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よん。「申し訳ないけれど、そういう方は他にも居たわ」(ナチカ)

「いえ、大旦那様も旦那様も若奥様のことを案じていらっしゃるだけで、非常識だとは思っておられませんからご安心を」


 ドムに諭され、首を捻る。非常識と思われていないのなら安心ですが、私を案じているという一言には疑問しかない。私、サンドリン侯爵家のどなたとも知り合いでは有りません。もちろん、前侯爵夫人も侯爵夫人も知りません。


「ええと。私を案じている、というのは……?」


 疑問を口にすれば、ドムは若旦那様が結婚式を終えた直後から城に泊まり込みであることはご存知ですので、と淡々と返してくる。

 あー、なるほど。

 新婚初日から放ったらかしにされっぱなしの妻である私に同情してくださっている、と。


「本当は大奥様が若奥様の元を訪ねて来ようとなさったこともございます」


 続けるドムの一言に驚きました。

 えっ、前侯爵夫人が私を訪ねる? 嫌です、オソロシイ。そんな大物なお方が私を訪ねて来るだなんて、なんの罰ゲームですか。


「前、侯爵夫人が、ですか」


「あ、お断りしておりますよ。若旦那様がきちんと若奥様を家族に紹介したいから、紹介する前に会わないで欲しいとご家族にも伝えてましたが、私にも伝えておいてくださいましたから。それゆえ若旦那様のご意思を尊重しまして、大奥様にはご理解いただきましたので」


 どうやら恐ろしい思いはしなくて良かったようです。止めてくれたドムに感謝ですね。あと、旦那様にも、感謝した方がいいのかしら。


「良かったです。お名前だけは存じてますが、お顔を拝見したこともないお方ですもの。うっかりどなたですか? なんて失礼な発言をしてしまうところでしたわ」


 胸を撫で下ろしつつ、さらに首を傾げました。


「ところで、こんな私が旦那様の妻でよろしいんですか」


 侯爵家の一員なんて、私には荷が重いですが。

 いくら旦那様が子爵位を頂戴して子爵当主とはいえ、後ろ盾が侯爵家でしょう? 無理です、そんな高位貴族と親戚なんて。

 いや、それより反対しなくていいんですか。


「それですが……若奥様、本当に若旦那様のことをご存知無いのでしょうか」


 ドムが改めて確認してきます。

 無いですね。


「知りませんわ」


 にべもなく断言すると、クロエがあの、と遠慮がちに口を挟みます。


「つい、半年程前の夜会にて、具合の悪くなった殿方がホールの入り口付近で蹲っていたところを、給仕係を呼んで介抱した記憶がありませんか……?」


 クロエのやけに具体的な思い出話に、首を捻り、半年前を思い出します。


「私はあまり社交の場に出ませんから、半年程前の夜会と言うと、父の付き合いがある伯爵家のもの。王家主催のお相手探しのもの。母の付き合いがある男爵家のものの三つなら心当たりがありますけれど」


「それ、それです! 王家主催のお相手探しの!」


 クロエの興奮したような様子に、さらに首を捻ります。王家主催のお相手探しというのは通称で、国王陛下のお名前で、婚約者の居ない男女を招いて定期的にダンスパーティーを開催して下さっていらっしゃいます。嫡子も嫡子以外も招いてくださるので、適齢期になった子息子女が挙って参加します。

 そしてお相手、つまり婚約者探しをするわけです。国王陛下も国外とはトラブルも無く国内が平和だから出来ること、というお考えで開催されているそうで。

 私? できれば参加したくないので欠席したいのですが、王家主催、ですので、簡単に欠席できるものではありません。当然嫌々参加してます。

 貴族とはいえ、下位貴族の我が家。お金に困窮してませんし、お父様の領地経営も悪くないので政略結婚をする必要が無いからか、私の婚約者探しも私の好きにしていい、と言われてました。

 成人は十八歳の我が国ですが、男女問わず二十代半ばくらいまでに結婚すればいいという風潮ですので、現在二十歳の私はあまり急いで探す気も無かったのです。

 結婚そのものにもあまり興味無くて。

 政略結婚をする必要無いし。

 我が国は最近、女性の社会進出も後押ししておりますし、あまり積極的で無いのは確かです。

 それにしても。

 そのダンスパーティーで、私は夫となる方にお会いしていた。ということなのでしょうか。

 そうは言われても……。


「クロエには申し訳ないのだけど、具合の悪くなった殿方もご令嬢もよくお会いするの」


 気負ったクロエに、困った顔をして言う。


「えっ」


「申し訳ないけれど、そういう方は他にも居たわ」


 私はもう少し分かりやすく答える。


「他にも? えっ?」


 あら、分かりにくかったかしら。


「クロエの言う、具合の悪くなった殿方もご令嬢も、お茶会や夜会でよくお見かけするのよ。だからどなたを介抱したのかなんて、覚えてないの」


 肩を竦めて頭を下げれば、ずっと黙っていたドカラが呟くように尋ねてきた。


「そんなに体調の悪い人が出るなんて、みんな身体が弱いのかな」


 あー、いえ、これは、ちょっと訂正した方が良さそうかしら。


「ちょっと違うのよ。ドムもドカラもクロエも、私の髪色のことを何も言及しないでくれたからとても嬉しいのだけど。多くの人は、この髪を欲するの」


 私の一言に、三人は、ハッとした顔を見せた。

 これだけで私の状況を察するなんて、三人とも優秀なのだわ。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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