歩いてくるもの
こちらは百物語三十八話になります。
山ン本怪談百物語↓
https://ncode.syosetu.com/s8993f/
感想やご意見もお待ちしております!
夜遅くに田舎道を歩いていた時のことだ。
その日は偶然、滅多に電車が通らないローカル線の踏切で足を取られてしまった。
カンカンカンカン…
スピーカーから小さな警告音が流れている。
カンカンカンカンカン…
「長いな…」
スマートフォンをいじりながら、なかなか通過しない電車を静かに待ち続ける。
カンカンカンカンカンカンカン…
トン…トン…トン…
スピーカーからの警告音に混じって、足音のようなものが聞こえてきた。その足音は、踏切の向こうから聞こえてくる。
「しまった!○○から連絡入ってたのすっかり忘れてた!すぐに連絡しないと…」
足音のことなんて気に留めないまま、俺はスマートフォンの画面を見続けている。
トン…トン…トン…トン………トン…
足音がすぐ近くで止まった。足音の正体が気になった俺は、なんとなく踏切の向こうをチラ見してみた。すると…
「あっ!?」
踏切の向かい側に「下半身」だけの人間が立っていた。
何を言っているのかわからないと思うが、本当に下半身だけだったのだ。
腰から下までの人間(?)が、踏切で電車が通過するのを待っている。上半身は透けてしまっているような感じで、ないというよりは見えない感じだった。
「あぁ…えっ?」
あまりの出来事に、口を開けたまま立ちすくんでいると…
ガタンゴトン…ガタンゴトン…ガタンゴトン…
目の前をローカル線の電車が通過していった。
「あ、あれっ?」
電車の通過が終わると、向かい側に立っていた下半身が消えていた。ボロボロになった遮断機が、ゆっくりと上昇していく。
「何だったんだ、今の…」
幻覚でも見たいのであろうか。周りを確認しても、それらしきものは発見できない。
諦めて踏切を渡った瞬間、再びあの足音が聞こえてきた。
トン…トン…トン…トン…
足音が聞こえてきたのは、私の後ろからだった。私は後ろを振り返ることなく、すぐに踏切を立ち去った。