さしのべるもの
*『つないでいくもの』の後日談の作品になります。ですので『つないでいくもの』を読んでから、こちらに目を通される事をお勧めします。_(._.)_
*使用している画像・AIの人物画像は作者が作成したものです(商用利用可能な物です)
*「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません」
フレンドのアヤカさんと蜘蛛さんと、オープンワールドゲーム「原神」を楽しんでいる。本来ならここに愛ちゃんもいるはずなんだけど。
「冴…」
突然、頭の中に愛の声が聞こえる。愛はいつだって突然やって来る。
「ああ、愛ちゃんどーしたー」
「…」
「愛ちゃ……愛様?」
「…」
「どしたの?何か分かったの?」
いつもと違う違和感を感じた。爪を噛んでいない。こんなことは…今までなかったように思う。
「…」
「バレた…」
「ん?」
「私さ…死ぬかもしれん…」
「え?愛様…どしたの?」
「分かったんじゃ…」
「例の発信元?どこなの?」
「石じゃ…」
「石?………それが愛様が死ぬかもしれないのと関係があるの?」
「冴…ありがとう…」
「ちょっと…愛様?…愛ちゃん!」
どうしたの?何があったんだろ…………もう愛ちゃん…どうしよう…愛ちゃん?……呼びかけても返事はない…どうしよう……
愛ちゃんの家は秋田の山の中で……えーと…まがり……へそ曲がり……大曲!…そこから山の方って…自分が住んでいる兵庫から…新幹線を使っても正味8時間、いや9時間かかるかも……
もう愛ちゃんがいなくなったら………
無性に胸が苦しくなる。押し入れから大き目のバッグを出して適当に衣類やら何やら詰め込む。涙が出てくる。
パソコンで秋田までの経路を確認する。12時台の新幹線に乗れれば……手で涙を拭いながら、パソコンの電源を切る。
何度呼びかけても、愛の返事はない。もう愛ちゃん…デスクの上のスマホと充電器を手にして部屋を出る。
山々から蝉の鳴き声が降り注ぐ中、最寄りのバス停までの川沿いの道を歩く。涙で滲んでいるせいか、川がキラキラと眩しい。
愛ちゃん……
「占いをするの?YouTubeで?血液型占いとか?」
「血液型占いじゃ?んにゃ、あんな四種類で人間が解かったら、争いさ、起きないのじゃ」
「でも、当たるってよく聞くけど」
「当たってるさ、そう思う人が多いのは、思い込みじゃ」
「思い込み?」
「多くの日本人さ血液型占いは知ってるじゃろ、んだで○○型の人さこういう人、その血液型の当人さ、知らず知らず、そのように思い込んでいるんじゃ、まあ、遊びとしてはいいじゃろ」
YouTubeで占いをしようかと二人で相談していた時の話で、愛は他の占いについても同じで、大きなカテゴリの中でそれに含まれていれば当たる、当たってると人は思い込む。けれど、その思い込みが重要で人の力にもなるという。
真っ当な占いはないのか尋ねると、そのような人は人の相を見るという。手相というより人相に近いという。分かり易く言えば人そのものを見るのだそうだ。それが見える人は先天的に才を持つ者と後天的に能力を得る者といるという。誰でも人を観察すれば身に着けられて本来人間が持つ能力とも言っていた。
例えば、何か具合悪そうだな、いいことあったのかな。というのもそういうことらしい。
そういう「本物」の人物はなかなかいないという。よくこの人は「本物」だという表現を嫌う人がいるが、愛様に言わせると「本物」はそんなことイチイチ気にしない。「器が違うのじゃ」、「本物」は自分が満たされている状態であるから、その能力を無償で提供するという。反対にいるのが、自分の稼ぎ口があるのに、波動だ引き寄せだって集客して金をむさぼる連中のほとんどがこれ。テレビのCМと一緒で不安を煽っているだけで、「本物」はただ手を差し伸べるし、滅多にメディアに露出はしない。何かしてもらった側がお礼として何かを送ることはあろうが…最初から対価や見返りを求めている時点で「二流じゃ」、自分達もお金を頂戴しているから偉そうなことは言えないが、金儲け自体は社会の仕組みだから悪い事ではないし間違った事ではない。そこを求めている人がいるのも事実だと話していた。
「じゃあ、愛様も同じじゃん」
「ああそうじゃ、私さの力んて大したもんじゃない…三流じゃ」
「そんなことないと思うけど」
「んにゃ、ありがと…」
自分達がYouTubeで行っている占いは、実際の所、愛が見えた事をそのまま言うのではなく、助言的に実際、今どう向き合うかの話をしている。愛様曰く、
「私さ、これでしか人様の役に立てんのじゃ…」
寂しそうに言ったいた。
そんなことない、愛ちゃんは……本物だよ……私を助けてくれたじゃない……
目の前にバスが止まる。プーという音と共に扉が開く、意を決してバスに飛び込んだ。
路線バスはお年寄りが一人乗っているだけだった。家の近くまでは行かないバスだけど、瀬田港を通るのでそこまで利用する。
「美樹、変な事言うけど…いい?」
お客はいないけど、小さな声で話す。
「どしたん?」
美樹も釣られて小声になる。
「私が見た未来やったら、啓助さんと舞さんは、私達が映画の撮影で神舞を舞う日に来るはずやったん」
「え?そうなん?」
「美樹も、舞さんが言ってたニュース記事探してくれたやん、けどなかったやん。さっき鈴さんに見せて貰った記事は日付と記事の内容がコロコロ変わっていて…何かおかしいんよ」
「ああ、あれはちょっと気味悪かったん、けど香にはそんなん見えてないんやろ?」
「そうなんよ…やから、後でもう一度見てみよう思ってん」
「そうなんね…でも、変なこと言うけど、うちは香が見えている未来を信じてる、話してくれた未来を」
美樹は降車ブザーを押して、
「香、もし変な事が…未来が見えてしまっても、うちには話してな」
首を傾げてニッコリ笑う。
「うん、ありがとう」
「もう、用事が無ければ一緒におりたいんやけど…」
「だって恒例行事やん、美樹の誕生日と両親の結婚記念日を一緒に、お祝いするん」
「まあ、そうなんやけど…」
美樹の誕生日は私の一週間後の29日。美樹の両親の結婚記念日が8月2日。丁度間の31日にまとめて?お祝いをしている。今日はこれから高松に行って夕食を食べに行くという。
バスが瀬田港に着き、美樹と別れて家までの道を歩く。
でも、ビックリしたな…舞さんと啓助さんには、行動力が凄いというか…ああ、でも裏返しに見たら、自分達の事を気にかけてくれたんだもんね、ありがとうやね。
自販機でスポーツドリンクを買い、潮風公園の大きな木の木陰のベンチに虫がいないのを確認して腰掛ける。
磐座さんの声が聞こえない。この島にはいないんじゃない?そしてら私が出来ること…なくない?
冷えたスポーツドリンクが胃に伝わるのが分かる。
「ん―――」
腕がひりひりする。珍しく早起きしたせいで日焼け止めを塗るのを忘れた。あー最悪…
「あれ?紅ちゃん?」
「ん?ああ、おじさん、こんちゃ」
隣の家のおじさんだった。
「ハハハ、こんちゃ、一人?」
「うん、まあね」
「珍しいな、こんな所におるん」
「おじさんだって、何してるの?」
「おじさんは、ほれこの通り調べ物をしとる」
何がこの通りなのかは分からないが、手にはノートパソコンを持ちジャージ姿だ。
「ふーん、そう言えば、おじさん先生だったんだよね?」
「そうやけど?」
「あの、磐座さんって知ってる?」
「どこの?」
「あそこ」
山のてっぺんを指さした。おじさんはそれを見上げしばらく固まっている。そして首を傾げてこっちを向く。
「あそこにイワクラさんなんて人、住んでたかな?」
「え?おじさんヤダー、マジウケる。磐座さんは石だよ石、あれ?岩だっけ」
「何だ、紅ちゃん、磐座ね、もう、さんなんてつけるから」
おじさんはメガネを外して首に巻いたタオルで汗を拭いている。
「で、おじさん知ってるの?」
「あそこ、西龍寺に大昔、まだお寺とかが出来る前に磐座があったらしいちゅう話はあるけど、それがどうしたん?」
「え?今は無いの?」
「そりゃあね、大昔だから」
「でも、あの赤い社?っていう木で出来た箱の中にあった筈なんだけど」
「ああ、確かにその磐座の欠片がお祀りされているちゅうのは聞いたなあ」
「ああ、じゃあやっぱりいたんだ」
「ん?いた?」
「ううん、おじさん磐座さんについて、他に何か知ってる?」
「西龍寺以外なら、重岩、葦田八幡神社の所には磐座あるけど」
「マジか…遠い…」
ガックリ肩を落とす。自転車じゃ…ツラいか…
「おじさんが案内しよか?」
「え?マジ、ああでも自転車がある」
「そこのフェリーターミナルの駐輪場に止めとけばええやんか」
「うん……でも、いいや」
ここに戻って来て帰る事を考えると…さすがにしんどい。
「しゃあない、おじさんの車で自転車を家まで運んで、それから案内するわ、けど時間的に重岩だけやな」
「マジ、おじさん天才、ありがと」
ポケットから棒付きの飴を取り出して、おじさんにあげると喜んで受け取ってくれたが暑さで飴が溶けていて包んだビニールがなかなか取れず、その仕草がかわいくて飴をしゃぶりながら見ていると、おじさんは、やっと取れた飴を翳し見て舐める、
「甘いな…」
笑いながら眉をひそめている。飴が甘いのは当たり前だけど…
「フフン」
声に出して笑うと、おじさんも釣られて笑っていた。
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