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じゅうよん。「私の失敗がお耳に入られた、ということですか」(チェス)

 肩身の狭い思いをしつつ、仕事はしなくてはならない。いや、本当に肩身狭いんだ。ワーデン殿下も口数少ないアンディーですら残念な奴認定している。

 確かに、天使の外見のことを全く気にかけていなかったから仕方ないのだけど。そんな目でみんな見なくてもいいじゃないか。

 三人目の側近がようやく明日休暇から戻ることになったその日。


「チェス。大叔父上がナチカ殿とチェスとの結婚生活について、確認してきたぞ」


 ワーデン殿下が、深刻な顔で告げて来た。


「え」


「誤魔化そうかと思ったが、全く家に帰れていない現状は把握されていてな。誤魔化そうとしたら、私まで何か言われそうで黙ってしまった」


 続けるワーデン殿下。


「私の失敗がお耳に入られた、ということですか」


「うん。手紙すら出してないことまでバレてる」


 ……終わった。


「ようやく休暇もらえて、家に帰って天使と新婚生活を送ろうと思っていた矢先に、前王弟殿下にバレてしまったんですか……」


 あまりにもタイミングの悪い。

 泣きそう。


「かなり、お怒りだった。大叔父上自身が、白髪持ちだったことで奇異の目、偏見の目を浴びられた方だけに。天使とかなんだとか言ってたくせに、実はナチカ夫人を自分の妻に据えて、幸運に肖ろう(あやかろう)としただけか! と。実際に良いことがあるかどうかは兎も角、その話を知っていると思った上でのことか、とお怒りで。大叔父上、もう六十歳を超えられたのに、あんな怒鳴り声が出せるとか、怖すぎるよ」


 ワーデン殿下は叱られて落ち込んでいる。私のやらかしなのに申し訳ない。

 それから大きく息を吐き出して、ワーデン殿下は話を続ける。


「王族が一個人に肩入れするのは良くない、と大叔父上も承知されているが、それでも王命によって結ばれた婚姻にも関わらず、その相手を蔑ろにするとは何事だ、と仰ってな。まぁその辺りはその通りとしか言えないから、けじめを付けさせる、と父上も仰って大叔父上を宥めた。父上もさすがに結果的に見て、王命を蔑ろにしているような現状は、如何ともし難い、と仰せでな」


 陛下にまでそのように仰られては、私は本当に終わったな。側近としての地位も終わったし、おそらく天使との結婚生活も終わる。処分がどのように下るか分からないが、文官ですら無くなったら平民として、どんな仕事や生活が待つのだろう。


「そう、ですか……。ワーデン殿下、今までお世話になりました。側近を辞退させていただきます」


「待て待て。話を最後まで聞け」


 クビ、と宣告されるより自分から去る方がまだマシか、と口にすれば、ワーデン殿下が止める。


「まだ、なにか」


「大叔父上と陛下が条件を出された。その条件をクリアして、更にナチカ殿に許しをもらえたら、今回のことは矛に収める、と。セレーヌが前倒しでやって来るとか、ルス伯爵家の暴走とか、そういったことで忙しかったことを考慮して、だ。あと、大叔父上は本当に状況を把握されていて、私がチェスに休暇を与える予定だったのに無くなったことも、チェスの休暇を四人居る側近の最後にしたこともご存知で。王族としての私の発言の重さが状況を悪化させた一環ではある、と仰せになられた。もちろん元凶はチェスだけどな」


 グサッと最後の最後に刺してくる。

 いや確かに忙しくても、手紙や贈り物くらい出せたはずなのだから、それをしなかった私が元凶ではあるけれど。

 でも、ワーデン殿下、そこでトドメを刺してこなくてもいいじゃないですか……。


「まぁそれで、条件の一つは、もちろんナチカ殿に謝って許してもらうこと。許してもらえると思わずに真摯に謝るように、と。それから二つ目は、休暇中、大叔父上の元に行き、白髪持ちの歴史を学び、異端者と扱われる苦悩を少しでも味わうこと。これは大叔父上のところに行かないと詳細は分からない。三つ目の条件は、ルス伯爵令嬢を第二夫人として迎え入れることを令嬢に提案すること、だ」


 えっ、ちょっと待ってどういうことですか。

 天使に謝ることは分かる。許されないかもしれないけど誠心誠意謝る。

 前王弟殿下の元に行き、白髪持ちの歴史を学ぶなどは構わない。寧ろ、自分の愚かさ加減を自分で気づけば、是非とも必要なこと。

 けれど。

 ルス伯爵令嬢を第二夫人として迎えるなんて、そんな条件って、意味が分からない。


「最後の条件が意味不明なのですが」


「それは私も思ったから国王陛下に尋ねた」


 父ではなく国王と呼ばれるのなら、国としての判断ということか。


「陛下や宰相に大臣たちを悩ませたのが、ルス伯爵令嬢の思考だ。私たちの側近の妻の座を得てから、私たちに近づこうと考える辺りは狡猾」


 ワーデン殿下が真剣な口調で切り出す。確かにその辺りの思考は狡猾。


「だが、私たちの愛妾を狙うという思考は妄想も良いところで狡猾な部分と相容れない」


 それも、そう。

 王太子殿下には既に妃殿下との間にお子がいらっしゃる。男の子と女の子の双子とその下に男の子がもう一人。この時点で、貴族家で考える跡継ぎ問題は解決しているので、愛妾や側妃なんて有り得ない。

 王太子殿下は妃殿下を溺愛していて、邪魔しようとする者は側近でも殺気の籠った視線を向けられる、と言われている。

 ワーデン殿下はセレーヌ王女殿下を大切にしているし、後継問題は解決しているからタイミングを見計らって王籍から抜けることも内定している。

 そして、後継問題は解決しているからワーデン殿下とセレーヌ王女殿下の間に子が出来なくても、問題ない。ワーデン殿下が与えられる公爵位を継ぐ者が居なければ、返上すればいいだけだから。

 つまり、ルス伯爵令嬢が愛妾や側妃を狙う意味が無い。


「それは高位貴族も下位貴族も関係なく、貴族ならば誰もが知っていることだと思っていた。私も兄上もその辺りを公言していたからな」


 王太子妃殿下がお子をお産みにならなければ違ったかもしれないが、それは想像でしかない。現実はコレなのだから。


「つまり、令嬢はセレーヌ王女殿下の国に行っていたから知らなかったとはいえ、ルス伯爵夫妻は殿下方の意向を知っていたはずなのに、今回の暴走が起きたことに不審がある、と」


 だから、ルス伯爵令嬢を第二夫人として娶り、真意を探れ、と? それ、尋問官にやらせればいい案件ですよね。

 私の無言の抵抗を感じ取ったのか、ワーデン殿下が続ける。


「そんなにナチカ殿が気に入らないのなら、王命で第二夫人を娶るように、と」


「いや、待ってください。王命はそんなに軽々しく出すものじゃないし、そんな王命を出すなんてってワーデン殿下は仰っておられましたよね?」


 王命による第二夫人? 断れないやつ!


「そうだな。父上もそう思っておられるぞ。それなのに出すって仰るのは、王命をなんだと思っているのかというお怒りだな。王国なのに国王の命を疎かにしている、と判断してもおかしくない状況だ」


 ワーデン殿下に指摘され、改めて自分の非常識さに肩を落とした。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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