せまるもの
*『つないでゆくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでゆくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)
*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」
島には似つかわしくないロールスロイスが昼食を済ませた定員一杯の巫女を乗せて走る。内海の町を抜け、幾つかの醤油工場が建ち並ぶ先にあるベイサイドホテル夕凪島の駐車場に入る。
一行はホテルのロビーで待っていた八雲の案内の元、津山勲の部屋へと向かう。エレベータは定員ではないが、緊張があるせいか狭く感じる。部屋は最上階のスイートルームだ。一分にも満たない時間が長く別世界へ通じているタイムマシンのように思える。
部屋をノックし扉を開けた勲は一行を見て顎を引いて見渡すと、微笑みと共に部屋に招き入れ、人数が人数で和室で対面する事となった。
勲が座る背後の床の間には三方に乗せられた黒い石と刀掛けに日本刀が横たわっている。
「先生、お願い聞いてくれてありがとうございます」
勲の前に座った八雲が頭を下げる。
「なんの、なんのかまわんよ、しかし、みんな同い年かい?こんな若い子達に囲まれると、ドキドキするな…ん?」
勲の視線が一人の女性を捉えると明らかに表情が変わる。幽霊でも見ているようだ。
「先生どうされたんですか?」
「ん?いや」
愛が呪文を唱えだす。
紅が立ち上がり床の間にある、黒い石を取り上げる。
「おいおい、どういうことだい?八雲ちゃん?人の部屋を勝手に…」
流石の勲もキョロキョロとおぼつかず訝し気な表情を見せる。
「磐座さんだよ」
黒い石を翳し見ていた紅が言い放つ。
「何?」
勲は眉間に皺を寄せジロリと紅を睨みつけた。
「みんなさ、この人じゃない」
「え?」
その声に一同が唖然と愛に視線を向ける。
「おいおい、どういうことだい?」
当の勲は、勝手な振る舞いに怒るより先に事態が呑み込めないようで、しきりに首を捻っている。
「先生、ごめんなさい」
八雲が平謝りで事情を説明する。フン、フンと聞き分けのいい子供のように八雲の話に耳を傾け、時に頷き、唸り声をあげ最後には腕組みをして不動明王の様な顔をしていた。
「ほう、にわかには信じられないが……うん信じようじゃないか…ただ、その石が磐座ってどういうことだい?俺は京都から頼まれて持ってきただけなんだが…」
「先生、どなたに頼まれたんですか?」
勲は腕組みをして、虚空を見つめていたが、パンと手を叩き口を開いた。
「ははーん…なるほどね…石の持ち主は久留生の親父さんだよ。何でも墓参りに行くから戻ってくるまでの間……噂をすればだな…」
勲の視線の先を振り返り見る一行は、そこに悠々と立っている久留生一生の姿を捉えた。それにしてもどうやって入って来たのか?鍵を掛けていなかったのだろうか、そんな疑問をよそに玄関へと続く通路から、もう一人の久留生一生が姿を現す。
「双子でしたの?」
鈴が全員を代表して驚きの声を上げた。
「ハハハ、これはこれは…一同勢ぞろいで…ほう、大巫女様もおいでとは…」
一生Aが一人の女性を注視して薄ら笑う。
しなやかな動きで加賀美が一行と二人の久留生一生の間に入り仁王立つ。
「おい久留生、人の部屋で手荒な真似するんじゃないよって、お前さん兄弟いたのかい?」
「ああ、先生、石を取りに来ただけですよ」
一生Aが大らかな笑顔を作るが、その目は笑っていない。
「マジウザい、勝手に盗んで何言ってるの?」
紅は後ろ手に黒い石を隠し持った。
「おい姉ちゃん、そっと持ちなよそうじゃないとパックリ切れちまうよ」
勲は穏やかに、紅に言い聞かせている。
「いやいや、手を煩わせないでくださいな…」
一生Bが、肩揺すりながら首を振る。
「あなた方がお寺から盗んだのはとおに知れててよ」
鈴が威勢を張ると、
「うるさいガキどもだな…おいおい、爺さん止めときなよケガをする…いや死んじゃうかもしれないよ」
一生Bが鈴を一瞥し、警戒する加賀美に牽制の言葉を投げる。
「しかし、大巫女がいるとは…」
一生Aが一歩踏み出そうとした時、カチッと爪の嚙む音がして、それを合図に四人の巫女が一斉に言葉を発した。
「てんたかく、あわきほしふる、あまてらし、われらのいのり、ひかりとならん」
次の瞬間、二人の久留生一生の体が光に包まれる。
「何…」
続けて、愛がブツブツと聞き取れない早口で呪文を唱えると、二人は金縛りにでもあったかのように身動きが取れないようだ。
そして、あろうことか光がしぼんでいくと共に二人の姿は消えた。
「んだ、成功じゃ…だども…」
「おいおい、どういうことだい?あいつら、消えちまった…ぞ」
勲は誰に聞いていいのか分からず、挙動不審なその姿は大物俳優とは思えないが、それも演技ならまさに狸と云われる所以であろう。その場にいた八雲の姉の皐と加賀美も口には出さないが、目の前で起きた出来事に理解が追い付いていないようだ。
「んだば、大丈夫さ、元の場所に戻しただけじゃ」
「いやー、参った。分からねえ…けど…何故か良かったような気がするにはするんだが…あいつが消えちまったら映画はどうなるんだい?」
「大丈夫じゃ、それは元通りになる……後は因果が収束をつけるんじゃ」
勲の甚だ、もっともな言い分に愛が答えるも、勲はひょっとこの様な顔をしている。
「因果?…すまんが、みんなして、この老いぼれにも分かる様に説明してくれないか?それと、あの…そこの君、名前何て言うんだい?」
八雲の後ろにいる女性を指さした。
「うちは、跡部美樹やけど」
「…跡部さんか…いや、ちょっと昔の知り合いに似てたもんでね…すまんすまん」
「知り合いって誰なんですか?」
臆することなく尋ねる美樹に、
「ああ、君似てるんだよ…何て名前だったかな…えーと……………そうそう、素麺屋のね…」
勲は目を閉じ額に手を当てて思案しているようだ。
「素麺屋?もしかしたら松寿庵の松薙やないの?」
「おうー、それそれ、昔な、そこの女将に世話になってさ……しかし、君はよく似てる、親戚かなんかかい?」
「いえ、そう言う訳やないけど…」
「ふーん、そうかい。いやいや、それはそうとしてだな、事の顛末をだな…」
「先生聞いてください」
八雲が経緯を正直に勲に説明する。勲はひとしきり聞き終わると、先程と同じ様に腕組みをする。まあ、何処まで普通の人に理解できるか…自分達が巫女の末裔で、消え去った二人の久留生一生は、この時代に存在しない人間。なので消えたとしても、恐らく代わりの誰かが、久留生一生の役を演じる事になるから映画自体に大きな問題は起きない。久留生の父親は遥か昔に大罪を犯した罪人。その罪人に償いをさせる事、古来からの遺物である黒い石、磐座を取り戻すために訪れた。八雲は話の流れで巫女の使命にも言及し、その試みに勲の協力を願い出て。最後にその罪人の人物像と勲が似ていて、黒い石の所在から勘違いをしたことについて謝罪する。
「そうかい…みんな頭を上げてくれよ…俺は信じるよ…八雲ちゃんが俺に嘘を言う道理がない……久留生が消えても、映画には支障はないんだろ?その辺がイマイチ俺には良く分からんのだが…そこがどうなるのか……この目で冥途の土産に見てみようじゃないか…それに、その企みにも乗ろうじゃないか、面白い」
膝をパンと叩く。
「先生…ありがとうございます」
頭を下げる八雲をよそに、
「勲っち、マジカッコいい」
紅が放った一言に、当の本人以外は凍り付いたが、勲は恵比寿のように微笑み、紅を指さして、
「そうだろ」
豪快に笑い、一同が笑いに包まれる中、
「みんな大変よ!記事が変わりましたの…」
悲痛な鈴の叫び声が、空間を瞬時に黙らせた。視線が鈴に集まりそれを読み上げる鈴の声に耳を傾ける中、一人、愛だけは、そこに交わる事は無く爪を噛んでいる。
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