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後日談・つないでいるもの  作者: ぽんこつ


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さっするもの

*『つないでゆくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでゆくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_

*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)

*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


早朝から、二十四の瞳映画村でのロケ撮影が始まった。先に島に来ていた久留生一生、三笠久美子とのシーンを撮っている。久美子は10歳年上で今まで何回かドラマで共演したことがある。この業界にしては裏表なく誰にでも分け隔てなく接する珍しいタイプの女優さんで、瑞も尊敬している。一生は確か20代前半、まさに今を時めく人気絶頂の俳優で、その演技力は度肝を抜かれる。セリフも支障がない程度にアドリブして、それが想定よりも良い内容のものが多く、脚本家泣かせであるのだが、どういう訳か揉めたという話を聞いたことが無い。ただ繊細なのか、同世代の役者同士の付き合いは余りなく、撮影中も必要なこと以外、他の役者やスタッフと喋る事もない。そこは久美子と真逆な感じがする。昼前、津山勲が顔を見せたが、撮影中だったので挨拶を交わしただけだったが、勲の存在もあってか、その後のテイクも順調に撮影が進み、今日の予定は夕方の撮影を残すのみとなり、昼休憩中にロケの間は貸し切りとなっている映画村内のレストランで勲に会うことが出来た。

大きな座敷の一角に勲は共も付けずに一人テーブルを前に座っていて、こちらに気が付くと満面の笑みを浮かべ両手で手招きをした。

「よお、元気か八雲ちゃん」

「勲先生、ご無沙汰しています」

「おうおう、堅苦しいのはいいから、しかし京都も暑いが、ここも変わらんな」

勲は大きく両手を広げ笑っている。少し瘦せられたのか頬がこけ、凄みのあった瞳もどことなく濁っている。テーブルの上にはコップに入ったビールと瓶が置かれていて、灰皿には吸い殻が無い。ヘビースモーカーの勲にしては珍しい。

「先生が出演されると聞いて嬉しくて、八雲はしゃぎ過ぎて」

「もう、お姉ちゃん」

「そうかいそうかい、嬉しいね、年を取った小うるさいジジイだって、煙たがられているのに、八雲ちゃんは……うん、あの頃から変わらなくしてくれて嬉しいよ」

「先生、あの頃って、まだご縁を持たせて頂いて3年ですよ、私そんなに年取ってませんから」

八雲は膨れて見せた。

「アハハ、悪い悪い、けど良くやってる。世辞じゃないぜ、あの時の静といい、去年の………………ほれ、何て言った…あれ…」

「先生、鶴姫です」

「そうそう、殺陣や立ち回りも見事だった。岩田も久留生君も褒めてたよ」

「ありがとうございます」

鶴姫とは瀬戸内海にある愛媛県大三島の伝承上の人物で「鶴姫伝説」は耳にしたこともあるだろう。ちなみに鶴姫が着用したと伝わる女性用の甲冑が大山祇神社宝物館に展示されている。

海賊とも所縁の深い大三島を舞台に、映画「鶴姫」では鶴姫を海賊の姫として描き、敵対する勢力の恋人との戦いの中で儚く海の藻屑となって散っていく、自身の家と恋人の文字通り狭間で揺れ動く心の葛藤を大三島を取り巻く潮の動きのように水面下の心情を現した物語に仕上がっている。

「でも先生、よくオファーを受けられましたね、最初はお断りになったって聞きましたけど」

「ああ、ちょっとな…」

勲は胸の辺りを擦っている。

「先生?」

「ああ、肺を患ってな…大したことじゃないんだが」

「先生…ご自愛ください、まだまだ教わりたい事あるんですから」

「ハハハ、ありがとうよ八雲ちゃん。うん、顔を見たら元気が出て来た」

灰皿に吸い殻が無いのに納得がいったけれど、笑って見せる勲の目にはかつての様な輝きが無く一抹の不安がよぎる。

「先生はお泊りはどちらです?」

「ベイサイド…何たらだっけかな…久留生君や久美子ちゃんと同じとこだ、それがどうしたんだい?」

「そうですか…いえ、ホテルが一緒だったら、お食事ご一緒出来るかなって、八雲が話していたものですから…」

「そうかい…ほんと八雲ちゃんは嬉しい事を言ってくれるな…あっ、そうそう、八つ橋買って来たんだよ、八雲ちゃん好物だろ…えーと、どれだっけかな…」

勲は脇にある荷物を弄っている。沢山の紙袋の中に、異彩を放つ桐箱が目についた。一つは長方形、一つは正方形、数寄者と自らを呼ぶ骨董品が好きな勲のコレクションかもしれない。

「先生、そんな気を遣われなくても…」

恐縮する姉に、勲は手を振り、

「ん?気なんか遣ってないよ…したいからしてるのさ…痛てて…」

勲は顔をしかめて左手を右手で掴む。

「先生?」

「ん?あーいや、昨日さ月雲つきぐもをさ、手入れしてたら、手元がね…掌をチョイって、いよいよお迎えが近いかもな…あった、あった」

テーブルに置かれたのは、八つ橋の人気店「筒井屋」の包装紙だ。生八つ橋と焼き八つ橋の詰合せ。言うまでもなく好物の中の好物。一見、人たらしに思える行動だが、勲はそんな姑息な手は使わない。使っていれば自身が言うように煙たがられたりはしないだろう。

「先生、ありがとうございます。でも、気を付けて下さい。いくらきちんとした剣術を学ばれているとはいえ、精進が足りないんじゃないんですか?」

勲は目と口を大きく丸くして姉と自分を見比べ、

「あーハハハ、いやはや参ったね…八雲ちゃんの言う通りだ。いやね、名刀月雲をさ、八雲ちゃんに貰って欲しいんだよ」

驚きの申し出に、やはり嫌な予感がする。姉もこっちを戸惑いながら見ている。

「いやでも、八雲はその必要な免許みたいなの所持していませんが…」

「ああ、その点は問題ないんだ…美術品としての登録証も付いているし」

はぐらかしてはいるが、勲の想いが分かった様な気がして黙りこくる自分に。

「八雲ちゃんいいか、俺は八雲ちゃんに形のない物は、それこそ目一杯伝えたつもりだ。だからさ俺が一番大切にしている物、形ある物を八雲ちゃんに貰って欲しいんだよ、はっきり言う、形見分けだと思ってくれていい、あの世行ってもさ、月雲に宿って八雲ちゃんを守りたいんだよ…ダメかね…」

さっきまで濁っていた勲の目は、透き通り菩薩様にような半眼で見つめている。

言葉に詰まり声が出ない…佇まいを直して、座布団から正座のまま後ろに身を引き両手をついて頭を下げた。

「うんうん、見事な身のこなし…さても美しきかな」

頭の上で聞こえる勲の笑い声が、泣き声のように切なくて、涙を堪える術がなかった。

お読みくださりありがとうございます_(._.)_

適宜、誤字や表現等変更する場合がございます。予めご了承の程を。

まだまだ文才未熟ですが、もし面白い!と少しでも感じてい頂けましたら、いいねや評価をポチッと押して下さったら、嬉しいですし、喜びます(^^;。モチベーションにも繋がります。よろしくお願いしまし_(._.)_

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