めぐりあうもの
*『つないでゆくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでゆくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)
*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」
8月1日火曜日
瀬田港の港近くのカフェで二人を待つ。古民家を改修したモダンな内装でパラソルが付いたテラス席もあり海が見える。開店したばかりの時間で店内にお客さんはいない。暑いかなとも思ったけど、テラス席で二人を待つことにした。夏らしい沸き立つ雲が形を変えながらゆっくりと空を泳いでいて、アイスティーのグラスは汗をかいているいるけれど、パラソルと海風が和らげてくれている。
それを半分程飲み干した頃、約束の時間に二人はやってきた。一目見た時に思い出した。かわいらしい服装の二人は揃って挨拶をすると自己紹介をして席につく、名前を聞いてなければ、姉妹と勘違いしそうだ。顔立ちも髪型も、お揃いの桜の花を象った髪留めも…しいて言うなら話し方が違うくらいだろうか?、ちょっと意地悪かなって思ったけど。
「素麺ごちそうさま、それからきれいなお嬢さん」
その言葉に二人は同じ様に首を傾げて考えていたようだが、先に美樹が思い出したようだ。
「あ!あん時のお遍路さんや」
その声に釣られて香も思い出したようである。
「ああ、あの時のお遍路さん…」
記事を見て二人に会いたいと龍応住職に頼んだ事を説明すると、
「風子さん、こんなこと聞くとあれなんですけど…記事を見た人あなたの外にもいて、ほとんどの人が、その巫女の家系の人なんですけど…」
香は顔を突き出して小さな声で聞いてきた。
「はい、香さんの言う通り、世良家もそのような家になります」
「…やっぱり」
「もしかして、あなた達も?」
大きく頷き、そして小さな声で、
「秘密です」
ペコリと頭を下げた。
「そうですか…私は一定期間の記憶を無くしているのですが、先日、昔の事を思い出しました。これをあなた達に伝えるのが私の使命…と言うと大袈裟ですが、世良家にはこんな伝承がありました。「いずれ多くの波が天に昇り、彼方より迫り降れり」意味は分かりません。ただ、古くからの口伝みたいもので今まで受け継がれたものです」
二人はもう一度お願いしますと言い、内容を伝えるとスマホに打ち込んでいる。
「それから…数年前に受け取ったメッセージなんですけど「つるぎ、けわしい、そば、つか」と、「てんたかく、あわきほしふる、あまてらし…」これらも意味は分かりませんが、何かの役に立てば…フフフおかしいですね、分からないことを勝手にお伝えして」
「いえ、全然…ありがとうございます」
「変な事を伺いますが、お二人は何ともないのですか?」
二人は一緒に頷いた。
「しかし、お二人はまるで姉妹のように似てるのね」
嬉しそうに笑う二人を見ていて、釣られて笑ってしまう。
「そのお揃いの髪留め素敵ですね」
また嬉しそうに顔を見合わせて笑う。地元のお祭りの露店で買ったのだそうだ。それから他愛のないお喋りをして時が流れ、
「お二人に会えて良かった。おかしな記事も変わっていないようですし」
二人は丁寧にお礼を言うと、にこやかな笑顔で手を振りながら去って行った。その後ろ姿をぼんやり見つめていると、肩を叩かれた。
横に立ったている男を見上げる。
「こんにちは…覚えていますか?」
「ああ、一度西龍寺でお会いした…」
男は微笑み小刻みに頷きながら、
「そうです、覚えていてくれましたか…唐突ですが、会って欲しい人がいるんです」
真剣な眼差しでこちらを見つめている。
「はあ…」
「これから西龍寺に行ってもらえませんか?」
「それは、どういう?」
「ああ、行けば会えるはずです…お願いしといておかしな話だけど、あなたが会いたいと思ったらでいいんですけどね?」
「は?」
「じゃあ」
男は軽やかに二人が去って行った方向に歩き出した。
「あの」
立ち上がり呼び止めようとするも、男は振り返り片手を挙げて手を振り歩みを止めることなく消えて行った。
どういうこと?かしら?西龍寺なら不安になることは無いのだけれど…首を捻りながら椅子に座ると、グラスの中の氷がカランと音を立てていた。
「愛ちゃん、外、大丈夫なの?」
「背に腹じゃし…早い方がいいのじゃ」
「分かった気を付けてね」
「冴は例の件よろしくじょ」
「任せといて」
両手でオーケーマークして笑う冴の見送りを受けて部屋を後にした。
冴には必要な人を連れて帰ると伝えてある。
始めて見る色が塗られた夕凪島の風景は愛にとって目が痛いほど目映い。だから自然と目を閉じるか薄目になる。バスはそこそこ客が乗っていて、やはり人の事をジロジロと見る。雑音を避けるためイヤホンをして、さゆりちゃんを聞く。さゆりちゃんの歌と似つかわしくない夏景色が窓の外には広がっているが、その声が心を和ませ、ゆらりゆらり身を任せていると眠くなってきて、危うくバスを降り損ねるところだった。バスを乗り継ぎ宝樹院へ向かう、最寄りのバス停からは歩きだ。バスを降りると暑さよりも一段と目にするもの全てがキラキラしている。宝樹院までは意外と距離があって、息が上がってきたが、こればかりはやるしかないので、吹き出る汗を手拭いで拭きつつ。トボトボ向かう。
この島に来て、島の気のお陰か他の巫女の所在が分かるようなり、面白い事に全ての巫女が島にいた。そこで、その一人に会いに向かっているという訳だ。
目の前の大きな山の麓に、まるで何かの目印のような大木が鷹揚として佇んでいる。それがシンパクであった。ふーむ、これは、ご神木じゃな。それを眺めながら、宝樹院の山門を潜り、目当ての者を視野に捉えた。シンパクの木陰に棒を咥えた女性がしゃがんでいる。
愛が近づくと、首を傾げながら見上げ、口から棒を抜くとそこには飴が付いている。
「何か用?」
「私さ、三輪愛、三つの、輪っかに、愛で愛。あんたさ紅さじゃろ?」
「え、アハハ面白いね、今の」
「紅さ、黒い石探しとるんじゃろ?」
「ん?…マジなに…」
流石に直球過ぎて紅は警戒している。愛は、汗を拭いつつ、巫女に関する説明を始めた。初めは疑いの眼差しで、ジーッとこっちを見上げていたが、紅の苗字から、岐阜にある巫女の血筋である事を告げると、母方の実家が岐阜の白川で、紅は驚きを隠せないようだった。そして、不思議な記事の事、紅が探している黒い石が重要な物であることを話すと、納得してくれたのか、紅は、その黒い石が磐座の欠片で、西龍寺という所にあった物が無くなり、今は島にないと話す。それは愛が見た黒い石が京都にあるという裏付けにもなる。ところが、
「あれ?愛っち、磐座さん戻って来てる」
紅は思い寄らぬことを口にした。
「へ?どういうことじゃ?」
「あ、いや、あーマジ帰って来てるわ…でも、そのお寺に戻った訳じゃないみたい…」
「紅さ、何処にあるか分かる?」
「あ、たぶんあっち」
紅は宙を指さした。あっち…どっちじゃ…首を傾げて紅を見ると、スマホを出して何やら操作し始めている。
「うーん…この辺かな?マジ行ってみないと分かんないけど…」
スマホを下から突き出した。その画面には夕凪島の地図が映し出されているようだが、何処だか全く分からない。ただ、二十四の瞳映画村という場所が目に入った。
「んだば、紅さ、私さと一緒に来てくれんじゃろか」
「ん?どこへ…」
「とりあえず仲間さ会せる」
「仲間?なになに、マジ何するの?」
「それは、行きながら説明さする」
「オッケ、愛っち」
そう言うと、紅は立ち上がり、短いズボンのポケットから棒に着いた飴を取り、差し出してきた。
「あ、ありがとう」
ビニールを取って飴を口に含むと、イチゴ味の甘さが程よく美味しい。
「旨い」
「でしょ?じゃあ愛っち行こう」
ヒッチハイクをするようなポーズを取って、紅は、歩き始めた。
すると、山門の所で上下黒ずくめの二人組の男性が声を掛けてきた。
「おはようございます、お若い二人に幸あらんことを」
年配の男性が胸のペンダントを掲げる。円の中に六芒星が象られた金色が陽射しを浴びて眩い。隣の若い男性のそれは円の中に五芒星があるものだ。
「幸あらんことを」
微笑みと共にお辞儀をする。
「あなた達もさ、幸あれ」
「うんうん、おじさんもお兄さんも、ハピハッピー」
二人の男性は、身を反らせにこやかに笑うと、境内には入らずに道路を歩いて行った。
「愛っち、良い事あるよ」
「そう…じゃな」
「でもさ…愛っちのヘアアクセ、マジかわいいじゃん」
「そう、じゃろ」
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