お化け屋敷の調査クエスト⑥ 職業「唄が好きな人」
二匹のブルードラゴンは空の上で戦闘をはじめる。青い炎を吐き、翼と翼をぶつけ合う。ドラゴンが空を飛ぶのは普通のことだが、街の上で戦闘をはじめるということは先ずない。人々は驚き、叫び逃げ惑う。門から外に出ていこうとした人々は門の前に立ち塞がる別のドラゴンに睨まれ、外へ出ていくことが出来ない。街の北の方からは動物の遠吠えのような声が聞こえて来る。門の南の方からは黒い複数の玉が迫ってくる。
「ノア! 歌って!」と空からラルムの声が聞こえてくる。
私は推しの曲『キミヲ想フ』というしっとりとしたバラードを歌いはじめる。私が歌いはじめた瞬間に本来の男性の姿のラルムが地上に降りてきて、私を軸にしてシールドが張られていく。シールドは街のほぼ中心に出来、北側からはウェアタイガーになったロゼが人々を中心へと追い込み、南側からはエトワールが真っ黒の魔法使いの姿で人々を中心へと追い込む。西側からはルヌ、東側からはアンジュが人々を中心へと誘導する。
そして、街の人々がシールドの中に集まる形となる。人々が集まったところで、ソレイユとアムールも歌いはじめる。ノアの声を支える優しいコーラス。声のハーモニーで力が増している気がする。
そうか! ここに人を集めて犯人探しをするんだ! 私はココロの中で「カーラのネックレスを盗んだ者よ、出よ」と強く念じる。すると数名の冒険者たちが光だし「痛い、何が起きているんだ?」と言う声が聞こえてきた。ラルムはその冒険者達を捉え、別の場所へと移動していく。
歌い終わると、空や門にいたブルードラゴン、ロゼとエトワールの姿がみえなくなっていた。街の人々は私が唄でこの街を救ったと思い込み、胴上げをして街に平和が戻ったことを喜んだ。街の人々は私を勇者と称え、宴会を開いてくれた。私とルヌ、アムール、アンジュ、ソレイユは宴会を終え、フィオーラの屋敷へと戻るとロゼ、エトワール、男性の姿のラルムが待っていた。
「三人共、無事か?」
「オイラはいつも通りに元気いっぱいっす」とロゼはピョンピョンと飛び跳ねる。
「オレは化け物と言われてしまった……こんなに美しいのに」とエトワールは落ち込んでいる様子。ココロの傷は負ったようだけど怪我はないようなのでとりあえず大丈夫そうかな。
「僕も何の問題もない! ブルードラゴンはカノアご家族に協力してもらったんだ。人を襲った訳じゃないから悪い印象になってないと思いたいね」とラルムはお得意のウインクとピースをする。
「カノアご家族にはお礼を伝えてくれ! それより、その姿はどうしたんだ?」
「やっぱ、そこ突っ込む? 女性の姿は常に魔力を消費しているんだ。最大限に魔力を使う場合はこの本来の姿でないと難しいからね」
「そうだったのか」
「それより。はい! カーラのネックレス!」
「やはり、あの冒険者たちの仕業だったんだな」
「だね。冒険者たちに話を聞いたけど、もう一つの鍵を一緒にみつけたら賞金が出るといっていた。ギルドに確認したけど、そんなクエストはないようだから誰かが個人的に依頼したみたい。ただ、彼らに聞いても依頼主がわからないらしい」
「そうなのか。その件は気になるから後で考えよう。先ずはこれをフィオーラに返そう」
フィオーラの元へ行き、ネックレスを渡す。そしてもう一つの鍵について問うと「その鍵かわらないが、鍵ならわたしが持っている」とフィオーラは鍵のカタチをしたネックレスをみせてくれる。
「その鍵を使うと何かが起きるのか?」
「聞いたことはないけど、これはカーラがわたしにくれたモノなの」
フィオーラのネックレスは鍵そのもので、フィオーラのハートのロケットネックレスをよくみると底には鍵穴のようなものがみえる。
「カーラのネックレスの底に鍵穴があるようにみえる。ここにフィオーラの鍵が差し込める気がする」
「え? 本当だ! やってみるね」
フィオーラが鍵を差し込み、鍵を回すとカーラの霊体が現れる。
「やっと気がついてくれたのね! これでずっと一緒にいられるね」とカーラがニッコリ笑い、手を差し出す。「会いたかった」とフィオーラがカーラの手に振れると二人は光り、抱き合いながら空へと登っていく。
え? どういうこと?
「あのネックレスは魔道具『pinky swear』といってね、ネックレスに約束という願いを込めて、相手に渡すんだ。でも愛し合う仲でないと効力はない。彼女たちの場合はずっと一緒にいたいと願ったんだろうね。死んでしまった後も一緒にいたいと」
「そうだったのか」
目の前にあった屋敷は砂になって消え、草原になっていく。
私はフィオーラとカーラがこれからもずっと一緒にいられるようにと推しの曲「pinky swear」という唄を歌う。
歌い終わるとレベルアップしたような音が聞こえ、ステータス画面が勝手に開く。職業が『フリーター』から『唄が好きな人』に変化していく。
ほんの少しだけ推しに近づいた。「唄が好きな人」まだまだ推しみたいなるには時間がかかるけど自分らしく一歩一歩進んでいこう!
――この物語は『アイドル』という職業となるまでの物語。
そして願いを叶える旅をする物語である。
つづく。
お読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願い致します!




