47.現在-一つの区切り
一時間投稿が遅れました。申し訳ございません。
詳細は割愛するが、重魔リリスを地下帝国に連行して各種の拷問を繰り返すことで、奴はようやく素直に口を割るようになった。
『これならゴーレム化した方がよっぽど人道的だよ!』
『これが人間の業……ワタクシが導かなければ……』
拷問を実際に見て精神的に疲弊した精霊たちは置いておいて、割り出した情報を整理する。
どうやら重魔リリスは精霊の寵児――つまりシーフィアを探していたらしい。
まさかシーフィアの名前が出てくるとは思わなかった。
精霊の寵児を何故狙うのかと聞けば、命令されたからと言う。
誰にと聞けば、これにはどれだけ拷問しても答えなかった。
忠誠心というわけではなさそうで、むしろ極度の恐怖の色を見せていた。
「喋ったら呪いで殺される……うぶっ……うぇぇ……」
どうやら裏で手を引いている黒幕に事情を話せないよう細工をしているらしい。
今の発言も度を越しかねなかったようだ。
解除できないか細工について詳細に検討してみたが、なるほど、何かおぞましい気配を重魔リリスの内側から感じた。
どうも現状の俺の力ではどうすることもできなさそうだった。
重魔リリスほど位階が高まった魔物にそれだけのことが出来るとは、中々厄介なのが背後にいて、シーフィアを狙っているらしい。
ラファータを初めとして、アルテナとハーベル、更にはシーフィアまで危機に瀕しているとか何なのだろうか。
ヒックス君は毎年が厄年なんじゃないだろうか。
『うーん、精霊の寵児を狙うやつか』
テトラくんちゃんとペンテお嬢様は何か黒幕について知っているかね。
『クオンツの時代なら精霊の寵児を狙うのは分かりますけれど、現在となりますとね』
クオンツというと古代の魔法王国だったか。
その時代から生きている奴かもしれんな。
むしろかなりの脅威らしいからその方が妥当かもしれない。
『えー? やばそうなやつは徹底的に始末――もう亡くなっているはずなんだけどなぁ』
お、おう。
それからどうしてオイコノ子爵領に精霊の寵児がいると分かったのかと聞けば、そう告げられたからでそれ以上は知らないと言う。
どうもシーフィアが精霊の寵児ということも発覚していたらしい。
記録者のような存在がいるくらいだし、そう言ったものだろうか。
黒幕の思惑とやらを聞こうとしても、どうやら重魔リリスは話せないらしい。
シーフィアを捕獲した場合は殺さずに連行するように命じられていたとのことである。
『オイコノ子爵領に酷い目に遭わされるシーフィアはいなかったんだね、良かった』
『もっと酷い目に遭っているかもしれませんわよ』
『許さないよ』
ミクスゲルについては重魔スペルビアという輩が手配したらしい。
『やっぱ。ボクの加護関係ないよね!? 元のヒックス君が気付かなかっただけでミクスゲルと重魔リリスはベンチマーク世界でもいたんだよ!』
『その可能性が高いですわね。仮説は全ては当たってはいなかったみたいですわ。しかし大地の加護のミクスゲル成長への寄与についてはまだ分かりませんわね』
まあ、重要なのは、どういう場合にせよ、重魔リリスが新たなミクスゲルを使って地獄絵図を生み出していることだろう。
それにしても、重魔スペルビアね。
精霊たちは何か知っている?
『さあ? 全部は読んでないけど、記録者がみせてくれた新しい大樹海パンドラ紀行にも特に名前は載ってなさそうだよ』
『ワタクシも知りませんわね』
少なくとも昔から有名な魔物ではなさそうか。
重魔リリスは重魔スペルビアについては話せるようであるため、更に口を割らせる。
割らせるというか、重魔リリスは重魔スペルビアが嫌いらしく、自発的に色々も語り始めた。
曰く、イカれた元人間だということらしい。
人遣いが荒いとか、発言が気持ち悪いだとか、生理的に受け付けないだとかの余分な情報も多々あったが、重魔スペルビアについては所在地を含めて、多少の情報が集まった。
しかし、重魔スペルビア以外の協力関係にある魔物については、そうした存在がいるというだけで具体的な情報は手に入らなかった。
それから重魔リリスはどうやって強くなったかと聞けば、少し煙に巻こうとしていたが、記録者のことでカマにかけたらあからさまに反応した。
やはりペンテお嬢様の塔付近にあったサキュバスの村と繋がっていたか。
色々と情報を聞き出したところで、重魔リリスの全身を大地で覆い、『ソリッドアース』でキューブに変えた。
『エグいなぁ……』
ヒックス君の代理人である俺がヒックス家、そしてシーフィアを苦しめた敵を許すと思っているのか。
重魔リリスはこれからどんなに格下になって媚び諂って来ようが、絶対に始末する。
そして、精霊の寵児だか知らないがシーフィアを狙うというならば、重魔リリスの背後にいる奴らも全員根絶やしにしてやる。
絶対に。
さて、重魔リリスを倒したことで、ほとんどオイコノ子爵領には用事が無くなったが、一つだけ欠かせない用事がある。
オイコノ子爵領の現当主、カーマクス・オイコノへの応酬である。
ヒックス君の記憶が頼りであった最初の頃とは違って、所詮オイコノ子爵は重魔リリスの傀儡に過ぎないことを知っているが、それでもカーマクス・オイコノを許すつもりは一切ない。
前回も本当は始末するつもりだったが重魔リリスとほぼ相討ちで能わなかった。
しかし今回は復讐させてもらおう。
早速オイコノ子爵の屋敷にずかずかと侵入した。
『道化の悪魔』の仮面を被った。
ジョーリ・ヒックスとしてではなく『代理人』としてオイコノ子爵に復讐するならばこの姿の方が適切だろう。
サキュバスやら、ゴロツキの用心棒やらが迎撃してくるが、全て『ソリッドアース』でキューブに変化させる。
『絵面がなんかすごい悪役っぽい』
『そもそも私刑にはワタクシは反対ですわ』
暴力に暴力で応酬することが正しいわけがない。
しかし少なくとも今の俺は止まるつもりはない。
そして領主のカーマクスがいる部屋の扉を蹴破った。
ヒックス君の記憶では姿を知っているものの、実際に俺が対面するのはこれが初めてである。
「な、なんだ」
カーマクスはお愉しみの最中だったらしく、肥えた醜い裸体を晒していた。
記憶で見た時から感じていたが、太った人間というよりは人間の姿をしたオークという方が適切に感じるくらいだ。
「よお、道化の悪魔が醜い豚の屠殺に来たぞ」
「ど、道化の悪魔だと!? おい、警備は何をしている! サキュバスは!?」
そこで俺はキューブへと変貌した呼ばれた奴等を『アースコントロール』で連れて来た。
運んだという方が適切かもしれない。
『箱だけに』
『テトラさん……』
『可哀想な目で見るのやめてくれないかな?』
…………。
「お呼びのようだったから、もはや歩くことが出来ない彼らを呼び出してやったよ。さて、次はどうする?」
「ひっ!? 重魔リリス様! お助けを!」
「そういうかと思って、重魔リリスも連れて来てやったよ」
俺はカーマクス豚に重魔リリスだったキューブを投げ付けた。
「ふ、ふはは、重魔リリス様は人間が到底敵うことのできないお方だぞ。そして私は重魔リリス様の力でこの国の王になる男だぞ! 控えおろう!」
『うへえ、滑稽ってレベルじゃないよ』
『ああ、とても愚かで脆弱な人間ですわ。光の導きが必要ですわね』
ふむ、光の導きを与えてやるか。
収束光竜気でカーマクス豚の片腕を消し飛ばした。
「……はっ? ……ふ、フギィィいいイィィっっ!?」
汚い鳴き声だな。
『光の導きってそういうことではありませんわよ!?』
『家畜未満の畜生に救いはないよ』
「カーマクス・オイコノ。いずれ至る現在では、お前に何も奪わせない。ヒックス家の一族はもちろん、ヒックス家の名誉の一欠片たりともだ」
カーマクス・オイコノは鳴き叫ぶばかりで何も聞いていない。
「とりあえず今のお前はくたばれ」
そして、これからのお前も可能な限り屠殺してやるからな
俺は、『ソリッドアース』でカーマクスをうつ伏せに固定して、その首元に立つ。
そして『ゴーレムクリエーション』で巨大な断頭斧を作り出した。
「ひっ……!?」
「お前が哀れになるほど滑稽だからこれ以上痛めつけるようなことはしないでやるよ。一撃で頭と胴を切り離してやる」
「ま、まて! 金ならある! それに宝石も! だから待て!」
「おう。辞世の句はそれで良いのか」
「た、助けてっ……」
ズドッと重い音を立てて、断頭斧は地面にめり込んだ。
手に入った経験値は雀の涙ほどである。
『0.0003ティファニーくらい?』
そうね。
それにしても、どっと疲れた。
オイコノ子爵領での戦いは精神的に負担が大きい。
『オイコノ領での戦いは一先ずこれで終わりかな』
キリル嬢やナッシュ、その他の人間ゴーレム勢も悪人の粛清に励んでいるようで、結構な頻度で経験値が入手できていたが、その入手頻度もだいぶ落ちて来た。
『ワタクシも疲れましたわ……』
ペンテお嬢様には色々と辛いものを見せてしまって悪いと思っている。
『え、ボクは?』
テトラくんちゃんは、別に……。
『えこひいきだ!』
だってあまり気にしてなさそうだしな。
むしろ最初は色々とノリノリで拷問内容を提案していたじゃないか。
『それはそうだけど』
じゃあ、良いじゃないか。
『むー』
テトラくんちゃんは頼もしい悪友だよ。
『む、まあ、そういうことなら良いよ』
『チョロいですわね』
チョロい方が可愛いじゃないか。
『代理人君にもペンテにも言われたくないなぁ……』
人間ゴーレムたちを地下帝国に戻して、労いの言葉をかける。
いや、本当に良く働いてくれたよ。
「マスター! 重魔リリスとの戦い! 最高でした!」
ナッシュが感極まった様子でそう叫んだ。
現在のナッシュはだいたいいつも感情がフルスロットルだよな。
「もう少し良い映像があればもっと良かった!」
ナッシュの叫びに他の人間ゴーレムたちも賛同するように頷いた。
重魔リリスの残虐な悪行を監視しながらも何もできずにいたのだから、その敗北する姿は中々の爽快感があったのかもしれない。
俺も前回はナッシュを犠牲にぎりぎりの勝利……というか引き分けにしかできなかった重魔リリス相手に余裕を持って倒せたため胸がすっとした。
やはり精霊の加護と自動経験値上昇システムは偉大だな。
「何より豚子爵の断罪は素晴らしかった」「よかった、感動した」「マスターのセリフが格好良かったな」「『おう、辞世の句はそれでいいのか』は痺れましたです」
あっあっ、やめてくれ。
何だかめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
『こうして黒歴史が生まれていくんだね』
『テトラさんも『家畜未満の畜生に救いはないよ』とかキメ顔で言ってましたわよね』
『う、やめてよ』
その後も人間ゴーレムたちに褒められているんだか貶されているんだか分からない言葉を浴びせられた。
何にせよ、これでオイコノ子爵領に関する現代での復讐は果たした。
これからは俺が倒せない時は、キリル嬢に7年後の現在の適切な時間で、重魔リリスとカーマクス・オイコノを倒すようゴーレムとして指示を出しておこう。
経験値を明け渡しておけば彼女なら問題なく倒せる。
復讐と効率的なレベル上げにもなるしキリル嬢の負担以外は良いことづくめだ。
オイコノ子爵領での用事を済ませたところで次の目的地として王都を目指すことにした。
ナッシュが付いてきたがったが、移動の関係でお留守番してもらった方が良いだろう。
何せ剣聖のクソ爺との決闘まであと19日に迫っているのだ。
調査にも時間が必要なのだから移動の時間は極力減らしたい。
『最初に先行して、後からついて来て貰えば?』
……うーん、まあ、人手は多い方が良いのか?
ナッシュが来るならキリル嬢もセットになるだろうし、彼女ならば俺よりも効率的に情報を得るように思える。
それにナッシュも長いこと監視システムに携わっているのだから、諜報活動も俺よりも出来るかもしれない。
『分業は大事だよ』
『比較優位ですわね』
結局、無理しない範囲で追いつくように言って、俺は一足先に出発した。
「この身に変えても急ぎます!」
生命は大事にしようね。




