を掛ける。連れの年上の女性は通路側に座った。ホームのベルが鳴り、新幹線はあっという間にスピードを上げていく。舞はスマホを取り出し、ニュース記事を恐る恐る確認する。

「え?」

思わず声が出る。同じタイミングで前の席からも声がした。通路側の女性がシートから顔を出しこっちを不思議そうに覗き見ている。お互いに会釈をすると女性は顔を引っ込めた。

舞はスマホの記事に視線を落とす。日付が8月10日木曜日になっている。『今日、午後14時頃、夕凪島瀬田町の国道で二人の高校生はねられ重傷…』どういうこと?

兄に話をしていけど作業に集中している。一人悶々としている間に新幹線は新大阪駅を出発する。大阪の町の明かりが流れ過ぎ、トンネルに入り新神戸駅に止まる。どういうこと?記事の日付が後になって内容も死亡事故ではなくなっている。香ちゃんが何か行動したの?6日だった日付が後退して10日になった。事故の度合いも変わる。この数時間で何が影響してこうなったのか?全く分からない………ご住職の話だと香ちゃんと美樹ちゃんに、まだボディガードを付けているようだし、魂を命を狙っている者の影はなさそうだ……でも、もしかしたら、どこかで?……いや、あの男は消えたから………何だろう…窓の外と同じ闇の中にいるようだった…

「舞、起きて」

「ん?」

「もう岡山に着くよ」

「ああ、ごめん」

いつの間にか寝てしまったようだ。縮こまった体を伸ばしていると、兄が棚からキャリケースを取ってくれている。前の席の女性客達も岡山で下りるようで立ち上がって準備をしている。

「みずほ大丈夫?」

年上の女性の小さな声を耳にした。新幹線のスピードが落ち車内アナウンスが掛かる。あと少し……ホームに滑り込み、窓の外が一気に明るくなる。

「舞、行くよ、忘れ物ないように」

「うん」

高松行きのマリンライナーは既にホームに停車していて、指定席は二階建ての先頭車両の二階部分だった。シートに着席し発車を待っていると、新幹線で一緒だった二人の女性達が通路を歩いて来る。みずほと呼ばれていた若い女性はサングラスを外していて、どっかで見た事あるような…そんな気がする。相手も気がついたのか会釈をすると数席後ろに腰を掛けていた。

ホームの発車ベルが鳴り、電車はゆっくりと走り出す。ガチャガチャと音を立てながら車体を揺らせレールを跨いでいるようだ。その揺れに身を委ねていると今の心境と重なる。高松まで後一時間か。

「舞、記事見たけど、どういう事なんだ?さらに訳が分からなくなってきた…そもそも本当に起こるかどうか分からないけどさ、最悪の記事ではないにせよ…」

「私も、さっぱりだよ…」

「とりあえず、明日、高松港を8時半に出るフェリーに乗るよ、一時間で着くから10時のミーティングには間に合う」

「でも、何処でするの?」

「ワークスペースはなさそうなんだよね、まあ社内ミーティングだからホテルのロビーかなぁ」

「そっか、ありがとう…それとね思い出したんだけど、後ろに座っている若い女性、あの人女優の杵築八雲きつき やくもさんだよ」

「え?」

「静かに…」

舞は兄の口を手で塞いだ。申し訳なそうに頷くと、さらに小さな声で、

「何でいるの?」

「もう、そんなの知らないよ…」

「そりゃあ、そっか」

兄は頭を掻いて笑っている。舞が杵築八雲に気がつけたのは歴史好きが高じて時代劇をよく見るからだ。八雲は3歳の頃から子役としてドラマやCМに出演していたらしい。その後、本格的に女優に専念し特に時代劇での所作、立ち居振る舞いが凛として美しく。数年前に連続ドラマ『源義経』で演じた静御前が大好評を博し今や若手ナンバーワンの女優と言っても過言ではない。

電車がトンネルを抜けると、レールの反響音が変わる。瀬戸大橋を渡っているようだ。海と山と空との境界線が分からない暗闇の中に船の赤色灯や灯台の点いては消える明かりが散らばっている。ため息をつくと窓ガラスが薄っすら曇ってスーッと消えて行った。

舞は窓の外を眺めている。啓助はスマホを操作して、夕凪島から帰る、あの日に香から送られたメッセージに目を通す。気になっていた一節がある、『…二人だけの秘密です。あなたは、また島に着ます。巫女の預言です。もし、バラしたら…化けて出てやりますからね!…』……今こうして向かっている。預言通りに……実際の所、この一文を思い出したのは夕食の時で、それもあって夕凪島に行こうと思い立った。でも、あの日あの時、双子の神様は香の能力は無くなったと話していた。どういうことなのだろう?香が冗談で書いたにしても、化けて出てやりますという文言が、あのニュース記事に重なり、頭をもたげてくる。秘密を破ったら、本当にそうなってしまいそうで…だから約束を守り、舞にも話していない……何も起きないでくれ、天井の蛍光灯の一つが点いたり消えたりチカチカしていた。


部屋の電気を点けようと壁のスイッチを押しても点かない?あれ?もう一度やり直すと明かりが点いた。何やろ?香はエアコンのリモコンを手に取りスイッチを入れて、机の椅子に腰かける。目の前にある家族写真の隣に、啓助と舞が誕生日プレゼントで送ってくれた、美樹と一緒に写った寝顔の写真がある。そこに舞の字で言祝ことほぐと、デフォルメされた文字が色ペンで書いてあって、それが笑顔のように見えてかわいい。そして写真立てに二人からのメッセージカードを入れている。『香さん、誕生日おめでとお』、『大好きな香ちゃん、おめで鯛』

「もうちょっとしたら会えるんよね」

それを見るだけで自然と微笑んでいる。誕生日プレゼントが寝顔の写真なんて、良く思いついたなぁと思う。美樹にも同じ物が届いていて、やっぱり同じ様に机の上に飾ってあった。プレゼントは啓助と舞が東京に帰った次の日の午前中に届いたけど、消印が夕凪島になっていたから、こっそり準備してくれていたみたい。現に誕生日当日は「プレゼントなくてごめんね」と、舞は言っていた。上手く言えないけど、そんな心遣いをしてくれた自体が嬉しい。

香は、そう自分の未来を知っている。啓助と舞が東京へ帰る日、お山での『神舞かまい』が終わり、二人を見送りに行くまでの間に夢の中で見ていた。全てを知り得た訳ではないと思う、ただ、そのビジョンが今の香に取って栄養源の一つになっている。

頬杖をついてぼんやり眺めていると、

「んだば、いいか?」

「ビックリした…」

突然、まなが話し掛けてきて、机の角に肘をぶつけた。

「んだども、可笑しいんじゃ…運命が変わったとでも言うんじゃろか………んー」

また、爪を噛んでいるようだ。

「あの…」

「んー…」

「あの?まなさん?」

「ああ…んなら、あんたさ見た未来教えてな」

「それは…その前に一つ聞いてもいいですか?」

机から離れベッドに腰掛けて、チェストに立て掛けてある美樹がくれた絵を眺める。

「何じゃ?」

「どうして、私に声を掛けたんですか?」

「ん?…ん?」

「あの…」

「ん?………あんたさ…もしかして…」

「は?」

「ばか?」

「ばか?…」

ん?何で?いきなり、ばか?って…怒りは湧かないけど…逆に可笑しくて笑うのを堪えた。

「…私が見た未来は…」

お読みくださりありがとうございます_(._.)_

適宜、誤字や表現等変更する場合がございます。予めご了承の程を。

まだまだ文才未熟ですが、もし面白い!と少しでも感じてい頂けましたら、いいねや評価をポチッと押して下さったら、嬉しいですし、喜びます(^^;。モチベーションにも繋がります。よろしくお願いしまし_(._.)_

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