79.過去-パワーレベリング
次兄は竜気を使えるようになったが、位階は低く、このままでは竜気を扱うにも肉体が付いていかないだろう。
「そういうことで冒険者デビューだ!」
受肉したテトラくんちゃんがドヤ顔で次兄の前に立つ。
隣にはペンテお嬢様も並んでいる。
二人とも軽装ながらも急所を覆っている格好をしている。
テトラくんちゃんは幅広の大剣を担いでいる。
現代日本のゲームで見たことのあるデザインだ。
『彼奴はオタクじゃからの』
「えーと?」
「シーフィアとジョーリ君の友だちのテトラだよ! おっと冒険者としては先輩だから、テトラ先輩と呼んでくれていいからね!」
「ワタクシはペンテですわ。テトラと同じくシーフィアさんとジョーリくんとは仲良くしていただいておりますわ」
実はこの二柱、顕現用の肉体を作成してすぐに冒険者デビューを果たしてしまっていた。
あまりに自由気ままであるが、俺に精霊の行動を抑え付けることなど出来ないため仕方ない。
せめて、下手な勘繰りや大きな問題にならないよう見張って、主としてキリル嬢にフォローを任せている。
「相変わらず厄介ごと、全部私に押し付け過ぎ……」とため息を吐いていた。
キリル嬢のような有能人材がもっと必要だ。
「これはご丁寧にありがとうございます」
ペンテお嬢様の様子から貴族の可能性を感じ取ったのか、次兄は気さくながらも丁寧な態度を取ることにしたようだ。
まあ、実際に精霊だからやんごとなき存在であるのは間違いないのだが。
シーフィアが少し羨ましそうに二人と次兄を見ていた。
彼女も冒険者になりたいとアルテナとハーベルに告げたこともあったらしいが、説得されて諦めたようだ。
ちなみに俺には特に相談が無かった。
おそらく成長していて、兄に頼りたくないという自立心が育まれているためだろうが、少し寂しい。
しかし、あまりに干渉し過ぎるものもシーフィアのためにならないだろうから、見守るだけにしておこうと思う。
寂しいが。
次兄はテトラくんちゃん、ペンテお嬢様の二人に先導されて、冒険者ギルドにて冒険者登録に出掛けた。
俺は精霊たちに置いて行かれたため、地下帝国で、様子を見ることにした。
アルテナとハーベルの今日は冒険者として依頼を受けているらしく稽古を軽く行った後は足早に出掛けて行った。
タウンゼント卿の農作業ゴーレムの製造工程の監視システムの改善案や、アセモグル少年から提出された空飛ぶ鯨『酔鯨』の設計図面をチェックしつつだが。
しかし、二人ともやはり俺よりも圧倒的に効率が良く、創造的な内容を提出する。やはり、現代知識だけではこうした知的能力や創造性の差を埋めることは出来ないな。
特にアセモグル少年に は魔道具による擬似コンピュータでのCADやシミュレーションの原案を口にしたら実現可能な具体的な図面や仕様を提出してきた。
それを実際に作成したところ、さらに作業速度が上がり、また擬似コンピュータや、それに搭載するOSやソフトウェアの改善要求も実現可能な範囲で無数に挙げてきた。
あの少年の知的能力には恐怖すら覚える。
その才能を活かさないのもアセモグル少年の損失だし社会的な損失だからどんどん発揮してもらおう。
それに見合う対価も与えたいが、どうしたものかな。
『別に働きと対価が釣り合う必要もないじゃろう。そもそも働くことへのやり甲斐はそれ自体が対価じゃろう?』
そういうやり甲斐搾取はちょっと……せめて不安に思うことや目標等があれば協力したいと思う。
さて、それよりも次兄たちだ。
次兄は既に成人しているし、体格もかなり立派な部類であるため冒険者登録はかなり円滑に進んだようだ。
むしろ、テトラくんちゃんとペンテお嬢様が冒険者ギルドで悪目立ちしているため、むしろそれが次兄に奇異の視線を向けるようことに繋がっている。
無事に冒険者登録を済ませたところで、次兄は俺も知っている冒険者に声をかけられていた。
「あれ、お前、確かヒックス家の次男坊じゃ?」
「ああ、確かジョーリの師範の!」
「ヒックス家? アイエスの身内か?」
「あー、それでこのおしゃまたちと一緒にいたわけね。納得したわ」
師範と、いつのまにか師範とすっかりパーティを組んでいる冒険者のベルトランとクールノーである。
やはりもう『アイエス』として行動していた俺がジョーリ・ヒックスというのはもう既知のことらしい。
というか次兄も今の会話からもヒックス君の名前を出してたしな。
もう隠していないから良いのだが。
精霊たちはハーフィンダール姉妹と親しそうに会話しているところを何度か見られているため、精霊たちとヒックス家との繋がりも推測されていたようだ。
彼らは互いに挨拶と自己紹介をしていた。
「そういやヒックス家の次男坊というと最近隣の男爵領で有名人らしいな」
「え?」
「魔法で農地の改善や治水をしているらしいじゃないか。しかも農作業ゴーレムを他の場所でも使えるようにしたとか」
「ほう。さすがアイエスの兄なだけあるな」
「は、はは……ゴーレムは違い、ます……うん」
次兄には、嘘を吐くからには、シュタッケルベルク嬢に真実を明かすまでは嘘を貫き通すように助言した。
嘘は徹底しなければ、どこから露呈するか分かったものではないからな。
「というか、おしゃまって何さ。ボクたちみたいな美人を相手にして酷くない?」
「あー? 美人がどこにいるって? ちんちくりんしか目に入らないが?」
「アナタ、光魔法を使うくせに、良い度胸してますわね……? いえ、ワタクシは寛大ですわ」
クールノーのからかいに、精霊たちは目を細めたが、流すことにしたらしい。
精霊たちは冒険者にも随分と馴染んでいるようだった。
「今日初めて登録したのか」
「はい、そうですね」
「アイエスの身内というならば要らぬ心配とは思うが、冒険者には強さだけでなく、むしろ強さよりも具体的な知識や経験が必要なものだ。よければしばらく一緒に行動するか」
やはりベルトランは世話焼きだな。
生死が懸かっている職業で色々と生存する術を教えてくれるのは徳人と言った方が適切かもしれないが。
「ありがとうございます。ただ、ちょっとだけ込み入った事情がありましてね。今回はお断りさせてください」
次兄には今回は精霊たちと常に行動して従うようにアルテナからも言って聞かせている。
「……そうか。無茶はするなよ」
「はい! ありがとうございます!」
こうして、次兄たちは、ベルトランたちと別れて冒険者デビューを果たした。
さて、ここからだが、完全にマッチポンプである。
近隣別領地でのゴブリン討伐を受注して、その日のうちに、次兄たちは旅立った。
「移動が面倒くさい!」とテトラくんちゃんが文句を言うため、悪路でも走れるように車輪とキャタピラを自動で換装可能な車両ゴーレムを用意した。
「乗り心地が悪いよ」だとか「速さが足りない!」などと更に文句を言われたが、ただでさえ目立つ乗り物なのだから勘弁して欲しい。
そうしてゴブリンの森まで行ったところで、作戦を開始した。
「さて、パワーレベリングの時間ですわよ!」
ペンテお嬢様が決めポーズを取ると同時に、仕込んで置いた養殖キマイラたちを解き放った。
「う、うわあああッッ!?」
「さあ、後輩くん! 戦うんだ!」
「い、いやいや! めっちゃ強そうなんだけど!? これって生命の危機でしょ」
ちなみにキマイラはゴーレム化はしていないが、闇属性魔法や物理的に内部から行動に制約をかけているため、危険は殆どない。
その一方で、共食いによって位階は高まっているため、倒せばかなりの経験値を得られるはずだ。
今回のこの茶番は、次兄が経験値を稼いでレベルアップするため、ついでに彼に自信を付けさせるために仕組んだものだ。
『流石に雑過ぎぬか?』
まったく否定できない。
まあ、こういうのは勢いで意外と誤魔化せるものだ。
「勇気が足りないよ! ていっ!」
タネを知っているテトラくんちゃんがキマイラに斬りかかった。
精霊が魔物を倒したら次兄のレベリングにならないんだが。
「さあ、突撃するのですわ! 死に狂うように!!」
「竜気が纏えてないよ! このままだとアルテナのブートキャンプ送り! 痛くなければ覚えないって言われちゃうよ!!」
「あれはもういやだぁぁあ!!」
次兄は半ば狂乱しつつも、何とかキマイラを倒していった。
完全にアルテナの扱きがトラウマになっているようで、それはそれで少し心配だが。




