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後日談・つないでいるもの  作者: ぽんこつ


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おくりもの・終章

*『つないでゆくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでゆくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_

*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」


8月15日火曜日

そしてその日を迎えた。

典型的な南高北低の気圧配置で全国的に晴れの予報が出ている。

杵築八雲は朝方に出演した情報番組でも呼びかけていた。

「仕事や勉強やすることがある人は目の前の事に集中していいから、手が空いている人は一人でも多くの人に共有して祈って欲しい、神様はみんな、一人一人の中にいるんだよ、自分自身の魂やご先祖様の願い。それこそが神なんだよ。ご先祖様を思う事は自分を思う事と一緒なように、自分を思う事はご先祖様を思う事。自分と大切な人や物を思いながら、ありがとう、お陰様で幸せだよ、みんな幸せになるよって願って。一分でいいから祈って下さい」

千峰冴はライブ配信を行い、リスナーと一緒に祈るようだ。

「時間まで、雑談ねー、一つだけいいかなー、あのねー。私を支えてくれてありがとう。みんなのお陰なんだよ、ほんとに助けてもらってる。ありがとうみんな…これだけ言葉で伝えたかった。じゃあー、何はーなすー」


夕凪島の寺院や神社では、その時間に合わせて一斉に祈りを捧げるための準備をしている。

宝樹院の境内には痩身の眼鏡を掛けた男性の家族、恰幅の良い忙しく扇子を動かす男性の家族や棒付きの飴を咥えたカップル、近所の人々が続々とシンパクの元に集まっている。

西龍寺では見晴らしの良い護摩堂で住職が友人達と祈りを捧げる準備をしている。

他にも、黒ずくめの男二人が寒霞渓の展望広場で観光客に声をかけていたり、夏休み中の高校生の一団は瀬田神社の境内で空を見上げている。

病室から空を見上げる女性。

二十四の瞳映画村の木造校舎の傍で、撮影中の映画の関係者が眼前に広がる海に向かって、ずらりと整列している。


東京の郊外という事もあってか都心部と比べると空が青い。

切り開かれた山の斜面に広がる霊園の一角に早川家の墓はある。段々畑のように沢山の墓が整然と並んでいて、てっぺん辺りには有名な推理作家の墓もあるという。

兄が柄杓で水を掛けると、墓石は日光を浴びてキラキラとして気持ち良さそうだ。線香の煙と花でおめかしたお墓に手を合わせる。

目を開けて腕時計を確認すると針は8時45分を指していた。

「もうそろそろだね」

「ああ」

兄は墓石の前の石段に腰掛けると、煙草に火を着け見上げた空に煙を吐いた。

何処からともなく飛んできた一羽の鳩が墓石に止まる。嘴にオリーブの枝を咥えていて、首をリズミカルに動かしキョロキョロすると、枝を置いてサッと羽ばたいて斜面を下って行った。

今日もSNSには『#みんなで祈ろう815』が飛び交い、タイムラインに溢れている。それは、いつの間にか様々な言語で世界に蔓延っていた。


想いが、願いが、祈りが、人を繋いでいく、いろんなところで、


北海道・富良野

家族ずれの観光客の一人が、

「あ、ぼちぼちやんな」

「そやね」

「あのーすんません」

誰と構わず大声を出す。


岩手・盛岡

「そろそろだ」

縁側に腰掛けた祖父が声を掛ける。

「みんなこっち来て」

娘が孫達を呼ぶ。


秋田・羽後

山の斜面に建つ一軒家の二階の窓から空を見上げる一人の女性が呟く。

「婆様……」


新潟・新潟市内

走る観光バスの中でバスガイドが声を上げる、

「皆様、私に一分時間をくださいませんか?」


栃木・日光東照宮境内

「先生、時間なんでいいですか」

「おおそうか」

「みんな、ここで休憩、もうちょっとで時間だから集まって」

制服姿の中学生達が集まって来る。


茨城・水戸

千波湖のほとりにある広場に集まる人々。

「もうちょっとだね?」

「うん、でもここにいる、みんなそうなのかな?」

「どうだろう、でも空見たりしてるからそうなんじゃないかな?」


神奈川・由比ヶ浜

砂浜に座っている水着姿の女性達が、空を見上げる。

「ねえねえ、ぼちぼちでしょ?」

「うん」

「準備は?」

「イエーイ!」


東京・東京スカイツリー展望フロア

「ここですれば効果あるんじゃないの?」

「効果とか関係ないでしょ」

二人組の女性客は、ガラスの向こうに広がるコンクリートブロックの上の空を見つめている。

傍に居た男性客が声をかける。

「あの?もしかしてあなた達も?」

「え?」


東京・新小岩

陽だまりの公園の中に一人、空を見上げる男性。

「愛してるよ……」


山梨・一宮

ブドウ畑に囲まれた一軒家。

「みんな集まったな」

長老格の男性の声に、孫娘が答える。

「お爺ちゃん親戚一同、皆来てるよ」


富士山山頂

登山客のフードを風が膨らませる。

「ここでするのはうちらくらいじゃない?」

「だよな」


長野・戸隠

ニンジンを差し出すと、馬が嬉しそうに「ブルル…」鼻を鳴らす。

「お嬢様、もうすぐお時間です」

「そうね」


富山・魚津

防波堤に立つ男子学生の観光客グループ。

「蜃気楼はみれないのかな?」

「時期が違うだろ…」

「おい、もう少しで時間だ」


愛知・名古屋駅

停車中の新幹線車内。一人の男が席を立ち、乗客に声をかける。

「皆さんにお願いがあります」


京都・金閣寺

池には波紋一つない見事な鏡面が映し出されている。

「ここならいいんじゃない?」

「場所は何処でもいいんだよ」


大阪・梅田駅

電車内に気の良さそうな中年の夫婦がいる。

「せや、ぼちぼちでんな」

「ほんまや、空見えんけど…」

「まあ、ええやろ…おにーさん、おねーさん達」

乗客に声を振り撒く。


和歌山・高野山

杉林と石灯篭に囲まれた石畳の参道を歩いていた一人の僧侶が声を出す。

「皆様、よろしければ私と一緒に…」


兵庫・赤穂

瀬戸内海と赤穂の町並みが一望できる観覧車に乗っているカップル。

「そろそろやん」

「丁度てっぺんかもな」


愛媛・松山城

本丸広場にいるボランティアの年配の女性が大きな声を張り上げる。

「みなさん、お願いがあります」


広島・仙酔島

彦浦にある通称「閃きの門」と呼ばれるパワースポット。

浜辺に腰掛け海を見つめる一人の観光客の女性。


島根・津和野

城跡の迫り出した石垣に腰を掛ける十数人のグループ。

「ぶち集まったなぁ」


山口・仙崎

青海島を周遊する遊覧船で一人の女性が声を上げる、

「あの、皆さんに、お願いがあるんですけど…」


大分・姫島

姫島港へ向かうフェリーのデッキで大きな荷物を携えた乗船客の一人が、空を見上げている。

「そろそろかな」


熊本・人吉

「さあ、もうすぐばい」

「そうだな」

「みんな準備は?」

「オーケー」

球磨川の河川敷に集まった人達が応える。

日本全国で数えきれない人がその一瞬を待っている。

エーゲ海に浮かぶ豪華客船でも、人種や国籍の垣根を超えた人々が星の瞬く夜空を見上げている。


そして、人々の祈りの輪が広がる…

すると空にぼんやりと光の帯が現れた、それは徐々に大きくなり光の幕、いやカーテンとでも言おうか、いやオーロラとでも言おうか、出現した光は少しずつ空を染めていく。淡い光は虹のように幾つもの色を持ち、鮮やかなネオンサインの様に色を変えつつ、まるで生き物みたいに広がり動き空全帯を覆っていく、そして風に揺れるているかの如く何処までも棚引いている。

霊園の向かい側の山の稜線に掛るそれは、そこまで行ったら触れそうに思える。見渡す限りの空に描かれた光は、きっと人々の願いの結晶なんだ。

「みんなが足りない欠片を助け合って生きていくのがこの世界。足りている人なんていないんだよ、だからそのままでいいんだよ、あなたも誰かの欠片を埋めているの。誰かがあなたの欠片を埋めてくれているように。気が付いた時に愛や感謝が産まれるんだけど、気が付かなくてもいいんだよ、存在している事がご先祖様からの贈り物で、あなた自身が宝物なんだよ。お日様の日差しを浴びて、雨を浴びて、風を浴びて、それも誰かからの…」

煌めく空を見上げながら舞は、そんな声が聞こえた気がした。


世界各地で目撃された、この光を見上げた人々から歓声が沸く。目の前の出来事に笑う人、泣く人、SNS上に動画や写真が飛び交う。戦地で頭上を飛び交うミサイルや弾丸よりも多くの。その僅かな時間だけ、銃声や轟音が止んだ。悲しいのは僅かとういうこと。喜ぶこともある、その僅かな間だけ、多くの地球人の心とまで言わないが、間違いなく目線は一つになった。

それはほんの数分間にも満たない出来事。やがて天を包んだ光は何事も無かったかのように跡形もなく空に滲んで消えていった。

そして、見終わった誰かが呟く。

「天…照らす……か」



数日後――

SNS上ではまだ余韻があるけれど、この間の出来事が無かったかのように地球は動いている。

ピンポーン、玄関のインターホンが鳴る。

「宅急便です」

「はーい」

兄が返事をする。来た来た。

「いいよ、お兄ちゃん私が出る」

舞は台所で洗い物をしていた手をタオルで拭き、リビングで仕事をする兄に声を掛け玄関に向かった。

「はーい」

サンダルを履いて玄関のドアスコープを覗く。帽子を被り、縁のない眼鏡を掛けた男性が大きな段ボールを抱えていた。

鍵を外して玄関の扉を開けると、外の熱気が入って来る。

「いつもご苦労様です」

「重いのでそちらに置きますよ」

配達員は玄関の軒先に段ボールを置くと伝票を差し出した。

「ありがとうございます」

舞はそれにサインをすると、配達員はタオルで汗を拭きながら、伝票を受け取り確認している。

「あっ、ちょっと待っててください」

配達員は不思議そうに首を傾げている。舞は台所へ小走りに行き、冷蔵庫からペットボトルを取り出し玄関へ戻った。

「いつもありがとう…」

名札には香取とある。

「香取さん」

ペットボトルを差し出す。

「いえ、仕事ですから」

両手を前に断る香取に、

「いつもありがとうの気持ちです、配達してくれる、みなさんに渡しているんでお気になさらないでください」

「そうですか、じゃあ、遠慮なく」

ニコリと白い歯を見せると、香取はペットボトルを受け取って帽子を取り軽く頭を下げて去っていた。

「お兄ちゃん、ごめん、重いから台所まで運んでくれる」

段ボールの伝票には世良風子と記載がある。先日、お願いして仙崎の名物を送って貰った。

「ちょっと、お兄ちゃん」

「あ、ごめん、舞ちょっと来て」

もう、こっちが呼んでるのに…

リビングに行くとソファに座っている兄はニヤニヤしながらノートパソコンのモニターを見つめている。

「どうしたの?」

「ほら、こないだの墓参りのついでに買ったスピードくじが1000万当たってた」

兄は一枚の紙を得意気に掲げた。

「へ?」

確かにあの日、お墓参りの帰りに最寄りの駅前にあった宝くじ売り場で、記念に買ってみようと遊び半分で購入したものだ。兄と一口ずつ購入していけど、買った事すら忘れていた。

「凄いな、これも願いのお裾分けかな…これは、舞の旅行資金にでも使えばいい」

「え?半分半分でいいよ」

ピンポーン。

「はーい。もうお兄ちゃん玄関の荷物は運んでよね」

「はいはい」

兄は頭を掻きながら立ち上がり後を着いてきた。サンダルを履いて、玄関のドアスコープを覗く。そこには見知った顔が佇んでいる。

「お兄ちゃんそこで待ってて」

荷物を運ぼうとしている兄を呼び止め、鍵を外して玄関を開ける。

「ビックリした。いらっしゃい」

お読みくださりありがとうございます_(._.)_

また、連載中お付き合い下さった読者の皆様ありがとうございました。感謝です_(._.)_

誰かの事を心配するより、幸せだよね、健康でいてねという想いで祈った方が良いと耳にしたことがあります。不安な心も安心の心も等しく伝播するらしいです。

それは実際、体感したことでもあります。もう他界した伯父がとある病で死の床に着いていた時、遠方にいた作者は当時の仕事上会いに行く事が難しい状況でした。そこで、自身の魂が喜ぶ空間にある寺院で病気平癒の御祈祷を上げて頂き、そのお札を送る事くらいしか出来ませんでした。すると、伯母からこんな報告がありました。送ったお札を伯父の枕元に入れていた数日間、数値が良くなったと。結局、伯父は旅立ちましたが、人の想いや願いは届くのだとその時感じました。

お読みになられた方の一人にでも、何かが届いていましたら幸いです。


ぽんこつ。


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