48.現在-王都
48話から50話は書くのにかなり時間がかかりました。
そういう時はクオリティも微妙なことが多いですね。
今はわりと円滑に進んでいるせいで逆に投稿のための推敲が面倒になっています。
重魔リリスとオイコノ子爵を倒したその日中に王都にまで辿り着いた。
馬車で3日程度の距離ならば、今の俺にはちょっとした散歩レベルだ。
既に陽は落ちて、一部の中心街の大通りで照明の魔道具が頼りない光を落としている。
魔法がある世界とはいえど、エネルギー消費水準は現代日本とは程遠い。
『むしろ現代日本とかのいわゆる先進国が異様なだけじゃないの』
『異世界でも豊かでない国では電気を安定供給できてない地域も多くあったと知識にありますわよ』
そう言われると確かに深夜でも明るいのが異常なだけかもしれない。
『そんなことより、どうやって重魔スペルビアの居場所を探すつもりなのさ』
一応重魔リリスからは、重魔スペルビアが、どこかの宗教団体に関わっているようなことは聞き出した。
仲間のくせに、重魔リリスは他の仲間たちのことについてほとんど情報を持っていなかった。
驚異的な位階の高さを持つ重魔リリスですら末端らしいとすれば、背後にいる黒幕はかなり厄介なのかもしれない。
一番情報が多い重魔スペルビアについても確定的な情報は持っておらず、自力で見つけ出さなければいけないようだ。
『宗教ね。現在の文明だと癒しの女神を信奉する『聖令教』が一番大きいらしいけど』
聖令教は王国の国教だ。
癒しの神を信奉して、慈悲、公助等を教義としているらしい。
また、洗礼、埋葬とったあらゆる儀式的な行為を独占して既得権益を得ている。
実際に魂という存在が位階や経験値という形式で間接的に示唆されているし、現代日本とは違って宗教はこの世界ではより確固とした意義があるだろうし。
それにこの世界では、道化の神や精霊等の超常的な存在がいるのだから、癒しの神も本当にいるのかもしれない。
『代理人君みたいな俗物でも、むしろ俗物こそ崇めるかもしれないよ』
否定できないな。
ちなみにラファータを聖女と認定したのはこの聖令教である。
『国教を敵に回したくはありませんわよね』
ペンテお嬢様の言う通りだ。
政教分離がされていないこの世界では、宗教は政治にも密接に絡んでいる。
その最たる例は司法である。
聖令教はこの世界で司法機関としての役割も持つのだ。
聖女であるラファータの嘆願がヒックス家の家族の生命を救ったのもある意味では司法への介入と言える。
こちらに利のある介入だからこそ良かったものの、この事はつまり、どす黒い悪人だろうと聖令教上層部が悪人の無実を主張すれば潔白となってしまうことを意味する。
『そういわれると確かに怖いねぇ。やりたい放題じゃん。免罪符大量発行じゃん』
権力や財力があれば、罪を無実にすることができるし、実際にそういう事例もオイコノ子爵領でも散見された。
尤もオイコノ子爵領での悪質な件は道化の悪魔として俺たちが私刑にしているが。
野蛮な世界には野蛮な手段を返すことしか俺には出来ない。
マクロなシステムを変革することは俺には出来ないから、原始的な手段で相手と同じ野蛮にまで降るしか出来ないのである。
俺にとびきりの才能や、熱意があればもう少し話が変わるかもしれないが、俺は自分が野蛮になろうとも気にしない。どうせ俺の魂など仮初に過ぎないからな。
監視システムや道化の悪魔としての活動経験があるオイコノ領に比べて、王都では情報を得るための手段に乏しい。
しかし、やはり悪人たちは悪人どうしでネットワークを築いている。
しかもそれはローカルほどに緊密ではないにせよ全国に渡っている。
とりわけ王都はその中心地でもあるためオイコノ子爵領内の次に情報はある。
そのためまずは記憶に残る悪人たちの元締めに近い方にアプローチをかける。
過去には無い現在の良いところは、ある意味で開き直って行動が出来ることだ。
過去ならばヒックス家に被害が出ないように足が用心に用心を重ねて暗躍しなければいけない。
しかし、ヒックス家が失墜している現在ではこのヒックス君の生命以外はかすり傷だ。
『無敵のヒックス君じゃん』
喪うものがないから無敵理論は、社会が無視してきた問題を茶化して問題を曖昧にしているようで個人的にどうかと思う。
『あ、はい。急に早口だね』
『ナッシュさんやキリルさんのようなゴーレム化した人間たちの生命も掛かっていますわよ』
そうでした。
やはり生命は大事にしていきましょう。
『さあ、悪者のお宅訪問だ』
『悪に屈した弱き心には光の導きが必要ですわね!』
そういうわけで、麻薬生産の元締めの一角である、プレスコット伯爵の下に向かう。
それは即ち貴族たちが集積している貴族区画どころか王城付近にまで接近することを意味する。
殿上人どころか王族にさえケンカを売るような自殺行為である。
常識が一分でもある人間がいたら絶対に止めるだろう。
『何が王様だー。こちとら地下帝国の帝王だぞー』
『天に唾を吐きかけるわけですわね。上手くかわさないといけませんわね』
しかし、この場には精霊と代理人しかいないわけだ。
さっそく伯爵の現在地を探るために複数の偵察ゴーレムを水と多少の泥を基に作り出した。
今回は中継機となる魔道具ゴーレム抜きでも情報通信ができるタイプである。
虫や小動物の姿をしたスパイゴーレムたちは貴族区域の中に散っていく。
さあ、頼むぞ。
スパイゴーレムから送られてきた映像データを受信するためには近くにいなければいけない。
仕方ないから穴を掘って地下に隠れるか。
『結局、やることはいつもと変わらないし、地味だよねぇ』
俺は堅実なんだよ。
それにいきなり乗り込んでいっても非効率だろう。
「認識が甘かったな……」
適当に形成した貴族区画の地下空間で俺は映像を眺めていたが、その映像を見て思わずそう呟いた。
俺が放ったスパイゴーレムたちは当初はそれなりに上手く情報を集めていた。
この世界では情報セキュリティについてはそれほど堅固では無い。
もちろん密偵というのは遥か昔から存在したが、魔道具を用いた密偵は盛んではない。
貴族にとっては、その成り立ちからして武力としての強さが至上とされているからである。
魔道具も爆弾のような魔道具や、または大掛かりな魔道具が重要視されるとタウンゼント卿が嘆いていた。
あの人は研究肌でありながら実学的な応用も追求するタイプだからな。
世渡りが致命的に下手で無かったらそのうち大成していたかもしれない。
話がずれた。
とにかく情報戦の価値が低いのである。
しかし、例外というものは何処にでもあるものだ。
「第六調査団か……」
スパイゴーレムを的確に発見して潰す集団を見て、俺は過去で彼らにオイコノ子爵領の監視システムが露呈しないか不安に思った。
特に有能なのが、アカロフとスペンスという二人の隊長である。
スパイゴーレムに真っ先に気付き、的確に指示を出して、ゴーレムを潰している。
部下も普通に有能なようだし、この世界の人材の裾野は相当広い。
貴族区画での活動をしている以上は部下も含めて彼らは血筋と能力の世界最高水準ではあるのだろうが。
『全精霊の加護さえあれば王国を相手にしたってきっと勝てるよ』
まあ、そうかもしれない。
また監視システムが上手く機能しないこともある。
これは重魔リリスの時と同じで強大な存在が放つエネルギーが、通信を阻害しているのである。
それが幾つか散らばっていることからも、重魔リリス水準の位階にある人間が、この王都にはそれなりにいることが分かった。
大樹海なんて危険地域が隣接しているのに、国家を運営できているわけだ。
王国中央は思ったよりも魔境だわ。
無鉄砲に攻め込まなくて良かったな。
『そう考えると勇者パーティってわりとたいしたことない?』
屑勇者は腹は立つが強さは相当なものだが、不愉快な仲間たちは性別と見た目で選んでいるところもあるだろう。
それでも、平均的な貴族よりは実力が上だとは思うが。
『勇者を騙る者から迅雷の精霊を救い出すためにも代理人君には頑張ってもらいますわよ』
はい……。
しかし、これだけの武力を統治出来ているのだから王は凄いな。
『キミの『ゴーレムクリエーション』よろしく民の経験値を吸い取っていたりして』
うわ、ありそうだなそれ。
これだけ強さが大きく偏る世界ならば、王といえども個の強さは重要な要素だろう。
実際に武力は遥か古代から現代に至るまで統治の非常に有効な手段の一つである。
軍部が政権を握っている国は近現代でも数多くある。何なら現代でも軍事力は重要である。
富が集中するような構造と同じように強さが集中する構造も必要だろう。
もしくは、王自身でなく、国の守護する強力な精霊とかがいるとか。
『少なくともこの王都にはワタクシたちの知る精霊は今いませんわね』
『うん。あえて言うならオクトだろうけど、そっちは勇者関連だし』
勇者も正直よく分からないんだよな。
『全部繋がっているのではありませんこと?』
『勇者パーティって第八師団相当の扱いなんでしょ? 国の中央が大きく関わっているのは間違いないよね』
もしかしたら勇者が重魔スペルビアについての情報を握っているかもしれないな。
まあ、今回は流石に時間がないため、別の手段にフォーカスしよう。
まあ、俺も道化の悪魔として活動してきたのである。
裏社会で紛れ込んだ魔物の一匹くらい容易く見つけ出してやるさ。
『……キミって雑にフラグ立てるの好きだよね』
『アルテナさんとの恋愛フラグもそれくらいしっかりと立てて欲しいですわ』




