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に。「だって王命が出た理由が不明だもの」(ナチカ)

「ですが若奥様っ。若旦那様に第二夫人ですよっ。気になりませんか?」


「気になるような何があるの?」


 クロエの動揺っぷりに首を捻る。名前も顔もうろ覚えで手紙の返事もなく、王命による結婚一年。なんの音沙汰も無いし、当然結婚までも交流無し。これで第二夫人を迎えるに当たって何が気になるのか。


「えっ、いや、あの、第二夫人をお迎えになられてそちらにお子が出来てしまったら」


 クロエの方が動揺しっぱなしで申し訳ないくらいだけれど。


「いいじゃない。そうしたら私は子が産めない妻として離婚すれば」


 あら? そういえば、三年間白い結婚なら、離婚出来るんじゃなかったかしら。じゃああと二年音沙汰無い方が円満じゃない?


「若奥様は、本当にそれでよろしいのですか。若旦那様と相思相愛なのに。いえ、確かに若旦那様もお仕事がお忙し過ぎて、城に泊まり込みになってしまって帰ってこない。どころか、手紙の一つ、花の一つも遣さないですから、若奥様がそのように拗ねてしまわれるのも分かります」


 うんうん、と頷くクロエの発言に、私はポカンと口を大きく開けてしまいました。

 えっと、ちょっと待ってください。何かとてもおかしなフレーズが聞こえましたが。誰と誰が相思相愛ですって?


「あの、クロエ?」


「若奥様、分かります。分かりますとも! 使用人も私を含めて三人しか居ないから、屋敷の管理に手が回らず、ご自分も自ら掃除や洗濯もこなされていらっしゃる。笑顔を浮かべてくださいますが、内心は若旦那様にお怒りでしょう。ですから、相思相愛のはずの若旦那様のお名前を覚えてない、とか、お顔も覚えてない、とか、そのような嘘をつかれてまで、お寂しさを耐えていらっしゃるのでしょう。お怒りも堪えていらっしゃることでしょう。ですが! いくら初夜もお迎えしていないとはいえ、相思相愛の若旦那様に第二夫人が出来るなんて、悲しみを堪える必要なんて無いのですよ! どうぞ、このクロエにその悲しみを打ち明けてくださいまし!」


 えっ、本当に、クロエが何を言っているのか、さっぱり分からないのだけど。

 これはもしかして、クロエと私との認識に齟齬が有りませんか。


「ね、ねぇ、クロエ」


「はいっ、若奥様っ」


「そのクロエの考えって執事のドムと料理人のドカラの兄弟も一緒、かしら?」


「もちろんでございますとも!」


 えええええ……。まさか、まさかの。こんなに認識に齟齬が有るなんて思いもよりませんでした……。

 クロエってちょっと思い込みが強いから、クロエの妄想かと思っていたのですが、これはちょっと違いそうですね。


「ねぇ、クロエ。ドムとドカラの兄弟も呼んでくれますか? 四人で話し合った方が良さそうなの」


「第二夫人を追い出す方法ですかっ!」


「あ、いえ、それよりもお互いの認識を、ね」


 息巻くクロエには申し訳ないのだけど、抑々の認識に差が有り過ぎて。

 一年、認識の差について考えて来なかった私も悪いのかしら。放置し過ぎてたかしらね、この結婚のことについて。

 いや、こんな話をしたのは初めてだわ。だからこそ認識に差がある、と初めて分かったのだし。

 もう少し、生活を楽しむだけじゃなくて結婚について、旦那様について、とか色々話し合っておく方が良かったのかしら。

 でもねぇ。だって、王命なんだもの。どうしようもないって思っていたのよ。


「お互いの認識、ですか?」


 クロエが不思議そうだけど、兎に角二人を呼びに行ってくれたので、サロンに四人で同じテーブルに着くことにしました。つまり、お話し合いですね。

 やって来た二人は恐縮していたけれど、とても大切な話し合いだから、と言えば、少々言葉数の少ない弟のドカラに視線を向けた兄のドムが、そういうことでしたら、と頷いて二人とクロエが座りました。

 一年でドムが冷静で頭の回転が早い人だと知りましたから、執事に向いているのも納得なので、話し合いは主に彼へ質問することになりそうですね。


「あのね。三人と私の認識に齟齬があることを知ったのよ。三人共、私と旦那様が相思相愛だと思っているという認識でよろしいかしら?」


 私が切り出すと三人が三人共、目を瞬かせ、何を言い出したのか分からない、という表情で頷く。


「若奥様と若旦那様は相思相愛でしょう?」


 改めてクロエに言われ、ドムとドカラも、ウンウンと頷いている。やっぱり、認識に齟齬が有るわ。


「あのね。私たちの認識にやっぱり齟齬が有るのよ。だって王命が出た理由が不明なんだもの」


 そこで一つ息を吐き出します。


「私、本当に旦那様の名前を覚えてないの。だから旦那様って呼んでいるだけだし。顔も結婚式の時にベール越しに見ただけだからうろ覚えなのよ。見目の良い顔立ちって印象はあるけれど、それだけで。それももう覚えてないの。だから旦那様が何色の髪をしていて、どんな目をしているのかも覚えてないし、抑々、どうしてこんな王命が出たのかも分かってないの。それに、結婚式を終えてこの屋敷で暮らすようにってクロエに連れて来られたから、この屋敷に居るだけなのよ。この屋敷が旦那様の所有かも知らないし、皆は若旦那様って言うけれど、旦那様はどこの家の若旦那様なのか、それすら私は把握してないわ」


 とっても真面目な顔で深刻そうに、三人を等分に見て告げる。

 三人がえっ、と言ったまま動きもしないことに、動揺の凄まじさを見せられた気がする。

 一年、私も放置していた責任があるけれど、本当の本当に、私って夫のことを知らないのよね。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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