唄の魔法編④ ~レッツトライ! イナバウアー~
「じゃあ、抱きしめてあげるね?」とラルムは少し頬を赤く染めながら上目遣いでゆっくりと近づいてくる。
「い、いや?」
「え? ハグがいやなの? ん? 僕がいや?」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ、僕のハグがほしいのね?」
「いや?」
「やっぱり、僕のハグがいやなんだね!」
「だからそうじゃなくて」
ラルムが泣きながら走り出すのでラルムの手を掴みひっぱると、私がベッドの上にラルムを押し倒した体勢になってしまう。
「ノア?」
「えっと、これはね。事故というか」
ラルムは顔を真っ赤にしながらじっと見つめてくる。
さて、この体勢はどう立ち上がればいいのか。
その壱、腕立てしてからその反動で起き上がる。
これは失敗したら完全に覆いかぶさってしまう危険性がある。
その弐、片手だけ離して回転する。
これは失敗したら色々とダメージが大きそう。
その参、イナバウアーで立ち上がる。
非常に恰好が悪いがこれで行くのが無難かな。
よしっ! レッツトライ!
「ノ、ノア。イナバウアー? ってなあに?」
「え?」
「いつまでやっている」
エトワールがバックハグの状態で私を抱きかかえ起き上がらせてくれる。
「ありがとう、エトワール」
「ああ」
エトワールは起き上がらせてくれたまま、バックハグの状態でぎゅっとハグをし続けている。助けてもらったし拒絶するのも失礼よね、まあこのままでいっか。
「よくない!」とラルムは叫びながら私とエトワールを離れさせる。
ラルムはエトワールに睨みをきかせるが、エトワールは無表情のまま。ルヌ、アムール、アンジュ、ロゼは何か喋っている様子だが声は聞こえてこない。そろそろ戻してあげてもと思うけど、これ以上場の雰囲気が荒れてもと考えるとこのままがいいかもしれない。可哀想だけど。
「ノアが無事で安心した。ロゼから目の前でノアが倒れたと聞いたときは驚いたが」
「ロゼの目の前で倒れた?」
「あれ? ノアは気が付いてなかった? ロゼっていつもノアのストーカーやっているから常に近くにいるし、ずっと見られているよ?」
「え?」
「本当に知らなかったの? あんなにバレバレというかお邪魔というか。ノアは人を寄せやすいけど、ロゼのせいで場所がわかるからノアをチラ見したい人、話しかけようとする人とか結構いたと思うんだけど」
「言われてみれば……」
ん? ストーキング? ストーカー?
その言葉の意味だと少し怖いから、飼い犬がご主人を追いかけている。もしくは見守っている。ああ! これか! 私のことが心配で見守っているという意味か!
「それはポジティブな考えだけど、そういう感じではないと思うよ」
「そこは個人の捉え方でいこうかな。ロゼが、首が捥げそうなくらい左右に首を振って否定をしているようだし」
「まあ、ロゼのおかげでオレたちはここにいるわけだがな」
どうしても騒ぎになってしまうのは困るところではあるけど、心配してくれるのは嬉しいことだよね。感謝しないとね。そして感謝をコトバとして伝えないとね。と思ったけど、ルヌ、アムール、アンジュ、ロゼが喋れないのが限界らしく、手足で何かを表現しはじめたのが面白く、思わず笑ってしまう。私が笑うと、それぞれが面白いことをしようと競いだし、私は腹筋が痛くなるまで笑った。こんなに笑ったのははじめてかも。私は本当に幸せ者だな。
お読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願い致します!




