たからもの
*『つないでゆくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでゆくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)
*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」
「どうじゃ、他人になって見た感想は?」
向かいのベッドに座る冴は足をパタパタさせ天井を見つめている。
「うん、あまり変わらなかったかな…でも、あの罪人は根っからの悪だね…心の中に人を殺めたクセに後悔するどころか、それが当然と思っている。自身が神だと思い込んでいる。どんな力を持っていたか知らないけど、香さんの慈悲すら響かない、悪意の塊で反吐が出そうなほど不快だった」
不味い物でも食べたような顔している。他人を悪く言う事のない冴がここまで言うのなら間違いないのだろう。
「そうか…でもよくやったじょ、冴…外に出るのも慣れたんじゃないか…」
「え?それはどうだろう…香さんとテレパシーで会話してたから周りが気にならなかっただけだよ……一人はまだしんどいかな…」
冴はガックリと肩を落とし腕を抱きしめ苦笑いを浮かべる。確かにここ数日で知り合った人々は巫女の仲間であるとはいえ、心の内が分かってしまう冴にとっては、少なくとも良き縁であったとは思う。内なる思いは人それぞれあるにせよ、上辺使いの言葉を駆使する人間ではなかった。
「んだな、でも進歩じゃよ、徐々にじゃ…」
黙って頷き自身の抱擁をゆっくり解き、冴はニヤリと笑う。
「そう言えば、愛ちゃんさ、10日までこの島に居たら、その死ななくて大丈夫になるって言っていたじゃん…あれってさ、全く関係ないでしょ」
「ん?」
冴め…人の心読んだな…
「だってさ、香さんの因果は解き放たれた訳じゃん…島にみんなが来ることによって、それを今日するのは分かっていた訳でしょ?しかも香さんがちゃんと存在する世界線になるのも。香さんがあそこで罪人に遭遇するのは聞いてなかったけどさ、だったら10日までいる意味ないじゃん。結局、神舞見たかったんでしょ?」
「…そうじゃ」
「まーいいけどさ。私配信したいんだよね…スマホでも出来ないことないけど…例の事リスナーに伝えたいし…」
確かに昨日今日と配信していない。配信は冴の生きがい、やりがいで、社会で生きていく為の大きな割合を占めている。
「ん、それはいい閃きじゃな…多くの人に呼び掛けられるじょ」
「15日の9時でしょ?二週間あったら結構広がるし、どうなるのかワクワクする。愛ちゃんにも分からないんでしょ?」
「んだな…」
まだ、皆には言ってないのに冴め…
「んだども、日取りさ皆には伝えてないじょ、それよりパソコンじゃな…」
「うん、だって10日までは島にいるんでしょ?折角、愛ちゃん傍にいるし、その間、配信できないの勿体ないからさ」
日も暮れかけた境内に、キキキキキ…と虫の鳴き声が何処からともなく聞こえてくる。
シンパクさんは、風を浴びて涼しそう。ポケットから棒付きの飴を取ろうとしてゴミしか入っていないのに気が付いた。マジか…最悪…でも、まっいいか。
足音がしてシンパクの幹の陰から人影がこちらに向かって歩いて来る。
ん?誰?立ち止まり見定めていると、聞き馴染みのある声がする。
「やっと見つけた」
「なあんだ、政人か」
「ほら」
差し出した政人の手には棒付きの飴が握られている。
「うわ、マジ天才。ありがと」
それを受け取り口に咥える。
「で、何をこそこそしてた訳、全く連絡つかないし」
「あー、うん、今度、友達紹介する」
「ん?」
顔を突き出し、困惑ている政人をさらに惑わせてみる。
「みんな、チョーかわいくて、一人いや…二人…有名人だけどね」
「え?」
「フフン」
しかめっ面をして首を捻る政人に笑ってみる。
「まあ、紅が楽しいならいいけどさ」
政人はポケットに手を突っ込み白い歯を見せた。
「よく私がここにいるって分かったね」
「そんなん当たり前だろ」
照れた時に鼻の頭を指で擦る。この場所で初めて出会った時もそう、付き合って欲しいと言ってくれた時もそうだった。
「ありがとう政人、そういうとこマジ好き」
「どういうとこだよ」
「フフン」
「今、戻ったわ」
「お帰りなさいませお嬢様」
加賀美はテーブルの上にあるグラスにアイスミルクを注いでいる。愛と冴の部屋で巫女の使命についての話し合いをしていた。決行の日取りは15日の9時。
「加賀美10日までホテルの宿泊延長して、愛さんと冴さんの分もね」
「かしこまりました。お帰りは10日で?」
グラスを片手にストローに口をつける。アイスミルクは鈴の幼いころからのお気に入りで、少しだけハチミツと加賀美お手製のガムシロップが入っていて程よい甘さが心を落ち着かせる。元々は牛乳が苦手だった鈴に対する加賀美の知恵の賜物である。
「あ、そうね、お昼過ぎかしら。ヘリで姫路辺りに行けるかしら?」
どことなく嬉しそうな加賀美は微笑みと共に会釈をする。ふーん。何か良いことでもあったのかしら?
「お調べいたします」
「あ、それから、お父様とお母様はどこかしら?」
「少々お持ちください」
加賀美は背中に挟み持つタブレットをサッと取り操作している。
ズーズー、吸っていたストローが残念な音を立てる。もうアイスミルクを飲み干してしまった。
「現在、ギリシャのミロス島に滞在されておられます」
「そう、電話繋いで頂戴」
「かしこまりました」
「あ、その前に…加賀美…」
「何でございましょう?」
グラスをテーブルに置き佇まいを正して加賀美を見る。察しのいい加賀美は向かいのソファに折り目正しく座る。
加賀美の目を真っ直ぐ見ることが出来ず、少し俯いて見つめる。ワタクシとしたことが…恥ずかしい事なんてなくてよ。目を閉じて背筋を伸ばす。
「あのね加賀美…いつもありがとう」
出来得る限りの笑顔を込める。
「…は?…あ、いえ」
顔が引きつる加賀美に、
「ワタクシの事…気にかけてくれて…本当にありがとう………」
両手を膝に付けて頭を下げる。
「勿体なき、お言葉……加賀美めは嬉しゅうございます」
顔を上げると、目尻の皺を一層深めて涙を流す品の良いおじさんがいる。始めて加賀美の涙を見た。込み上げる思いをせき止めつつ精一杯の笑顔を作る。
「これからも…よろしくね、加賀美」
ハンカチで涙を拭き、優しく細めた目でこっちを見つめると、サッと立ち上がり。
「ありがとうございます、お嬢様」
最敬礼する加賀美の頭には白髪が目立つようなっている。それを見ないように顔を背けた。
「もうそれ以上泣いていたらクビよ、早く、お父様とお母様に連絡とヘリの手配お願いね」
「かしこまりました、お嬢様」
美樹が見せてくれたイラストには七つの光の天使の梯子が、七人の巫女をスポットライトのように照らしている。
「凄いやん美樹、これってみんなをイメージしたん?」
「うん、まだラフなんや、七人やから虹をイメージしたいんやけど、香のイメージは白なん。白は虹の色にないんよね」
美樹は顎の下に人差し指を当て、いつものポーズで思案している。
「ふーん、別に拘らなくてもいいんじゃない?美樹のイメージの七色でいいと思うけど」
「そっか」
口を尖らせた美樹は小刻みに頷く。
「因みにみんなのイメージはどんな色なん?」
「えーと、香は白やろ、愛さんは紫、冴さんは緑、瑞さんは青、紅さんはピンク、鈴さんは黄色」
「うんうん、何か分かる、そしたら美樹は赤やろ?」
「えへへ、当たり、でも香大丈夫なん?」
「何が?」
「その、あの人と会ったり、それから変わった記事の事とか、なんか見えたんやないかと思って」
「ああ、記事の事なら平気、みんなで人の魂の光をみせるんよ、ありがとう美樹」
「何?やっぱりなんかあるん?」
美樹は顔を突き出してジーッとした目でこっちを見ている。
「アハハ、やっぱり美樹は気づくんやね」
「当たり前やん、何年一緒にいると思ってるん」
にっこり白い歯を見せて笑う美樹の笑顔は元気の元だ。
元々隠しておくつもりはなかったけど。さすがに、あの人と対峙したことが想像以上に疲弊している。力の様なものは感じなかったけど、体と言葉から満ち溢れる悪意に対して気を張っていたのもあるかもしれない。
冴や愛がテレパシーで励ましてくれていたのと、舞さん達があの場所に居たことで助けられた部分が大いにある。自分の中の黒い感情も、あの人の頬を叩いた時に、体からスッーと何かが抜け出るような感覚がした。
「それで、何なん?」
「あの人と会って、ちょっと疲れたかも…スッキリはしてるんだけどね…あそこで会うとは思ってもみなかったから…」
「どういう事?やっぱり偶然やったん?」
「愛さんと話をして、黒い石の傍に居るっていうのは分かってたんやけどね、呪いがどうとか言ってたから、そのせいで分からなかったのかも」
「呪い?」
「たぶんやけど、私達の力というか、引き継いでいるモノを封印しようとしていたみたいなん。あの人の力は無くなっていたけど、思い込みの強さの想念と黒い石の力が作用していたんかも」
「そうやんな、うちらの方が本命の筈やったからね」
「うん、あの人の姿を見た時にふつふつ怒りが沸いていくるのが分かってん、ああ、この人だって認識した時は怖かった…けど、ご住職や舞さんや風子さん、冴さんも居たから落ち着けたけどね」
そうか、あそこにみんなが居てくれたから、復讐せずに済んだのかもしれない。
「舞さん達が居たのも偶然やったんかな?」
「ううん、違うと思う。必然で居てくれたんやと思う。あの人の墓を調べに来てたんやと思う」
「そうなんや…もう結界みたいな不思議な事はないんかと思っていたけど、久留生一生が福山さんにそっくりやったんはびっくりしたわ…しかも二人おって、今の時代の人間やないって…目の前で光に包まれて消えてんで…でも、これで、良かったんやろ?愛さんも、そんなん言うてたし」
「うん、大丈夫、後は巫女の使命を果たすだけ…」
「そうやね、それまでにイラスト仕上げよう」
美樹はテーブルの上のスケッチブックを頬杖をついて眺めている。
「あんな美樹、私行ってみたい所があるん」
「ん?行ってみたいとこ?」
キョトンとした顔で首を傾げると、美樹はニコッと微笑み、
「へー、珍しいやん、どこなん?うちも一緒に行こうかな」
大きな目をキラキラさせている。
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