きがついたもの
*『つないでゆくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでゆくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)
*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」
ホテルに着く頃には17時を回っていた。
冴の部屋があるフロアは客室が三つあるだけで、「何かあれば遠慮なくお越しになって」鈴はウィンクをして、部屋を一つ挟んだ一番奥の部屋に入っていき、香は部屋の中まで着いて来ると「遠慮しないで、何かあったら連絡してね」と、自分の頭に人差し指を当て去って行った。
一人残された空間は自分の部屋よりも、だいぶ広くて落ち着かない。洗面台で手を洗い、ついでに顔も洗う。鏡に映る女の子の目は充血している。あー目が真っ赤っだ……もう一度顔を洗う。でも、香も舞も鈴も、表裏が無い人間だった。思い起こせば外に出て人と会話をしたのは数年ぶり。
香は自己紹介がてら車の中で、自身の体験談を語ってくれた。最初は自分が持つ能力と向き合えなかったこと。それは香の父親の死の予知夢を見たからで、その後も嫌な夢を見たりすることもあったけど親友や舞、色々な人に支えられて今は、その能力を持った自分を受け入れられていると話してくれた。冴も自身がVTuberでYouTubeのチャンネルを運営している事を話すと、香はチャンネル登録してくれていて、もう自分でお金稼いでいるなんて、偉いね、凄いねと褒めてくれていた。冴自身はそれが生き甲斐だし、それしか出来る事が無いからと思っているけど、香に言わせると、自分が夢中になれる事が見つけられて羨ましいし、それが人の役に立ったり喜びに繋がっているんだから素敵な事だと思う。それを聞いた時、何か良く分からないけど、とても嬉しかった。
ふう……グー…ほっとしたのかお腹が鳴る。そう言えば飲み物を飲んだだけで、お昼を食べるのをすっかり忘れていた。タオルで顔を拭いて、バッグを抱え一番狭そうな寝室のベッドに腰掛ける。ここでも広いくらいで、新しいシーツの匂いすら珍しい。そのまま大の字になってベッドに横たわる。そうだ。
「愛ちゃん…聞こえる?」
「なんじゃ冴」
「なんじゃじゃないよ、夕凪島に着いて、ホテルにいるよ」
「そうか…そうじゃな…私さ21時頃には夕凪島に着くじゃろ…」
カチカチと爪を噛む音が聞こえる。
「分かった…気を付けてね…」
「んだ」
「あのね…それから…みんな、優しかった…」
「そうか、良いことじゃ」
「うん…じゃあ、待ってるね、愛ちゃん」
「んだ」
愛と知り合って10年以上経つけど、会うのは初めて、もうすぐ会えると思うとやはり嬉しい。グー…ああ、どうしよう…そうだ。
「香さん…聞こえる?」
「ああ、冴さんお腹空いてる?」
「え?」
どうして分かったの…
「夕食一緒に食べる?」
「あ、あ、でも…」
「うん?お部屋で食べる?」
「あ?うん、その方がいいかも…」
「何が食べたい?」
「何でも…大丈夫」
「好き嫌いないんや…」
「うん…」
「じゃあ、30分位待ってて、また連絡する」
「ああ、うん、ありがと」
香さんも心が読めるのかな?体を起こすと、ズボンのポケットからカサカサと音がする。手を突っ込んで取り出すと、それはバスの中で女の子に貰ったティッシュだった。膝の上で両手で持って眺める、表面にはひまわりの花がプリントされていて、微笑んだ女の子の顔が重なる。
「ありがとう…」
そっとそれを撫で呟いた。
着替えを済ませ、ラフな部屋着でリビングに行くと、加賀美がテーブルの上にジュースを置いていた。
「ありがと」
ソファに腰掛けグラスに手を伸ばす。
「お嬢様、よろしいでしょうか?」
加賀美は向かいのソファに座り真っ直ぐこっちを見ている。
ジュースを一口飲み、佇まいを直す。
「お嬢様、ご説明をお願いします、お車の中でお休みされていましたので伺いませんでしたが。お金を使用する事は咎めません。むしろ使った方が世の中の役に立ちますから。ただその三輪愛様と千峰冴様というご友人に関しては、かく申す私めもあずかり知らぬ事。ご友人との事でしたがどのような方々か、お教え願いますか?」
ああ…ワタクシも分からないんだけど……
「ワタクシに天啓が下りたでしょ、香さん、美樹さんを助けなさいと」
「はい」
「香さんから頼まれたのよ、友達の二人の部屋を取って欲しいって」
「なるほど、それがお二方で」
「そうよ、これで納得してくれた?」
「香さんのご友人ですか…」
何で気落ちしているのかしら?嘘は言ってないわよ?
「困っている人を助けたんだからいいでしょ?それに…」
「それに?何でしょう?」
「ん?何でもないわよ…」
グラスを手に取りストローを咥える。チラッと加賀美を見ると何やら難しい顔をしている。怒っている訳ではなさそうだけど…
香が凄い喜んでくれたし、冴も同じ…香はワタクシがお金持ちと知ってるとはいえ…あんなに喜んでくれたんだからいいじゃない…正直に純粋にありがとう何て言われた事なんてあったかしら?
鈴は資産家のお嬢様であるが故に不自由のない生活を送っている。両親は都内の有名私学を望んでいたが、鈴は長野を離れるつもりはなく県内の私学に進んだ。悩みでも何でもないが鈴には友達という存在がいない。正確にはかつてはいた。ということになる。今では良くも悪くも自分がしていた行いが招いた結果であることは分かっている。
当時は知り合った友人たちと遊びに行ってもそれなりに楽しかったし不満があった訳ではない。ただ会計はいつも自分が払っていて、それが当然だとも自分で思っていた。友人たちは結局の所、水内鈴が必要だったのではなくて、鈴が持っているお金だと気が付いた時。楽しくなくなった。それから、その子達と同じ様にしようと思った時には既に遅しで、周りには一緒に何かをするような友人はいなくなった。そうこうしている間に鈴の中で友達という存在は必要のない物だと思うようになった。
そうなった原因を加賀美のせいにして八つ当たりもしたこともある。何せ加賀美は学校の送迎は勿論、友人との遊びにも着いて来ていた。そんな加賀美を鬱陶しく思った事も一時期あったし、実際に「着いて来ないで」そんな言葉を浴びせたある日、当時の友人に呼び出された場所に行くと友人の姿はなく不良グループが待っていた。金目当てに襲われそうになった時、加賀美が窮地を救ってくれた。漫画の様な話だけれど。数人の不良を相手に若くはない加賀美が立ち向かったのを恐怖のあまり薄れゆく意識の端で捉えていた。気が付いた時は車の中で、加賀美は何事もなかったかのように運転をしていた。
「加賀美…」
「大丈夫ですお嬢様。何も仰らなくて大丈夫です」
ある程度年齢を重ねた今なら、加賀美の存在が大きく自分の為だけに仕事とはいえ愛情を持って接し見守っていてくれているのが分かる。どんなわがままでも聞いてくれる。
「お嬢様」
「ん?何かしら?」
「もしかしたら、愛様も冴様も、巫女に連なる者かもしれません」
「そう?なの?」
冴の巫女装束姿を想像する…あらやだ?あの子も可愛いじゃない!
「恐らく…推測ですが、お嬢様のように記事を見て集まって来たのではないかと」
「どういうこと?」
「分かりません」
「は?」
ピポピポ、ピポピポ、鈴のスマホが鳴る。あら?何かしら?
「ごきげんよう、どうされたの?」
「え?今からですの?……冴さんの部屋に……わかったわ」
ふーん。
「お嬢様どうされました?」
「香さんが冴さんの部屋で夕食をご一緒にいかがって…素麺をご馳走するって」
「ほう、それはようございましたな」
「それに、加賀美も一緒にどうぞって」
「私も?でございますか?」
「加賀美、マリーゴールドお願い」
「かしこまりましたお嬢様」
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