おくられたもの
何で…どうして……「舞さん」香と美樹が、自分を呼ぶ声が頭の中にこだまする…
突然スマホが鳴る。舞は画面に表示されている名前を涙で曇った眼を擦って、もう一度見る。すぐに通話をタップする。
「あ、舞さん、さっき言い忘れたんだけど、啓助さん、にゅう麺、気に入っていたみたいやから、作ってあげて、あ、レシピはメッセージ入れるからね」
え?どういう事……耳に聞こえるのは確かに香の声だ。
「…」
「あれ?舞さん?」
舞は通話口を手で押さえ鼻をすすり、深呼吸する。
「もしもし、わざわざありがとう…香ちゃん何ともないの?」
「ん?何ともって?」
「ううん、美樹ちゃんも、お母さんも元気にしてる?」
「うん、変わりないよ、今日もこれから美樹とゲームするん」
明るいトーンの香の声だ。良かった…けれど…兄の驚きようと、あのニュースはいったい…舞は頬をつねる。ピリッと痛みが走る。
「そうか、良かった、そうだ、さっき素麺届いたよ、ありがとう」
「ナイスタイミングやね」
「香ちゃん、一つ変な事聞いてもいい?」
「なあに?」
「ニュースでね、その…香ちゃん達が事故に遭ったって…」
「え?ニュース?見てないから分からんけど…舞さん、変な夢でも見たんやない?私と今話してるやん」
「そう…かもね…」
「もう、舞さん大丈夫?疲れてんやないの?」
「ああ、少し寝不足かも」
「舞さん、また本読んでるん?でも、すごいな、そんなに夢中になれる物があって」
「あれ、香ちゃんも少し歴史に興味が湧いたでしょ」
「うん、それはある。あ、舞さんごめん、もう美樹の家に行かんと…またメッセージ送るね」
「うん、分かった」
「じゃあね、バイバイ」
「またね、香ちゃん」
ツー、ツー、ツー、
え?でも待って…どういうこと?もう一度さっきのニュースを検索する。同じ内容の記事が出てくる。
兄は隣で虚空を見つめている。どういうこと?……そうだ。舞はスマホのアドレスを確認して電話を掛ける。いらっしゃるかな…
「はい、西龍寺、不破です」
穏かな口調と温もりのある声に、心が少し落ち着きを取り戻す。
「ああ、ご住職、早川です、早川舞です」
「ああ、舞さん、こんにちは、どうされました?」
「あの、変な事伺いますけど…」
「何でしょう?」
「香さんや美樹さんに変わった事はありませんか?」
「変わった事?…と仰いますと」
「あの、香さん達を乗せた車が事故に遭ったってニュースを見て…」
「え?ちょっと待ってください……」
まだ舞は全く頭の中が整理できない。遠くで龍応の話し声が聞こえる。確認をしてくれているのだろう。
「もしもし、どういうことでしょう?ニュースにはありませんし、ボディガードの報告でも香さんは先程、美樹さんの家に向かっていると報告がありました」
「ああ、良かった…」
「疑うわけではありませんが、ニュースで流れたんですよね?」
「はい、私はスマホのニュースで、兄は恐らくテレビのニュースで…」
「どういう事でしょう?念の為、後ほど松寿庵に行ってみます」
「ああ、ありがとうございます……」
電話を切り、スマホの記事を見る……ん?記事の日付が目に入る。8月7日月曜日…?え?今日は7月30日……
「ちょっと、お兄ちゃん!」
魂が抜けたようになっている兄の頬を叩いた。ハッとしてこちらに顔を上げる、舞は兄に先程のテレビで見たというニュースの事を尋ねる。
すると、兄はノートパソコンのモニターを指し、そこには確かに舞が目にしたものと同様の記事が映し出されている。テレビで見た訳ではないということか。
舞はゆっくり丁寧に自身も把握しかねる状況を兄に話した。自分も理解していないことを人に伝える事ほど難しい事は無い。目の前で困惑している兄を見てつくづく感じる。
「未来のニュースなのか?」
「たぶん…」
兄は健兄ちゃんに連絡して同様のニュースがあるか確認すると言い、舞も彩也と絵美に連絡して確認する。おかしい事に三人とも、そんなニュースは無いという事だった。兄はニュースのページのURLを健兄ちゃんに送って確認してもらうもページが開けないという。
「どういう事だ?…」
兄は頭を抱えて考え込んでいる。すると、ご住職から舞のスマホに連絡が来た。
「もしもし…」
ご住職の話は舞の頭をさらに迷宮へ誘うものだった。ある女性から香と美樹の安否を確認する連絡あったという。内容は舞と同じようにネットのニュースを見たという事だった。さらに驚きに輪をかけたのが、その世良さんという女性は、天皇家に嫁いだ巫女の血統の人物だという。世良…?
電話を終えて、世良という名前が、あの本の元の持ち主の名前と同じ事も気になったが、私達以外にニュースを見た人がいる事。しかもそれが巫女の系譜の人物。舞は見たくないがもう一度ネットのニュースを見る。事故現場は寒霞渓スカイラインと記載されている。どこに行っていたんだろう?
「だめだね、元のURL自体は歴とした媒体の物みたいだ、でも何で俺らにだけ見れたんだろう…指定して誰かが送り付けたにしても…メールとかの類じゃないしな…」
舞は、ご住職からの電話の内容を兄に話す。
「え?………三人見ているって事か?ますます分からないな…でもどうしたらいいんだ?このままじゃもしかして…」
「香ちゃんに伝えてみようか…来週の月曜日、車を使わないように…」
「そうだな…信じてくれるとは思うけど…」
舞は早速、香に電話を掛ける。確か美樹も一緒にいるはずだ。
「あ、舞さんや」
陽気な声で電話に出たのは美樹だ。後ろで笑い声が聞こえる、香も傍にいる。美樹に二人に話があるからスピーカーモードにするように頼むと、
「もうしてるんよ」
香の声がする。舞はさっきの続きだけど…と会話を切り出し、来週の月曜日に車での外出を控えるように懇願すると、二人は舞さんが言うならと素直に応じてくれた。ただ残念そうにしていたので理由を尋ねると、墓参り巡りをする予定だったらしい。家のお墓もそうだけど、オホノデヒメの神社を巡ると話していた。会話中に美樹がスマホでニュースを検索したけど、やはりそのような物はないらしい。二人は気にかけてくれてありがとうと声を揃えて言い電話を切った。
「ほんとだ…良かった」
兄は香と美樹の声を聞いて安堵し、煙草を吸い始めている。これで大丈夫なのかな…そうあって欲しい気持ちと、何かがスッキリしない……違和感が付きまとう。
舞は自室に戻り、本を読もうとするも全く文章が頭に入って来ない……ただ頬杖をつきながらページを捲っている。
夕方には、香からメッセージが送られてきて、にゅう麺の出汁のレシピと来週の墓参り巡りは母親とも相談して止めたとの報告もあった。
良かったと思う反面、やはり何か引っかかる……大丈夫と自分に言い聞かせ、コートラックにかけてある二個の麦わら帽子を見つめた。
お読みくださりありがとうございます_(._.)_
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書いている自分が言うのもなんですが、どうなっていくのか?楽しみであります。
読んで下さってる皆様も同じように感じてくれていたら幸いです。