さしのべるもの
*『つないでゆくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでゆくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)
*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」
もう、寿司屋は何処なの?かれこれ20分は乗っている。狭い軽自動車の後部座席は窮屈で落ち着かない。何だか自分まで小さくなったような気がする。足も延ばせないしシートも堅い。もう!……シートに足を上げ横向きに足を延ばす。うん、これが楽ね。
「お嬢様」
「何?」
「お話してもよろしいでしょうか?」
「いいわよ」
ん?加賀美は黙って運転している。はいはい。こういう時の加賀美の話はちゃんと聞かないといけない。シートから足を下ろして佇まいを直す。
「お待たせ」
「では、色々鑑みるに、香様、美樹様、お二方には想像以上の秘密があるのかもしれません」
「秘密?」
あの二人に?何かしら?
「はい、先程ロビーで私めにぶつかって来た男性。覚えていらっしゃいますか?」
ああ、何か女の人の方を向きながら歩いて来て加賀美にぶつかった、まあまあな感じの人ね。
「もちろん」
「あれは、わざとです」
「わ、ざ、と?」
「私たちがヘリポートからホテルに向かう最中、一台のステーションワゴンが尾行していました。それを運転していたのが、その男性です」
「え?まさか?」
ワタクシを誘拐しに来たの…
「お嬢様がお考えになっている事ではありません。尾行の目的は香様、美樹様です」
「え?じゃあ」
あの素麺シスターズを誘拐?
「お嬢様、それも違うございます。恐らくはボディーガードの類かと。何せぶつかってきた男性は、恐らく武術の有段者。それ以上かもしれません」
「え?全然意味わからないんだけど…」
「私めも憚りながら、お嬢様をお守りするのに、武術に多少心得があります。ではなぜ、あのお二方にそのような者が付いているか?」
「例えば、本当はワタクシの様なお嬢様?」
どうせ違うと思いながら、心の中で否定されるよりはマシなので口に出す。
「いいえ、そうではございませんお嬢様。可能性はゼロではありませんが、それはないでしょう…可能性を一つずつ消していくと、本来は由緒ある家柄、家系で、人を付けてまで守らなければいけない…女性である事を踏まえると」
少し饒舌に乗って来た時の加賀美は、いつもこうやって勿体ぶる。
「もう、加賀美」
「失礼しました。香様、美樹様の二人、もしくは、どちらかが巫女なのではないかと…それも恐らく、力を持たれた」
「え?加賀美が良く話してくれた。昔のご先祖様…みたいな…」
大昔のご先祖様は神様からお言葉を賜っていたという話だ。
「さすがですお嬢様。あ、もうそこが寿司屋でございます」
何か古めかしい大きな民家だ、ここが寿司屋なの?それにしても、ふーん、あの子達が巫女ね…巫女装束の二人を想像する。あらやだ、可愛いじゃない!
車が止まり、運転席を降りた加賀美が後部座席のドアを開ける。くらくらしそうな熱気が覆って来た。
駅に近づくに連れ車内も混んで来た。バスに乗ってから人を見ないようにずっと車窓を眺めている。道路脇の街路樹の向こうに白亜を纏う姫路城が見えた。久ぶりに見たお城は堂々と勇壮な姿でこっちを見下ろしている。
バスは少し進んでは止まるを繰り替えしていて、道が混んでいるのか、よく信号に引っかかる。
「冴…」
「ああ…愛ちゃん…良かった…大丈夫?今、そっち向かってるから…」
「ん?」
「秋田に向かってる。もうちょっとで姫路駅に着くから」
「冴が?……優しいな…ありがとう」
「だって愛ちゃんいなくなったら…どうしたら良いか…」
声が聞けたのが嬉しくて涙が湧いてくる。
「冴、私さ夕凪島に行く…冴もおいで」
「え?夕凪島?どうして?」
愛の話しよると香が来いと言うのだそうだ。そうしたら未来が変わると…愛ほどの力を持つ者が頼る香とは、どんな人なんだろう?
「分かったけど…愛ちゃん、外、出れるの?」
「背に腹じゃ、それに冴だって出られたじゃろ」
そうだ…あんだけ人の目や外が窮屈に感じていたのに…確かに今はバスに揺られている。
「へへ…そうだね…」
「んだば、夕凪島で会うべ…」
「分かった、気を付けてね…」
「冴もな」
バスは駅前のロータリーに流れ込む。沢山の車や人がいる。やはりまだ少し怖い…けれども愛に会えると思うと、心が少し軽い。思わず笑うと涙で顔がカピカピになっているのが分かる。
優しく肩を叩かれた。恐る恐る顔を向けると目線の高さに笑顔の女の子がいて、ポケットティッシュを目の前に差し出した。
「使って」
その子が繋いでいる手の先を見上げると、吊革に捕まっている母親が微笑んでいた。お辞儀をしてポケットティッシュを貰う。
「ありがと」
「ええよ」
ニッコリ笑う女の子の心は笑顔そのままだった。
やがてバスが止まり降車ドアが開く、先に行く女の子は、こっちを振り返り手を振っている。口はバイバイと言っているようで、小さく手を振り返すと人の陰に隠れた。
冴は客の一番最後にバッグを抱え席を立つ。駅前は多くの人が行き交い、人と視線が合わないように、抱えたバッグで顔を隠しながら、なるたけ壁際を歩き電車の券売機の前までやって来た。路線図を見上げて地名を探す。あれ、夕凪島って何処にあるの?
ロープウェイは多くの人々が待っていて乗るのを諦めた。展望広場の飲食店も盛況のようで露店も出ていて、美味しそうな焼き物の匂いが漂ってくる。
駐車場を横切り、木々のトンネルの山道を進む、蝉の鳴き声の合間に鳥が鳴き、顔を上げると葉の間に青空が見える。細い坂道を上ると少し汗ばんできて、手にしている白いハンカチで汗を拭く。この先の展望台からであろう話し声が微かに聞こえてくる。
そこには、二人の女性が一つの大きな日傘を差してベンチに座り、その先の眺めを指さしながら楽しそうに話している。お邪魔したかな…少し気が引けたけど声を掛けた。
「こんにちは」
後ろで髪をまとめ上げている女性が振り向き、
「こんにちは」
会釈をする。その女性は隣の帽子を被った女性の肩を叩くと立ち上がり、二人は去って行った。
肩でため息をつき、先程まで二人が腰掛けていたベンチに座る。ん?微かに腿の辺りに何か当たっている、座り直してみると白い花を象った髪留めがあった。手にして見る。この花はダリアかな?見事な細工物で花びらの一つ一つが繊細で手作りのようだ。さっきの人のかしら?とりあえず、それをバッグに仕舞う。
目の前には渓谷の先に町や海、山。空と雲が広がり、人と自然の営みが凝縮されている風景。
風がスカートの裾を揺らし枝が鳴り、トンボが彷徨っている。
ショルダーバックからノートを切り取った紙片を取り出す。
二階建ての一軒家の玄関には「世良」と表札が出ている。母親は玄関を開けると、ほんの僅か戸惑ったがすぐに泣き笑いの顔になって抱き着いて来た。知らせを受けた父も仕事を切り上げ帰ってくると母と同じ様に喜んでくれた。記憶がない事を告げると、「どうでもいい風子が目の前にいるんや」喜ぶ両親の笑顔が嬉しかった。自分の部屋は当時のままで制服がハンガーに掛っている、この空間だけ、いや親達もあの日から時が止まったままっだのかもしれない。机の上に日記がある。パラパラと捲りながらベッドサイドに腰掛け最後のページを見る。
8月1日
またメッセージを受け取った。
気になる言葉…何だろう?
「つるぎ、けわしい、そば、つか」
「てんたかく、あわきほしふる あまてらし」
全く意味が分からない…
でも、最初のは嫌な感じがした、気分が悪いというか?
二つ目は逆に良い感じ?明るいイメージがする。
何だろう?何だろう?
何かに、誰かに呼ばれているような気もする。
世良風子は、少しだけ記憶を思い出している。
そう、この次の日、頭の中に誰かが呼ぶ声がして仙崎の駅に向かった。
木造の立派な平屋の駅前の小さなロータリにはタクシーが一台止まっていて、一日に六本しか来ない電車を利用する前後の時間帯以外は人気が無くなる。今も数人の観光客らしき人がいるだけで、その人もタクシーに乗り去って行った。
不意に肩を叩かれ、振り返ると背が高い男が微笑んでいる。
「すいません、こういうものですが」
差し出された名刺を手にする。
○○企画
ライター 福山 祐介
090-☓☓☓☓-☓☓☓☓
「金子みすゞの取材をしてましてね」
「はい」
見上げ見た顔にはフレームのない眼鏡がキラッと反射して眩しい。思わず目を背けた。
「あ、すみません」
男はメガネを外し胸のポケットに引っかけると、ニコリと笑い。
「あなたの写真を一枚撮らせて頂けないかと…その町の女性も取材の一つでして、金子みすゞの郷土に息づく今の女性っていう感じで」
もともと、みすゞさんが大好きだったし、やはり仙崎の誇りだからつい軽い気持ちで受けた。
「お仕事は?いや、失礼学生さんですか?」
「あ、はい世良風子といいます、高校三年生です」
「ほう…学生さんですか、じゃあその駅舎を背景に撮りたいんで」
「分かりました」
大した格好でもないけど、乱れがないかチェックしてはにかむ。
「いいですね、撮ります」
シャッター音が、カシャカシャカーシャカーー
そこで記憶は無くなっている。
息急く声が近づいて来て、振り返るとさっきの女性達が駆け足で坂道を上って来ていた。
ああ、さっきの忘れ物ね。立ち上がり振り向くと、
「あの…すみません」
声を掛けてきた帽子を被った女性に、バッグの中から取り出した髪留めを差し出す。
「これのことかしら?」
「あ、良かった」
その女性は片手を胸に当て喜んでいる。そして髪留めを手に、
「ありがとうございます」
帽子を取りながら頭を下げると纏めていた髪がほどけ風になびいた。その顔は大輪のダリアが咲き誇っているようだった。
一礼をして二人は去って行った。美しい人だったな。
その時、あの言葉がよぎる…
「つるぎ、けわしい、そば、つか」
何なの……背中にゾッとする悪寒が走る。
「世良風子…」
誰かが呼んでいる?あぁ、あの時と一緒…
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