たずねるもの
*『つないでゆくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでゆくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)
*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」
福田港のフェリーターミナルには少し遅れて着いた。すでに車や人がフェリーから流れ出してきている。
駐車スペースが分からないので舞は車に乗って待ってると言い、待合室の近くに車を止めた。香は人の流れに逆行しながら階段を上り、通路の先の待合室に入る。続々と下りてきた人達が旅行バッグや荷物を手に通り過ぎていく。ほとんどの客が去り、スタッフの姿しか見えない。あれ?おかしいな…乗れんかったんかな、首を傾げながら待合室を出て通路を歩いていると、こちらに背を向けて、一人ポツンと階段に座っている、ツインテールの女性がいた。
見つけた。香はその隣に腰かける。
女性は抱えた大きなバックに身を隠す様にゆっくりとこっちを見る。そっと覗く様な瞳は真っ赤で怯えているようにも見える。冴がどんな子かは愛から聞いて少しは理解しているつもり。微笑みながらゆっくり声を掛ける。
「こんにちは、ようこそ夕凪島へ」
「あ、香…さん」
ん?頭の中に声が聞こえる。
「じゃあ、このまま話そ、私は松薙香、よろしくね」
「うん、私は千峰冴…よろしく」
「すごいね、一人で来たんやね…私は…そう言えば香川から一人で出たことないかも」
「あ、うん…そうなんだ…こんなに遠くに一人で来たのは、始めて」
「そうなんや、凄いよ…勇気あるんだね…」
「ううん…そんなことない…」
「そんな事あるよ…愛さんから聞いてるから安心して」
「私も、愛さ…ちゃんから聞いてる」
「じゃあ、私の友達と迎えに来たん、紹介するね、大丈夫、頼りになるお姉さんやから」
「あ、ありがとう」
香は冴の手にそっと手を乗せた。
「冴さん、大丈夫だからね」
すると、冴の目から涙が零れ落ちる。香は冴の気持ちが落ち着くまで寄り添い、それから車に案内した。
香は冴と一緒に後部座席に座り、
「舞さん、千峰冴さん、こちらが」
「早川舞です、よろしくね冴さん」
「あ、どうも千峰冴です」
冴はバッグを抱えたままお辞儀する。
「ちょっと、愛さんと話してみる」
「あ、さっき…愛ちゃん、新幹線乗れて、岡山に向かってるって」
「そっか良かった」
「あのさ、香ちゃん?もしかして…」
「ああ、冴さんも話せるんよ」
舞は目を見開いて大きくうなずいている。
「それで…20時位に…高松に着くって…」
「そっか、冴さんありがとう」
抱えたバッグの上にある顔がニコリと笑う。
その時、助手席のドアがノックされた。窓越しに外を窺うと、日傘を差し鮮やかな黄色のワンピースに身を包んだ鈴がいる。あれ?何でおるん?
舞が助手席の窓を開ける。
「ごきげんよう皆様」
「舞さん、こちらが、水内鈴さん」
「こんにちは、早川舞です」
「水内鈴です。鈴と呼んで下さって、ワタクシも仲間に入れて下さる?」
「どうぞ」
舞が助手席のドアロックを外す。
鈴は微動だに動かない。ああ、そういうことなんね…香は車を降りると、助手席のドアを開けた。
「ありがと」
鈴はこっちを向き、両眼を瞑り肩をすくめ車に乗り込んだ。助手席のドアを閉め、後部座席に戻る。
「で、何のご相談かしら?」
「あ!鈴さん困ったことがあるん」
「あら、ワタクシに出来る事なら何なりと申されてよくてよ、あなたをお助けする為に来たのですから」
鈴は長い髪を振り払いながら振り返りニコッと笑う。
「ホテルの部屋を二つ取ってもらえる?」
「あなたと、美樹さんの?いいわよ」
「いや、友達の千峰冴さんと、三輪愛さんの分なんやけど…」
「あ、あの、一緒の部屋でいいです」
「ああ、そうなのね、少しお待ちになって」
鈴はそういうと、ショルダーバックの中からスマホを出し電話を掛けている。
「加賀美、ホテルの部屋を一つ大至急。ランクは…空いている中で最高の…………誰の?ワタクシの友人よ……名前?千峰冴さん、三輪愛さん………請求はもちろんワタクシでいいわ…大事な事よ、もう後で説明すから…これ以上言うならクビよ」
鈴はスマホの画面に向かって舌を出し、そして足を組もうとして脛をぶつけている。
「…」
「ん?問題ないわ、お二人のご友人の部屋は取りましたから、で他には?」
長い髪を振り払い振り向くと、小首を傾げた。
「ううん、ありがとう、鈴さん」
「あら、そんなお礼を言われるほどの事でもなくてよ」
「そんなことないん、鈴さんやからできたん、ほんとありがとう」
「あら、やだ、照れるじゃないオホホ」
あれだけ威風を漂わしていた鈴が照れているのか巻き髪を自分の指にクルクルと巻き付けソワソワしている。
「ありがとう…」
「いいのよ、冴さんも気にしないで、オホホ、他になければワタクシは失礼するわ」
「あ、うん、でも何で鈴さんここに居たん?」
「ん?ドライブよ加賀美がドライブしたいって、じゃあお邪魔するわね」
鈴は正面を向く。
あっ、香は車を降り、助手席のドアを開ける。
「ありがと」
鈴は鮮やかな黄色いワンピースの裾を翻し車から降り、日傘を慣れた手つきで差すと、顔を寄せてきて耳元で囁く、仄かに柑橘系の香水の匂いがする。
「香さんあなた本物の巫女なのね」
ウインクをして颯爽と歩いて行った。
ふーん、どうして分かったんだろ?後姿を見つめながら、車に乗り込む、
「あのさ、鈴さんって、何か凄いね…」
舞の言葉に、冴も肩を揺すって笑い出す。車内に笑い声が響く、そうそう、私が見た未来はこんな風にみんな笑っているんやから。
しかしおじさんは元気で良く喋る。この島には結界があるとかなんとかで、それを調べているみたい。マジさっぱり分かんなかったけど、家まで送ってくれたので、それなりに聞いていたつもりだ。
自転車を漕いで近所のシンパクさんに会いに行く。今朝も会ったのだけれど、なーんか会いたくなった。この島に引っ越してきて間もない時、何の気なしに近所にある大きな木に惹かれて見に来ていた。最初はまさに、この木、何の木、気になる木で、一方的に話し掛けていた。シンパクさんは、何も言わず黙って聞いてくれる。そんなある日会話が出来た。出来ただけと思い込んでるのかもしれないけど。「あるがままでいい…」そう聞こえた。学校がある日は、少し遠回りだけど寺の前の道を通り挨拶して行く。夏休みとかは気が向いた時に来るだけだけど、大きな幹のしわしわを見ていると、綺麗だなと思う。そのお陰で寺のお坊さんに木の由来を聞いてシンパクという名前も知った。
お寺の門の傍に自転車を止め境内に入る。どこにいても蝉の鳴き声があちらこちらから、うるさいほど聞こえる。土から出てきてすぐ死んじゃうらしいけど、ダメな物はダメ、苦手なんだから…シンパクさんの傍でポケットから棒付きの飴を出して咥える。木陰は風が吹けば涼しい。
しゃがんでシンパクさんに話し掛ける。
あーマジ磐座さんいないんだけど…シンパクさん知らない?…明日、福田まで行ってみようかなぁ……
「こんにちは、紅さん」
「あ、こんにちは、龍さん」
宝樹院のお坊さんの龍さんだ。そう言えば、前に龍さんにも飴を上げようとしたら断られた。
「今朝も来てたけど、一日に二回も来るなんて珍しいね?何かあったのかな?」
「ああ、磐座さんを探してるんだけど、島にいないみたいなんだよね…龍さん何か知らない?」
「うん?今朝の話でしょ?西龍寺にあるんだよ、赤い社の中に…」
「ああ、龍さんの言った通り行ってみたけど、いなかったんだよねー」
龍さんは首を捻りながら、隣にしゃがむ。
「いなかった?社の中を見たの?」
「え?あ、いや、そういうんじゃないけど…」
「そう…じゃあどうしていないと思ったんだい?」
「えへ、あー気のせいかな…龍さん、葦田八幡神社の磐座さんって黒い?」
「磐座の色?いや黒くないですよ…ん?色が関係あるのかな?」
「あ、あぁ、黒い…磐座さんを探してるんだけど…やっぱりないのかな」
「…」
さっきまで優しい目をしていた龍さんは、しゃがんだまま地面の一点を見つめ眉間に皺を寄せている。どうしたんだろ?
「じゃあ、龍さんありがと」
ゆっくりと立ち上がる。
「紅さん、ちょっと待って!」
「ビックリした」
「ああ、ごめんね…一つだけいいかな、西龍寺に磐座はなかったんだよね?」
龍さんは、優しい目に戻っている。
「え?ああ、マジ赤い社の中は見てないですけど…いないと思う…」
「大丈夫、紅さんは、そういう事をしない人なのは分かってますよ…大事にな事だから確認したかったんだ。ありがとう」
身を翻し、龍さんは駆け足で家に向かって行った。何だろ?変な事言ったかな?今日はシンパクさんとはお話出来ないか…見上げると目の前に糸にぶら下がった蜘蛛がいる。
「…」
「キャー、何でマジおかしいんだけど」
ナイナイ、マジナイ…駆け足で境内を駆け抜けた。
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