自動運転技術
現代における人間の生活には過去に開発された多くの科学技術が用いられている。「こういう事がしてみたい」という先人の熱い思いを実現させて多くの人々が関わり洗練させていったものが現代の至る所で見られる。ここでポイントとなるところは理論が後であることだろう。起こしたい事象、変えたい現状が先に置かれ、実現のための構想が始まる。実験、試作品の中で理論的に何故うまくいったかが分かってはいないが、思ったように動いてくれたのでまぁいいか、という事も序盤には少なくはない。
特に関わる人数が少ない場合や、こだわりのある偏屈な人物、敵対する相手がいなければ特にケチをつけられるようなことも無い。
人類が現代の知脳を獲得しているのは千年、二千年前では無い。もっと遥か昔からすでに同程度の知能を備えてはいたが文明は起こらなかった。個人や少人数で森の中に暮らしていても文明は進まない。氷河期が明けたというのも一つの要素にすぎないだろう。
人が集まり、分業が進み、食事と住居の環境が安定する事で集団の中での知能の高い人物がPDCA(計画、準備、検査、実証)サイクルを回せる事で、脳も満足に回すことができ文明が進んだのだろう。
ダヴィンチやアインシュタインといった天才が個人で様々な分野を推し進めたとする意見も分かるが、厳密には個人ではなくそれを成せる環境や周囲の支援と理解も当然必須であろう。同様の天才が過去に世に出なかったケースは膨大なはず。
誰からも認められず、変人扱いされたり、徒党を組まれて邪魔をされたり、日々暮らす事に懸命なまま生涯を終える。今のこの時代の技術力も、世に出なかった天才のため1万年以上遅れた文明になってしまっている可能性は大いにある。
とある1つのプログラムの組み方は無数に存在する。プログラマーの腕とはそこで最短ではなく、最適なプログラムを組めるかである。後から条件が追加・追加・追加、、とされた時に他のプログラムに影響するリスクやメリットを考えて修正のしやすさや見つけやすさを考慮するのは一流のプログラマーの条件だろう。幾つかのプログラムが絡まってしまい、一から全て組み直す悪夢…。その手間はイヤホンのケーブルの絡まりを解く比ではない。
電子回路などはより酷いものだ。電源に繋いだ時に思い通りの動作になるはず、、、と理論上は問題なくとも動作してくれないことなど日常茶飯事である。
プログラムや設計、組立の問題以外にも電子部品に不良品が含まれている可能性、わずか数回の通電で電子部品が破損する可能性などもありチェックの時間が膨大になる。1000個セットで大量購入した抵抗器などをテスターでチェックすると酷いと100個以上の不良品が入っている事もある。
回路に関して本当は最適に小型化をしたいのだが、個人で使う分には思った通りに動作してくれればもう改良や最適化はいいやとなってしまう。国産の家電がここまで故障が少なく長持ちするのは企業の努力の結晶なのだろう。
近年ではAIの発展でプログラミングや電気回路をある程度は最適化してくれるようなので良い時代だ。
逆上がりや自転車に乗る事。それらは理詰めで解を導いたものではない。できたという結果。その核となる理論を言語化し、うまく伝えられる人物が良い指導者と成り得る。鉄の塊である飛行機がなぜ空を飛べるのか。洋上で電気を用いず、漕ぐことなく操作のみでヨットがなぜ風上の方へ進むことができるのか。できるという事実だけが大事で、その理論は改良にとってただの一要素に過ぎない。
前置きが長くなったが、自動運転車両。車間を保つだけ、白線ラインからはみ出さないようにするだけ、黎明期は運転の補助としての役割であったが、今ではそれだけで無く交通状況や信号、停車位置などを見極めて全てを操作してくれる車両が現れている。昨今の高齢者の運転事故が増えている中で光明が差したといえる技術だ。
将来的にはAIが運転して、その不具合を監視する道路AIや、周囲の車両のAIが相互に管理するなどで、事故や不具合が全く起こらない時代が来るかもしれない。人間の認知による事故が原因の大部分であろうから、そこを排除することで、街中を自動運転車両が時速500kmでぶっ飛ぶ世界を可能とする…のか?
ホラー要素を(無理やり)盛り込む。時は少し遡り、自動運転技術を開発していた会社は一つの壁にぶち当たっていた。試作の中でおしゃかにした車は百台を越えた。人が乗って試走していた車もあり重傷を負った者もいた。自動運転技術が完成しなかったのだ。その原因を技術者チームが探して、探して、探して、10年以上の月日が経った。しかし見つからない。1台でも成功する車両が生まれれば、それに改良を加えるだけであったが世界中の様々なチームが同時にプロジェクトにあたっていたものの、ただの1チームも自動運転のうまくいく車両を作り出せなかったのだ。
解決の目をみたのはアメリカにある会社の支部。そこに勤める一人のアメリカ人社員には12歳の姪がいる。日本に住んでいる姪だが、夏休みにアメリカに遊びに来ていた。叔父が勤める自動運転技術を開発する会社に姪が見学しにくる。夏休みの宿題にその見学の様子を作文で提出するというそんな軽い気持ちであった。その会社の自動運転技術も開発に行き詰っていた。そんな中、
「車にすんごい怨霊が渦巻いてるよ?もうね。飲み込まれてると言うか、沈んでるって言うか。これじゃうまくいかないんじゃない?」
女の子が叔父にボソッと言う。その一言がきっかけとなり車の自動運転技術は飛躍的に進んだ。
アメリカでの高名な霊媒師を呼び確認してもらうと
「うわ。凄いですね。この近辺で自動車事故で亡くなった霊が、自動車そのもの、もしくはその技術の発展を阻害しようと渦巻いてるんだわ。車に恨みがあるようね。
これは…うーん、、そうね。
周囲で車が使われたことの無い地域で開発しないといけないわね。世界的に自動運転技術の開発は失敗続きなんだっけ?じゃ原因はどこも同じでしょうね。
あ、ごめんなさいね。
除霊なんて出来たもんじゃないわ。
6桁よ。6桁。
何百年もかかっちゃうわ。
…まぁ、、、どうしてもっていうなら手が無い事も無いけどね…」
技術の畑の人々にとっては門外漢、原因が心霊であったとは完全に想定の外だった。世界中の技術者達に共有された原因と信憑性を併せ考える。さてどうしたものか。まずは世界中の高名な霊媒師を集めるところからスタートかな。
数年後…
自動運転車両の第1号が街中を走る。技術が確立したのだ。助手席に乗り込むと前面に固定されたタブレットにカーナビの画面が映り、現在地点の矢印が表示される。音声で目的地を伝えると、目的地にも矢印が表示されて、距離、予想時刻、到着時に車を駐車する地点の候補が表示され、自動でエンジンの回転が上がり、ハンドルが切られ、車道で加速を始める。将来的には運転席も無くなり、免許を持たずに乗る事ができるだろう。
霊能力を持つものの魂を車に憑依させることで、怨霊による技術革新の阻害を突破した。今、霊能力を持つ人物を騙して育てその魂を刈り取るために栽培している。その霊能力者の命は失われるが交通事故で亡くなる死者数よりは圧倒的に少なくなる見通しだ。これでうまくいっているので、当分はこの方針でいいだろう。
魂が使われるその霊能力者に運転免許は必要なのか?
…いや。運転そのものはAIが行なうので安心して欲しい。