あるもの
*『つないでいくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでいくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)
*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」
さっき、愛から千峰冴という友達が姫路から13時過ぎのフェリーで夕凪島に向かったから、迎えに行ってやって欲しい。
と、突然話し掛けれた。愛の話だと、どうやら冴という女性も、この便利なテレパシーを使え、舞達と同じように例の記事を見ているという。
それにしても通信代も掛からないから便利やね、これがみんなが出来るようになったら、スマホの会社は潰れちゃんうんかな?
愛自身は東北新幹線で東京に向かっている最中で、トラブルが無ければ今日中に島に着くと話していた。スマホで確認した限り高松港発のフェリーの最終便には間に合いそうだけど。流石に高松までは迎えに行けないかもしれない…そうだ…美樹にお願いしよう。
きっと冴も、愛と同じ様にビジョンに見えた一人だ。鈴もそうだった。後二人いるはず…顔は分からないけど…
えーと、姫路港から13時台のフェリーに乗ったんやったら…スマホで時刻表を確認する。15時30分に着くんやろ、今が13時半過ぎ、バスで向かうにしても…次のバスは14時半。
ん?家の前に車が止まった。プルル、プルル、スマホが鳴る。舞からだ。
「もしもし、舞さん」
「香ちゃん、今出れる?」
「え?ああ」
「外見て」
窓を開けると、モワッとした暑い空気が流れ込む。家の前の道路に止まっている車の運転席からこっちを見上げて舞が手を振っている。
舞さん、ナイスタイミングやな。
「ちょっと待ってて舞さん」
香はショルダーバッグを手に部屋を飛び出した。
そして助手席に乗り込むと舞に愛との遣り取りを話す。
「え?まだ記事が見えた人がいたんだ?」
「うん、だからその子を迎えに行きたいん」
「分かった、じゃあ福田港ね」
「ありがとう舞さん」
「香ちゃん一つ聞いてもいい?」
「なあに?」
「その愛さんとはいつでも喋れるの?」
「うん、たぶん彼女も同じような力を持っているんだと思う、そうだそれでね、愛さんも夕凪島に向かってるん」
香は、伝えていなかった、以前の愛との遣り取りを伝える。
「え?じゃあ、この島に来ることによって愛さんの未来が変わり、生きるってこと?」
香は愛を見た時、確かに愛の魂が消えていた。それは怖い物で思い返したくもない。初めて見た他人の未来がそのような結末に驚いたが、それと同じく全く違うビジョンが見えていた。
それは…
「うん、だって愛さん、私のビジョンなら島に来るんよ、これから来る冴さんもそうやけどね」
「え?」
「ああ、でも一つだけ分からない事があるん。愛さんがその…亡くなる未来に、何だろう憎しみ、違うな、邪魔をするっていうか、上手く言えないんやけど、そんな力があったんよ」
愛の魂が消えた瞬間、どす黒い煙の様な霧の様な物が愛を覆っていて、映像がちらつき自分のビジョンに切り替わり、そこには夕凪島に来ている愛と冴が笑っている姿が確かに見えた。
「邪魔?」
「でも、大丈夫やからね舞さん。そうや舞さん達はいつまでおるん?」
「明後日までだよ」
「そっか、でもありがとう」
おかしいな…また10日に来るんやけど…今回来るのは私のビジョンにはなかった。やっぱりあの薄気味悪い記事のせいなんかな…
車はオリーブ公園の辺りで渋滞になる。事故か何かあったのだろうか?交通整理の警察官が車を捌いている。海の方に凄い人だかりが見えた。そこを抜けるのに大分時間を取られてしまったが、香の話だと砂浜で映画の撮影をしているらしい。先程までの混雑が嘘のように車は流れ、内海湾沿いの海岸線を走り出す。
舞は香の話を聞いて確信する。香は力を失っていないし、むしろ増しているのでは?とさえ思ってしまう。しかも何がそうさせているのか自身に満ち溢れている。
記事の事に関しては、私には見えていないけど…気にかけてくれてほんとに嬉しいと話している。ふと見るバックミラーにはステーションワゴンがしっかり尾行している。お婆ちゃんが本に書いていた各地の巫女の血筋が集まって来ているの…?集まって何か起きるの?
「加賀美、美味しかったわね」
やっぱり、海がある所は魚の鮮度が違うわね…家が山の中じゃなければね、毎日お寿司でもいいんだけど。
「ええ、想像以上に、ハマチの刺身はなかなかの物でした、それに醤油も地の物で魚を引き立たせていましたね」
「ありがとうございまーす」
店先まで出てきた青年が大きな声で頭を下げている。
「フフフ、お元気でよろしい事」
「さあ、どうぞお嬢様」
「ありがと」
鈴は後部座席に腰掛ける。早速シートに足を上げる。少しお腹が苦しい…あらやだ食べ過ぎかしら?握りずし10貫、お刺身、お吸い物、ああ、おかわりの握りずしがいけなかった?
「加賀美、これからどうするの?」
「はい、香様のお家の素麺屋は今日お休みのようですので、美樹様のお家の素麺工場に行って見ようかと。何でも工場見学があるようですので」
「ふーん」
素麺か…確かにお吸い物に入っていた素麺ツルツルで喉越しが良かったわね。
「では参ります」
「どうぞ」
車がゆっくり動き出した。周りは畑が広がり民家が点在している。似ているわね、まあ違うのは高い山が無いくらいね?冬は雪降るのかしら?車にブレーキがかかる。
「お嬢様、前をご覧に」
ん?シートの間から前を覗き見る、正面から来た一台の黄色い軽自動車が交差点を左に曲がって行く、助手席に座っているのは香だ。車間距離を開けてステーションワゴンが着いて行く。加賀美の言っていた通り。ただ運転していたのさっきの若い男ではなく、むさくるしいオジサンだった。信号が変わり、車は左折する。
「加賀美?」
「何処に行くのでしょう?気になりませんか?」
「別に……何かあったら起こしてちょうだい」
「かしこまりましたお嬢様」
何が気になるのかしら?それにしてもあのオジサン、格好いいんじゃない?
「まーだーおじさん」
前を歩くおじさんは元気だ。後ろを振り返ると途方もない数の階段が下まで続いている。これをここまで上って来たワケ…マジしんどいけど、でもマジすごくね。
「もう少しやから」
やっと階段が終わり小さな神社がある場所に出る。
「やっと着いたぁ」
「ん?紅ちゃん、まだやで」
「えー、マジー」
フェイスタオルで汗を拭いていると、元気な、おじさんは手招きしながら細い道を進む。すると正面の岩の壁を指さして、そこを上るという。2、3メートル位の高さの岩の合間をおじさんは軽快に上って行く。マジ?おじさん。バリスゴいんですけど。
「さあ」
おじさんはてっぺんから手を差し出して、途中から引っ張り上げてくれた。
「ありがと」
「頑張ったよ、紅ちゃん」
「いや、マジ聞いてないんだけど、あんなに階段あるの、しかも岩登りもするなんて」
「そうだった?ほら、あそこの峰の先にある大きな岩が、重岩や」
おじさんが指さした先に大きな岩が道幅からはみ出して置いてある。ポケットから棒付きの飴を取り出して咥え、おじさんにも飴をあげようとしたら、大丈夫と断られた。細い峰を歩いている途中は簡素なロープで落っこちないようにガードされているが、これ意味あるの?思うくらい落ちたらヤバそうな崖になっている。
木で作られた鳥居をくぐる、ここら辺は胸の高さ程のコンクリートの壁に囲まれて、落ちないようにしっかりガードされている。大きな岩の前まで来た。
「すごいやろ、紅ちゃん」
「うん、確かに大きい」
近くで見ると思いの外大きい。石の中央にある三つの窪みが目と鼻に見える。石の表面を軽く手を触れてみるとザラザラしている。
「でも、君は違うのか」
「ん?」
「ううん、何でもない」
「それから、紅ちゃん、こっち見て」
コンクリートの壁の向こうに、島や海が見える。
「うわ、マジキレイ」
石と足元に夢中で広がる風景に気が付かなかった。おじさんは一つ一つ島や場所を説明してくれているが、全く分からない。ただ、見えている景色は、マジ最高!癒されるぅ、政人にも教えよ。
あれだけ階段を上って来た甲斐がある。ルンルンで見惚れていると、おじさんは何か話し掛けていて、ラインがどうこう言っている。適当に相槌を打つ。
「紅ちゃん聞いてる?」
「へへ」
棒付きの飴を差し出すと、やっぱり断られた。美味しいのに…それを咥えて思い出した。
ああ、でも福田にある葦田八幡神社に今日行くのはムリゲーだね。
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