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いち。「ぜひ!そうして下さいませ!」(ナチカ)

 茶色の髪と同じ色の目をして鼻の上にソバカスがあるメイドのクロエが私に言った。


「若奥様! た、た、大変です!」


「あらクロエどうしたの?」


 慌てていてドアに足をぶつけてるけど痛くないの? と思いながら落ち着かせるために敢えてのんびり尋ねる。


「どうしたの? じゃ、ありませんよ! わ、若旦那様に第二夫人を娶るよう、王命が出たそうですっ!」


 えっ⁉︎ 夫に、第二夫人⁉︎


 それはっ!


「それは、とても良いことじゃないのっ! ぜひ! そうして下さいませ! って大声で言いたいわっ!」


「言ってます、言ってます! というか、若奥様! 良いことだと思うんですか⁉︎」


 クロエのツッコミに、「あら、はしたなかったですね」 としおらしくしますが、もちろん良いことじゃないですか。


「良いことだと思いますっ。ぜひ、第二夫人を娶って頂きたいですわ!」


 またも力一杯肯定してしまいました。あら、やだ、はしたないですね。


「だ、だって、若奥様! それでは、若奥様の立場がっ」


 あら、クロエは私の立場を慮ってくれたのね。さすが、貧乏男爵家出身で嫁ぎ先を探す前に持参金も出せない家だから、お金を稼いで実家に仕送りです! と初対面で自己紹介しながら明るく話してくれたクロエだわ。家族思いの優しさは、一応女主人の私にも発揮してくれているのね。

 その気持ちは嬉しい。

 でも。


「だってねぇ……、クロエも知っての通り、私は旦那様の顔も碌に覚えてないし、名前すらうろ覚えなのよ?」


 そう。旦那様と結婚しておよそ一年。

 どういうわけだか王命によって旦那様と結婚することになってしまい、婚約したのが結婚の僅か一ヶ月前。一応貴族の私と旦那様の結婚は、本来ならばそれなりに婚約期間が設けられてその間に結婚式の準備もする。早くて半年。大体は一年くらいかけて結婚式の準備が行われる。

 互いの親戚や友人達や付き合いのある方々をお招きして、その方達の前で婚姻証明書にサインして、王城から派遣された戸籍管理をする文官さんに証明書を渡すことで結婚式になる。その後はお客様をおもてなしする宴を開くのが普通なのだけど。


 この国では結婚式専用のドレスなんて無いから、自分が着たいドレスを結婚式までにデザインして生地や色を選んで……というのが普通の結婚式。

 それとは全然違うから、家にあった一番良さそう(つまり新品とは言わずとも一度か二度しか袖を通してない)ドレスを着て、新婦は新郎と初夜までは顔を合わせないとかっていう昔々大昔からある習慣のために、急遽他人……というか最近結婚式を挙げた親友が取っておいた……借りたベールで顔を隠して、親戚も友人も付き合いのある方々も居ない、ただ文官さん立会で婚姻証明書にサインしただけの素っ気ない結婚式を終えた後。(当然、宴なんて有りません)


 本来ならそのまま新居で初夜を滞りなく行って夫婦生活を送るはずが、旦那様に仕事が入ったとかで、初夜も行われず、顔も合わせず、今に至ってますもの。ベール越しでチラリと旦那様のお顔は見ましたけど。覚えていませんし。サインしたのも覚えてますけど名前? 何でしたっけ? って感じですし。一応旦那様のご実家がご用意して下さった新居に来ましたけど、一年、旦那様と顔を合わせていませんし。手紙を書いて、クロエの他に居る使用人の一人、執事のドムに手紙を託しましたけど、返信無いですし。結婚してから週一くらいで三回か四回くらい手紙を出してみたのですが、一切返信が無かったので、諦めましたし。


 こんなんで、お子を産めるわけ、無いと思うし。


 だったら第二夫人をお迎えして(これも王命だそうですけど)そちらに産んでもらう方が良いのではないかしら。

 だって、私との結婚は王命でしたのに(その理由が不明ですけど)結婚生活が最初から破綻してるんですもの。第二夫人を娶るなら、ぜひ、そうして下さいませ! って思ってもおかしくないですよね。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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