じゅうに。「結婚祝いに休暇をくれるというお話は」(チェス)
「結婚祝いに休暇をくれるというお話は」
「済まん。消えた」
天使と婚約出来たが結婚式に向けて忙しくなったことと、例のルス伯爵令嬢のことで殿下が海の向こうの国に居る、自分の婚約者殿に連絡して確認を取ったことと、ルス伯爵家を監視していること、諸々で天使と婚約者としての交流なんて、一切出来なかった。
だが、結婚式の日から二週間の休みを貰えることを励みに頑張っていた。なんだったら屋敷にも帰れないで、結婚式前日まで城にある賜った側近用の部屋とワーデン殿下の執務室の往復以外、どこにもいけない程だった。
それなのに。
結婚式前日、ワーデン殿下からアンディー含めた他の側近たちや侍従のエネスが居る前で謝られた。
それが先程の言葉。
そう。結婚祝いにもらえるはずだった休暇が丸々消えたという。信じられなくて再度確認したけど、やっぱりその返事は変わらない。
「ど、どういうことですかっ」
「済まん。本当に済まんが聞いてくれ。先ず、知っての通りセレーヌ殿にルス伯爵令嬢のことを問い合わせた。海の向こうの国とはいえ、海上では一直線だから波が穏やかなら一週間ほどで彼方の国に使者が辿り着く。その使者がセレーヌ殿の返事を持って帰って来るのにまた一週間。これは分かるな」
さすがに詰め寄った私。ワーデン殿下も気持ちは分かるが、落ち着いてくれ、と言いながら話をする。そんな分かりきった説明は要りません。そう思いながら話を聞いてる、とばかりに頷く。
「その使者が携えてきた返事にはルス伯爵令嬢の件は知らない、というものだった。セレーヌ殿の手紙では私の国に来てから、侍女を探したいと思っているということと、ルス伯爵令嬢が我が国の令嬢であることは知っていたから、我が国のことを知りたくて少し話をしたことは書かれていた。だが、セレーヌ殿の中で侍女にしたい基準があるが、その基準から外れているルス伯爵令嬢を侍女にする気はないから、そんな打診はしていない、と。無論、我が国に来れば侍女は探す予定、とは伝えたようだが」
なるほど。つまり、ルス伯爵家の勝手な暴走だ、ということ。そこまでは分かる。
「ルス伯爵家の暴走ですね。それと休暇が無くなる理由はなんですか」
「それが、前にも話したが、セレーヌ殿は表裏の無い王女でな。この件を知って自分の知らないところで勝手なことをされた、と怒っていてな。直ぐに向かう、と手紙に書いてあった」
「は?」
直ぐに向かう、とは?
ワーデン殿下がちょっと視線を逸らしながら詳しく話してくれるところによると、どうやら王女殿下、かなりのお怒りで、手紙にも書いた上で使者にも言ったらしいが、来年にこの国に来る予定を前倒しして、今から準備をして出来る限り早くに来る、と宣言した、らしい。
「えっ、ちょっと、他国の王女殿下ともあろう方が、そんな猪突猛進なっ。予定前倒しとか、何を考えてるんですかっ。我々、既に辛うじて休日もらっても、その休日は全部寝る時間に充てるくらい忙しいのにっ」
不敬なことを言っている自覚はあるけど、言わずにはいられなくて。でも、ワーデン殿下の説明に、いきり立つ私の言葉に側近たちが同意するべく頷いてくれたので、間違ってはいないと思う。
「私もさすがにそこまで直情型だとは思っていなかった。だから、来なくていいと遠回しに書いた手紙持たせて使者をとんぼ返りさせたのだが、向こうの国王陛下から、セレーヌは良くも悪くも一直線で、一度言い出したら冷静になるまで突っ走るから、諦めて欲しいと連絡がきた。
どうも止めようとしたらしいが、護衛も使用人も要らない、自分だけで行くって言い切ったようで……。
その続きで、国王陛下からの手紙に、幼い頃は王城を抜け出して行方不明になったことが数回あるお転婆なのだ。と書かれてあって。断ったら、無茶をされかねないということで、急遽受け入れが決まった。
ちなみに、その幼い頃は直ぐに見つかったからいいけれど、それなりに歳を重ねた今だと見つからない可能性もある、とも書かれてあったな。あと、そういうセレーヌ殿の性格は国内では周知されているみたいで、セレーヌ殿が抜け出したらそれを手助けする国民が多いかもしれない、とも書かれてあった」
とんでもない跳ねっ返り王女がワーデン殿下の婚約者のようだ、と理解する。幸いにも王女殿下を誘拐して王家から金をせしめるとか、無体なことを強いるとか、そういったことが無さそうなお国柄なのは良かったとは思うが。
今回は、そのお国柄がとんでもない作用を働かせたというところ、らしい。
つまり。
「王女殿下が止まらないから、我が国にやって来ることは確定で、向こうの準備が出来次第、ということでこちらも王女殿下を迎え入れる準備をしなくちゃならない、ということで宜しいですか」
「そういうことになる。明日の結婚式が終わり次第、頼む」
私の確認にワーデン殿下が無情なことを言う。
「いや、ちょっと待ってくださいっ。せめて、せめて明日一日くらい、休日をくださいよっ」
明日は結婚式。その後は夫婦生活第一歩を迎える夜です。さすがに酷くないですか。
「うーむ。そうだよな。さすがに新妻殿に対して申し訳ないし、私が部下を扱き使う酷な上司と思われたくないからな。結婚式が終わったら、一旦城に戻ってもらい、それから帰宅を許す。だが明後日からは通常通り仕事で頼む。一件が片付いたら、きちんと皆に休暇を与えるから」
「充分、扱き使う酷な上司ですよ。鬼ですかっ」
私は錯乱していた。それは認めよう。だけど、仕方ないじゃないか。結婚式翌日から通常勤務って、鬼だとしか思えないじゃないか。
そうは思うけれど、ワーデン殿下はこの時の言葉を聞いて、四人の側近のうち、休暇を与えるのは私を最後にしてやろう、と決意した、と後から聞かされた時には、酷い、とガックリ肩を落としたものである。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




