おくられたもの
ちょっと早いけど夕食にしようと兄に声を掛けて準備を始めた。何かしていた方が気が紛れる。
夕食のにゅう麺に兄は大喜びをしてくれて、追い素麺を茹でている。
何気なくブックマークしておいたニュース記事を開いてみた。
あれ?『今日、午前10時頃、夕凪島瀬田町で家を全焼する火事があり、住人の……』記事の日付は、8月6日日曜日。
どうして………
「舞、吹きこぼれてるよ」
いつの間にか傍に来ていた兄が、ガスコンロのスイッチを切った。
「どうしたんだよ」
兄に黙ってスマホを見せる。
「え?どういう事…」
茫然と見つめる兄に首を振り、その場に座り込んだ。記事は香の家が全焼し焼け跡から三人の…どういうこと?
兄がそっと肩を抱き締めてきた。
「さっぱり分からない…すぐにでも行きたいけど…」
「お兄ちゃん、私、明日行く」
舞は立ち上がり自室へ向かった。キャリーケースを引っ張り出し、荷物を入れ始める。
「ちょっと落ち着いて舞…」
後を追ってきた兄がその手を掴む。舞は唇を噛みしめて兄を見た。その顔は笑っている。
「行くのを止める訳じゃない、俺も動揺している最中だし、冷静じゃないと思うけど、舞らしくない。気持ちは分かるよ、俺も今すぐにでも駆け付けたい。ただ、今の状態の舞を、俺は安心して送り出せないよ、舞なら考えるし、勘も働かせる。それは普段の舞の時だろう?婆ちゃんだって急がば回れって」
舞はペタリとその場に座り込み。そうよね…落ち着こう…あの記事が本当に起こるとは限らないし…今は皆、生きてるんだもんね…目を閉じて深呼吸をする。
兄が肩を掴んできた。
「折角茹でたんだから素麺食べよう、無駄にしたらそれこそ香さんや美樹さん、皆に申し訳ないだろ」
「うん」
気が抜けた私に、兄は自分も冷静じゃないけど記事について考えてみようと切り出し、素麺を食べながら状況を整理してみた。
まず、その記事が本当に未来に起こる事なのか?
何故自分達を含めた三人だけにその記事が読めるのか?
最初に見た記事と内容と日付が変わっていたのは何故か?
本当に未来に起こる事なのかは、正直分からないとしか言いようがない。何故三人なのかも同様で、ただもう一人の世良さんというのが巫女の血筋だという事が気になる。もしかしたら他にも目にしている人がいるかもしれない…
記事の内容が変わった事については、香さんに伝えたから?そんな風に思った。
「なるほどね…香さんの行動が変わったから…記事も変わったって事?」
「これは確かめられるかも…香さんに連絡してその日の予定を変えてもらえれば…記事が変わって…ううん、あんな恐ろしい記事が無くなるかも…」
「確かに…でも…」
難しい顔をして、兄は言い淀み煙草に火を着ける。
「でも?」
「あまり言いたくないんだけど、仮に、仮にだよ、記事が変わって、またその……そんな記事が出たらと思うと…しかも日付が最初のより前の日になってるじゃないか…そのまま、香さんの行動をあれしていったっら…」
死が近づいて来る…
「ああ、じゃあどうしたらいいの…」
「待てよ…行ってみるのも手かもしれない…」
「どうしたの急に?」
「いや、何て言うんだ…以前、ご住職が話していたじゃないか…俺たちが神様に呼ばれたって、そん時にそれをキャッチできたとしても行動に移せるか否やで分水嶺になるって、もし自分達が夕凪島に行く事によって、香さんや美樹さんの行動が変わる可能性は大いにあると思う。それでもおかしな記事が出るのであれば、傍にいれば手を打てるかもしれないし、島には香さん達を守る一族もいる訳だし。そもそも記事自体が消えるかもしれない」
「ああ、でもお兄ちゃん仕事あるじゃない?」
「まあ、これがあればどこでも出来るけど…」
ノートパソコンを指さし、兄はスマホを操作している。
こんな記事を見せたのは神様が私達を呼んでるの?でも双子の神様は天に召喚された…誰かが呼んでいるの?舞は夕凪島に行く事自体は問題ではない。ただ、仮に神様が呼んだとしたなら、何か異質なものを感じる。それは死で表現されているから。
「明日の午前中、社で打ち合わせがあるけど、リモートでも出来そうだから…ちょっと待って」
兄は立ち上がり電話を掛けていた。
ああ、でも少し頭が回って来たんだ…少しは、ましな思考が出来る。
「オーケー大丈夫だ、仕事は向こうでも出来るから、舞支度して」
「え?今から?」
柱に掛けてある時計は18時になろうとしていた。兄はスマホを見ながら喋り始める。
「羽田、成田は遠いから、新幹線だな…そこなら仕事も出来る。今からなら…19時09分か、19時21分の、のぞみに間に合う。ホテルは乗れてから取ればいいだろう?」
「うん分かった、ありがとう、お兄ちゃん」
舞は洗い物を手際よく済ませ、荷造りを始める。荷物になるが『巫女に関する考察』もキャリーケースに押し込んだ。そして、コートラックにかけてある麦わら帽子に触れ、
「ユナさん、ユキさん、皆を助けて…」
祈りを込めて部屋の電気を消した。
居間では、兄が先に仏壇に手を合わせていて、舞はその後に手を合わせる。流石に家を空けるので、お線香は供えられなかったが、
「お父さん、お母さん、お爺ちゃん、お婆ちゃん、皆を守ってね」
声に出して祈り願う。
「じゃあ行くよ、忘れ物は?」
「大丈夫」
家を出ると、暑さと湿気が残っていて空気がまとわりつく。カアカアと二匹のカラスが電線から飛び立ち、釣られて見た空には、夕焼けに染まる雲が空を覆っていて、形や色がおどろおどろしく見えた。
暗い部屋でパソコンのモニターに映るニュース記事が変わったのに気が付いて、爪を嚙み首を傾げる。
「婆様が言うてた通り、じゃない?誰かが盤面を動かしたんだ…んにゃ、ある時期から変わったんじゃな」
デスクチェアに足を乗せて、膝の上に顎を乗せる。
「んだども、可笑しいんじゃな…」
カチカチと爪を噛む音が時を刻むようにリズムを打っている。
「加賀美!どうしてグリーン車じゃないの!」
小声で叫ぶ。
「そう仰られましても…お嬢様が急に出かけると申されましたから…」
「あ、そう、じゃあクビね」
「それは…それだけは…お父上様、お母上様にどう申し開きすればいいか…くれぐれもお嬢様を頼むと、この私めの手を握り…」
「もう、ごめん…今のはナシ」
「ありがとうございます…先程、例の記事ですが内容が変わったようでございます」
「え?」
「ごめん…配信中止しまーす…ほんとごめん…具合悪い…」
二枚あるモニターの一枚に映し出されている記事の内容が変わっている。
「なーんだろ?…」
モニターに顔を近づけてしっかりと見る。
「違うじゃーん…どーしてー?」
椅子に胡坐をかいて、結んでいた髪を解いた。
「え?これってマジヤバくない?」
「どうした?」
「ん?いや、ごめん政人、帰るわ」
「は?」
急いでリュックを背負うとそのまま部屋を出た。政人の親に挨拶して玄関を開けると、日が暮れかけている。
自転車に跨りもう一度記事に目を通す。
「マジヤバい…」
スカートのポケットから棒付きの飴を出して、咥えるとペダルを漕いだ。
「ハイカット!」
少しの静寂、空間に緊張が走る。
「オーケーです」
ドッと拍手が沸く。胸を撫で下ろし、お辞儀をしながら姉がいる傍に足を向ける。
「八雲、お疲れさん…ちょっとこれ見て」
スマホの画面の記事を見る。
「姉さん?どういう事」
「八雲が見たことに関係あるんじゃない?」
「杵築八雲さん、シーン36入りまーす」
「はーい」
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