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オマケ「両親への挨拶がしたい? あ、気付かなくてすみません」(チェス)

 天使……じゃなくて、ナ、ナチカとやり直し結婚生活を始めて二ヶ月が経った。ナチカには「君」と呼んでください。って言われているけれど、天使呼びをしないで欲しいって言われたから、内心では名前を呼んでる。心の中くらい、良いと思うんだ。

 親しくない婚約者の距離感、という曖昧な線引きに具体的なことを聞いたのだけど。つまり、自分たちなりに距離を縮めていくことだ、と私は理解した。だから内心は名前を呼んで距離を縮めてる。


 仕事が第二王子殿下の側近という立場なので、忙しい。本当に忙しい。毎日帰って来たいのに帰って来られないくらい、忙しい。だから帰宅出来る日は、王城の使用人に言付けをしていたのだが、なんていうか、自分の口から人の口を通して妻に帰宅を知らせることが、こんなにも恥ずかしいとは思わなかった。

 他の側近たちとか文官や武官もそう思っている、と聞いた時には、みんな悩みは同じか。なんてしみじみ思った。そんな話を兎に角なんでもいいから話をしたかった私が、久々にナチカに会った時に話題提供として話すと、ナチカが真剣な顔をして頷いた。


「実は私もお城の使用人の方から聞かされるのは、なんとなく恥ずかしい気持ちに駆られていました。あとお忙しいだろう使用人さんに来てもらって伝えてもらうのも申し訳なくて」


 それでナチカは、こんな物でやり取りするのはどうでしょう、と小さな便箋を取り出した。いや、便箋なのか? ナチカが言うのに、ドムに頼んで文具屋を招いたらしい。それで掌サイズの紙を何枚も準備してくれないか、と相談したら後に渡されたのが、この便箋だとか。


 この便箋に何日の何時頃帰る、とか書いて使用人さんに渡すだけでいいのではないか、と。ついでにこのサイズ用の封筒もきちんとある。


 我が国には手紙を書く便箋の種類は多いが、手のひらサイズの物は初めて見た。

 招いた文具屋に相談したら、他国ではメッセージカードという手のひらサイズの紙が売られている、とのことで。他国から仕入れられた、と文具屋に見せられたのがコレらしい。

 メッセージカード、なるほど。これならお互い気恥ずかしい思いはしなくて良さそうだ、と私も賛成した。コレならちょっとした贈り物にもメッセージが添えられそうだし。なんで我が国に入って来なかったのだろう、こういう便利な物。


 ついでに、同じ悩みを抱えていた者たちに教えたらかなり喜んでた。

 そのことをナチカに教えたら、役に立てて良かったです、と可愛く笑って。


「ナチカ、可愛いっ。こちらこそありがとうっ」


 思わず叫んで礼を述べたら、名前を呼んだことに驚いたのか、ちょっと困ったように笑って。


「まぁ少しずつ距離を縮めていましたし。今の旦那様になら名前を呼ばれるのも悪くないですね」


 そう笑ってくれたナチカに嬉しく思った。ちょっとだけいい雰囲気? なんて思った矢先。


「ところで旦那様、旦那様のご両親にご挨拶したいのですが」


「両親への挨拶がしたい? あ、気付かなくてすみません」


 ナチカからそんなことを言われ、ようやく家族にも紹介していないことに気づいた。私がサンドリン侯爵家の者だって全然知らなかったとかで、なんの説明もせずに結婚した私に不審感しかないのは、私でも分かる。

 王命での結婚で、私と交流が無いのに関わらず、私たちは相思相愛なんて阿呆な思い違いをしていた自分とやり直してくれるだけ有り難い。


 だからナチカからの要求は、なるべく迅速に受け入れることにしている。出来ない時もあるかもしれないけど、今のところは出来てる。というか。抑々ナチカの要求が少ないことに今さら気づいた。


 こちらが何か贈り物でもって思っても物欲があまり無いから不要と言うし。それでも今までの行いの謝罪の一環で、何か贈らせて欲しいと縋ったら、泣かないでください、と呆れたように言われただけ。

 後日、本当に物欲が無いです。それから、物で許しを得ようと思っていますか、と尋ねられた時はそんなことはない、そんなことで許されるとは思ってないし、私が何か贈りたいんだ、と叫んだのは記憶に新しい。

 少し考えて、そういうことなら、庭に植えたい花があるので花の苗をくださいって言われた。もちろん、好きな花の苗を植えていい、と苗を取り寄せた。


 それが初めてのプレゼントだったけど、そういう細やかな要求ばかりだ。うん、要求が少ないな。


 兎に角、今は両親への挨拶だ。ドムに先触れを出してもらいその日の晩餐を共にすることになって、侯爵家の敷地内にある別邸にいる私たちは、本邸を訪うことに。

 ナチカの目の色と同じアクアブルーのドレスは、子爵夫人の予算をあまりにも使わないナチカに、使用してください、とドムが懇願した際に作ったドレスらしい。なんていうか、私に擦り寄る令嬢たちって新作のドレスのマウント合戦ばかりだったから、懇願しないとドレスを作らないナチカに驚いた。


 そうか。そういう人だっているんだよな。


 ナチカを知るたびに、私が知っている女性のイメージが良い意味で壊れるから、次はどうやってイメージを覆してくれるのかな、なんて。ちょっと楽しみなのは、言わない方がいいのかもしれない。


 ネックレスはイエローパール。イヤリングも同じ。白い髪に白いパールはボンヤリとした色に見えそう、とクロエに呟いたとかで、夫人予算から購入したイエローパール。髪はアップにされていて、見えるうなじに色気を感じて、ちょっと親でも人に見せたくない、と独占欲に駆られつつ。訪れた本邸。


 緊張しているナチカをエスコートして、両親は高位貴族だからそれなりに腹黒だけど、人を見下すということは無いから安心して。

 なんて言ったら益々緊張した。なんでだ。そして。


「愚かな息子があなたを蔑ろにしていることは把握していたのだけど、あなたと挨拶も出来てないのに、家族として接してプレッシャーを与えるわけにはいかない、と思って我慢していたのよ! やっと親として謝れる機会ができたわ。今までごめんなさいね!」


 母上がナチカに謝って。ナチカは案の定カチンコチンに固まっている。でもそこから、なんだかんだで打ち解けたみたいで、ナチカは楽しそうに笑ってた。


「ナチカ、あまりにも愚かな息子が嫌になったのなら、ポイッと捨てちゃいなさいね!」


 などと不吉なことを言われながらも、別邸に戻った私たち。晩餐はどうだっただろう。父上にもやっぱり号泣されながら謝られてたもんね。

 そろりそろり、とナチカの様子を伺うと、ナチカは「ふふふ」と笑う。


「よいご両親ですね。本日は楽しかったです」


「うん、うん。私も楽しかった」


「この楽しさをまた過ごせるように、旦那様、頑張ってくださいね」


「が、がんばる」


「旦那様の泣き癖はお義父様の性質を受け継いだみたですね」


 ちょっと痛いとこ突かれた。ちょっと苦い気持ちになったけど、ナチカは楽しそうにまた笑うから、うんと素直に頷いた。


「次は招けるように、旦那様が頑張ってやり直し結婚生活を維持してください。私ももう少し、歩み寄りますから」


 少しずつやり直し結婚生活してるけど、どうやらまだ続けることが許せてもらえたようなので。その上、ナチカも歩み寄ってくれるみたいだから、頑張ろう。



(了)

お読みいただきまして、ありがとうございました。


その後の二人をチェス視点でお届けしました。

これにて本作品は完結です。

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