うごきだしたもの
*『つないでゆくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでゆくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
母屋の窓の外は黄昏も終わりつつあり、夜を迎えに来ている。少し風が吹き出したようで、枝葉がカサカサと音を立ている。
夕食がてら松寿庵に顔を出し、幸の元気な顔を見て来た。
丁度、香も帰って来て自分に気づくと、
「いらっしゃいませ、ご住職」
お冷を継ぎ足してくれ、少しだけ話をしたが、以前に比べ自信がついたのか、大らかな波動が出ていた。
しかし、舞や風子が見たというニュース記事は何処を探しても見つからない。二人が嘘をつく理由もないし、問い合わせの時の声もどことなく不安が滲んでいたように思う。この一件は越知、川勝、大江、毛利の四人には伝えている。やはりというかこの四人も当該の記事は無いと話す。念の為、文献にも目を通してみたが、何か関連するような発見はなかった。
「んー」
思わず唸り声を上げる。何かの力、何者かの意図?が働いているのか?あれから、姫巫女様の近辺、並びに結界に取り憑くような輩は現れてはいない。
玄関脇にある電話が鳴り、腰を上げ傍に行く。
「もしもし、西龍寺、不破です」
「あ、龍応様。先程は失礼いたしました」
「いえいえ、どうされました?」
「ニュースの記事の件ですけど、内容が変わっていまして…」
「え?」
間抜けな声を出してしまった。風子の話では記事の内容が火事に変わり、日付も前日、ようは8月7日から6日になり、三人が亡くなるのは変わりがないというものだった。まったく分からない、そもそも記事の出所もそうだが、なぜ三人だけなのか、どうして記事の内容が変わったのか?
「もしもし?龍応様?」
「ああ、失礼しました」
「あの、そちらに伺ってもよろしいでしょうか?」
「それは構いませんが、大丈夫なのですか?」
「ええ、まだ家に慣れなくて…大事にしてくれてはいるんですけど…私、そのお二人に会ってみたいんです」
「なるほど…」
「2、3日の滞在になると思いますが、明日の朝一番の電車に乗れば、お昼前には着けると思います」
「そうですか、分かりました、もしあれでしたら前の時のように私の麓の家を使うといい」
「いえ、またご面倒を…」
「構いませんよ…わざわざ連絡ありがとう」
「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます。失礼します」
電話を切り大きく深呼吸する。記事が変わるとはどういうことなのだろう……何かのメッセージなのか?何が起きているんだ……
カタカタ、雨戸が風に揺れ、ザー、ザザザー木々も騒めき出した。嵐が起きるとでもいうのか…それは滅多に動じることのない龍応の心が如くであった。
峠を越えるのはしんどい、
「あー、バスにすればよかった…」
自転車を押しながら薄暗くなってきた坂道を歩く、車は軽快にビュンビュンと追い抜いていく。幸い追い風が背中を押してくれているが、ミニスカートと髪を弄んでいる。街灯の傍に群がる虫に慄きつつ、そこだけは駆け足になる。
「はあ、もうマジ無理」
ようやく峠のてっぺんに来て町の明かりが見える。ポケットから棒付きの飴を出し咥えると、自転車に跨り坂道を軽快に下る。風が掻いた汗を冷ましていく。夏休みで人気のない高校を横目に、坂の勢いを活かしつつ立ち漕ぎして目的地へ急ぐ。
瀬田港のフェリーターミナルの入り口の脇に自転車を止めて、うどん屋に入る。
「らっしゃい、ああ、トトヤのべにちゃん」
店長は笑いながら指を鳴らしている。
「店長、トトヤはやめて」
「はいはい、帰雲さんちのべにちゃん」
「ああ、まあべにの方はいいけど…」
名前が紅と書いて「こう」と読む。だからか大体の人は「べに」と呼ぶ。
「美樹ちゃんいる?」
「ああ、ウチの看板娘は休みや…看板下ろしたおばちゃんしかおらへん」
「おばちゃんで悪かったわね」
「冗談やで…」
マジか、いないか…
「どしたん、べにちゃん、そもそも珍しいな、美樹ちゃんに用事か?」
「あ、ん、まあね、明日は?」
「あ、休みやな、数日休みやったはずや」
「マジ?……じゃあ…」
「なんやねん、食べないんかーい」
店長の声を聞きながら店を出た。マジか…自転車の脇にしゃがみこんで、小さくなった飴をかみ砕く。ん?これからまた峠を越えて家まで帰るの……ガックリと項垂れた。ポケットをまさぐる。
「最悪…」
飴も品切れだった。
「ふー」
湯船に浸かると自然と声が出る。そう言えば舞さんがニュースがどうって言ってたのは何やったんやろ?
最初の時の電話の声は自分の声が聞けて、ホッとしているようだった…舞さんが嘘をつくはずないし…けど、そんなニュース出てなかったんよね……何やろ?
両手を前に伸びをする。あとで、本の続きでも読もうかなぁ…
「あんた、松薙香か」
「わっ」
突然、頭の中に声が聞こえた。
「すまんな」
以前、舞さんや美樹と話した時の感覚と一緒。
「…いえ…あなたは?」
「私さ、三輪愛じゃ、三つの、輪っかに、愛で愛」
名前を説明するときの喋り方とテンポが可愛い。
「愛さん」
「あんた、自分の未来さ見たんかね?」
「え?ちょっと待ってください、あなたは一体…」
「ん?…ちと待て」
カチカチと何かの音がする。香はのぼせそうになったので、湯船から上がりシャワーチェアに腰かける。愛は喋り方が独特だけど声の感じは若いように思う。
「他の者の介在か…己の選択ではないのか…見えぬのか…何故じゃ?」
「あのぉ…」
「んにゃ、変わってはいるが…何か…さらに介在している力がある…これは何じゃ」
「あの…」
「ああ、ごめんな…確かに見えぬな…あんた自分の未来見えないんじゃろ」
「いえ、全部ではないんやけど…見ました」
「は?…そう……なの……か?」
ポツリ、ポツリと話し、だんだんと音程が下がって行く。意外だったのだろうか?愛は黙ってしまった。
「…見たのは、一回だけ…ですけど」
「んなら、どんな?」
「どんなって…」
香は流石に言いあぐねた…相手の素性を知らない…こうして話せてるからには自分と同じような能力を持っているんだろうけど………すると頭の中のスクリーンに山の中の一軒家が見える。斜面に立つ二階建ての家、周りは畑…田んぼ?その家の二階の部屋、カーテンが閉まって電気も点いていない暗い部屋、その中で唯一の明かりのモニター、その前の椅子に座っている、髪の短い女性が爪を噛んでいて、カチカチと音がする。モニターの明かりに反射した顔がニヤっと笑う。
「見えたな私さ」
「あ、はい」
「んなら、風呂さ上がってから、声かけるで」
「え?」
……あ!私が見えていたという事は愛さんにも私が見えていた?……もう…香はシャワーを掛けて風呂を出る。
それにしても、何であんなこと聞いたんやろ?
「ハックション」
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