さしのべるもの
*『つないでいくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでいくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)
*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」
今日はお店は休みで、母は毛利さんとランチをしに行っている。お腹は鈴のお陰でケーキを二つ食べて空いていない。
さっき、未来を見てみたがビジョンは変わらない。ただ、やはり啓助と舞は10日に訪れていた。何でだろう?ベッドの上がって壁に寄りかかる。
香は舞の影響と自身の血筋の事もあって、少しだけ歴史に興味を持ってきた。歴史について真一郎に話を聞いたら図書館に面白い本があると教えてもらったので、この間借りてきて今読んでいる。『考察オホノデヒメ』という本で内容も云われも面白い。これは舞さんのお婆さんが書いた本。ということは私のお婆ちゃんと舞さんのお婆さんの結晶みたいな本。作者名は蟹江空見子だが、舞さんによれば、お婆さんの名前、国江実日子の文字を入れ替えた名前で、アナ……?何とかと言うみたいで、ペンネームとも言っていたかな。本に挟んである栞を取ろうとした時、
「香さ…」
「もう…ビックリした…」
愛が話し掛けて来た。
「すまん…」
ん?何か元気ない。あれ?爪も噛んでない。
「どうしたん?愛さん何かあったん?」
「フフ…優しいんじゃな…」
「愛さん、私でよかったら話聞くよ」
「…」
「愛さん?」
「…香さ、私さの未来さ見てくれんじゃろか…」
声が震えている。
「え?愛さんの?」
「お願いじゃ……」
「……分かった…少しだけ待ってて…」
とても暗く、とても落ち込んでいるように思う。でも愛ほどの力があれば、自分で見れそうなものなのに…
香は本を脇に置き深呼吸をして、愛の姿を頭のスクリーンにイメージする。
5分位だろうか。初めて見た人の未来としては辛いものがある。ゆっくり息を吐いた。でも…おかしいんよね…
「愛さん…」
「見えた?」
「うん」
「私さ死ぬじゃろ…」
「…うん…」
「やっぱり…」
「でもね、愛さん…」
「慰めはいらんじゃ」
「ちょっと待って!未来は変わるの!愛さん?」
「…んにゃ、変わらん」
「私の未来を信じて…愛さん、お金はあるでしょ?そうしたら今すぐ夕凪島に来て、あなたは生きるから」
「………ん?」
「いいから、ううん、お願いだから…」
沈黙が流れる。お願いだから…愛さん。
「んだ、分かった…だども…」
「なあに?」
「ありがとう」
「それは、会った時に聞きたい」
「んだば、支度さする」
「うん、気を付けてね…それと、いきなり声かけるのビックリするから…」
愛は笑っていた。あーどうしよーホテルか……困ったね……一人くらいなら家に泊めてあげればいいか……
どうして、二つのビジョンが見えたのだろう。でも愛が島に来たら……生きる。
「ごめん、ごめん、すっかり長引いちゃって…」
兄はソファに座ると、アイスコーヒーを注文した。
「大丈夫?」
「ん?まあね、ちょっと今日は俺は動けそうにない…ごめんだけど」
「ううん…」
急な仕事が入ったらしい。舞はさっき香と美樹と会った事、そして京一郎と話した内容を伝える。
兄は香と美樹の実在を確認できたことに、ホッとしたようで、ラウンジが禁煙なのに煙草に火を着けようとしていて、それを慌てて止めるとちょっとテラス出よと笑って誘う。
日陰になっているものの、暑いのに変わりはなく、ただ、見える景色は相変わらずに美しい。
「そうだ、これ渡しとく」
兄はおもむろに車のキーを差し出し、
「じっとしているのも何だろ」
「いいの?」
「また、結界に迷い込んだら…俺も追いかける」
ニコッと笑い煙を吐いた。
「でも、京一郎君が話していた、因果の話は、こう言っちゃなんだけど面白いと思う、自分達の行動も香さんや美樹さんの未来に関与しているっていう。要するに世の中は色々な因果が絡み合ってるって事だろ、自分達以外の誰かの行動も影響しているって、とりあえず、あれから記事は変わっていないみたいだし、良き方へ向かってるような気もする。何かあろうが無かろうが連絡はしてくれて構わないから……いやでも、二人の顔は早く見たいな」
空を見つめ煙を燻らしている。兄が誰かに対してこんな事を口にしたのを初めて聞いたような気がする。
「磯城島の、大和の国に、人二人、ありとし思はば、何か嘆かむ、だね」
「え?」
「大丈夫だよ、会えるよ、後で香ちゃんと美樹ちゃんに連絡して、明日の予定聞いてみるから」
「ああ、ありがとう、舞」
すると、兄は人差し指を突き立て揺らしながら、
「磯城島の、大和の国は、言霊の、幸はふ国ぞ、ま幸くありこそ、だろ」
得意気に胸を張る。
「へー、意外と覚えてるもんだね」
「だって、いい歌じゃないか、言葉に魂が宿る国、幸ある言霊を使えば幸が咲き誇る。俺が言うのも可笑しいけど」
「そんなことないよ、お兄ちゃんありがとう、それと無理しないでね」
「もちのろん」
親指を立てて笑って見せる。兄の腕を軽く叩くと、船の警笛が聞こえた。丁度フェリーが瀬田港を出港したようだ、デッキには人影が見える。それがこっちに向かって手を振っている。兄と二人で手を振り返すと、ピョンピョン飛び跳ねて両手を振っている。
「あれ?」
兄はスマホを出して画面を覗き込んでいる。それを見つめていた顔がゆっくり微笑みに代わる。その表情でこっちを向くと画面を見せて来て、そこにはカメラモードでズームされた美樹の姿があった。
「美樹さーん」
大きな声で手を振っている。すると舞のスマホが鳴った。
「もしもし、舞さん?」
「美樹ちゃんビックリした」
「いや、おるかなぁってデッキに上がって見たら二人が見えたん」
「美樹さん、久しぶり」
「あ、お兄さん、お仕事お疲れ様です。うちらの事心配してわざわざ来てくれたんに、用事で親と高松行かなあかんから」
「気を付けて、また後で舞が連絡すると思うから」
「うん、そしたら、さよならさん」
「またね、美樹ちゃん」
フェリーは沖に向かって凪いだ水面を進んでいる。さすがにもう美樹の姿は見えない。
「ね?会えたでしょ?」
得意気に胸を張る。
「うん、良かった。元気そうで」
ここ数日で一番の笑顔を見せた兄は煙草に火を着けると、手すりにつかまり空に向かって煙を吐いた。
洞窟が繋がっているお陰で本堂の中は涼しい。久しぶりでもないけれど、お香の匂いに懐かしさを覚える。何も変わっていない。
ご本尊に手を合わせ、ガラガラと音を立てる本堂の引き戸を開けて外へ出る。蝉の鳴き声と楠の枝が風に揺れる。ゆっくりと階段を下りて休憩小屋の中で休む。ジャグジーには見慣れた右上がりの文字で「ご自由にお飲みください」と書かれたプレートがぶら下がっている。まだ、使ってくれているんだ。そう思いながら紙コップに中身を注いで喉を潤す。風の中に足音が聞こえた。この擦るような歩き方…
立ち上がり母屋の方を見ると、こちらに気が付いた顔が目を細め笑う。深々と頭を下げて歩み寄る。
「よくお越しくださいました」
その顔から発せられる、穏やかな口調に心が潤う。
「はい、少しの間ですが、またお世話になります」
「とりあえずどうぞ上がって下さい」
「ありがとうございます」
部屋の中も見渡す限り何も変わりはなく、龍応様は綺麗にされている。
「風子さん、早速ですが、その記事を見せて頂けますか?」
記事の画面を開き、スマホを手渡した。
「なるほど、記事の内容と日付が変わるという訳ですね」
「はい…その神舞の記事からはしばらく変わっておりません」
そっと差し出されたスマホを受け取る。
「そうですか、ところで記憶の方はどうですか?何か思い出された事とかありますかな」
「いいえ、何も」
恩人に嘘をつく後ろめたさが、少し顔を俯かせる。
「失礼しました…この記事をあなた以外に見てる方がいるのですが、どう思われますか?」
「そう仰られましても…あの香さんと美樹さんには、お会いできるでしょうか?」
「今日にでも連絡して予定を聞いてみます。滞在は明後日までですか?」
「はい、お手数おかけします」
「いえいえ構いませんよ……それと、あなたから頂戴した本ですが、大変興味深い物でした。伺ってばかりで申し訳ないですが、あなたの家が巫女の家系という事は、もちろんご存知でしたか?」
「そう申されましても…」
やはり俯いてしまう。
「あっ、失礼。私としたことが……そうだ、お昼食べましたか?」
「いえ、まだですけど…」
「丁度いい、今朝、知り合いから刺身を貰いましてね」
笑みを浮かべ話しているが、何か落ち着かない感じがする、記事のせいなのだろうか?初めて見る様子に違和感と不安がある。それと……
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