45.現在-疾風の精霊の所在地
55話くらいまで現在でお話が進みます。
正直に言うと、今後の展開は現時点でややファジーなのでこの辺りは後で多少書き換えるかもしれないです。
いつものようにペンテお嬢様の塔から超極大の光線を打ち込んだ後に、その日は何とかエネルギーを身体の中に留めることが出来た。
ようやくペンテお嬢様の大爆発が終わったのである。
1.5年ほどかかり過去ではヒックス11歳を迎えた。
現在と過去の身体の差異も少しずつ小さくなって来ている。
前回のテトラくんちゃんの大爆発はおよそ3年続いたが今回はおよそ半分の期間である。
『長かったねぇ』
『元々の原因はテトラさんでしょう?』
『何も聞こえないや』
精霊たちの漫才は置いておいて、ひとまずいつも光線を放って倒していた相手の正体を見に行こうと思う。
なんだかんだとこの1年以上気にかかっていたのだ。
陽光の精霊の加護によって、俺は光速とは到底言えないが超高速で移動は出来るようになった。
陽光の精霊の加護だし亜光速で移動できたらよかったが、もし可能だったら原子崩壊を起こして周囲丸ごと消し飛ばしかねない。仕方ないね。
さて、いつも光線を打ち込んでいたところには簡素な村があった。
正確には光線を受けて吹き飛んだ村らしき残骸である。
人型らしき死体もまばらに転がっている。
思わず青褪めた。
ずっと罪の無い人間を消し飛ばすことで経験値を上げていたのだろうか。
『いや、これは人間じゃなくてサキュバスだよ』
テトラくんちゃんが近くにいた死体を見て指摘した。
流石に言葉の通じる魔物は人間と同じくらいには罪悪感を覚えるのだが。
いや、しかしサキュバスといえば重魔リリスの同類……いや、種族で括って良いものではないかもしれない。
うん、次は光線をぶっ放さずに少し様子を見るか。
『もし無害で温厚な魔物だったら、罪悪感すごそうだけど』
まあな。
しかし、今後も知らないふりをするわけにもいかない。
『四之剣・砂鯨』で周囲の把握をすると、生存者がいた。
戦闘に備えながらそちらに注意を向ければ倒れている全裸の男がいた。
どうやら気絶しているらしい。
『これはー……サキュバスのエサ?』
テトラくんちゃんの指摘は正しいように思われた。
適当に家の残骸である木の繊維からゴーレムクリエーションで衣服を作り出した。
服ゴーレム自体が勝手に全裸の男性に着込んでくれる便利品である。
さらに『クリアランス』で汚れやらニオイやらを飛ばしてやる。
しばらくすると男性が目を覚ました。年若い優男である。
「……おや? 助かったのかな?」
男性は間の抜けた様子できょろきょろと辺りを伺った後に俺に目を向けた。
「君が助けてくれたのかい?」
「まあ、そんな感じ?」
正確には大雑把に極大光線を打ち込んだだけだが。
「ふむ。礼を言うよ。サキュバスの群れに捕まってしまってね。僕は不老不死の呪いがあるのにとても弱いから、良い養分にされてしまっていたんだ」
やはりサキュバスの餌にされていたのか。
人間に危害を加える以上は敵性のある駆除対象だな。
それにしても聞き逃せない言葉があった。
「不老不死?」
あまりに突飛であるが、しかしサキュバスの群れに囲まれて死んでいないと言うことはあながち嘘でも無いだろうか。
そもそも極大光線で彼だけ生き残っているのも不自然だしな。
たまたまか、もしくは青年がサキュバスよりも強いからかと思ったが、驚くほどにこの青年から感じる気配は弱弱しい。
衰弱しているだけかもしれないが。
「サキュバスには位階簒奪という恐ろしい技があってね。相手を生かしたまま生命力と魂を喰らうことができるんだよ」
「それは怖いな」
死に戻りが出来ないのに経験値を吸われるとか致命的過ぎる。
「しかも僕は不老不死だから、永遠に尽きることのない魂を吸われ続けて困っていたんだ。サキュバスは少しずつだけど、どんどんと強くなるしね」
俺の考案したミクスゲルを用いたレベル上げシステムみたいなものか。
いや、俺の考案したシステムの方がより芸術点が高いと思います。
『なんで対抗意識を燃やしてるの?』
「さて、救出といい、衣服といい、世話になったね。僕は旅に戻らなければいけない」
「いやいや、もう少しあんたのことを教えてくれよ」
「私のことかい? 私は悠久の時を旅しながら記録を付けるものさ」
「記録ねえ……なんでそんなことをしているんだ?」
「それが私に課せられた罰だからさ」
不老不死なのに弱いままで旅させて記録を取らせるとか中々酷い罰だな。
そんなことが本当に出来るのなら罰を与えたのは神だろうか。
そしてどんな罪をしでかしたらそれだけの罰が与えられるのか。
「さて、僕は旅に戻るよ。君は君の旅を続けると良い」
「そう慌てるなよ。ちなみにどこに行くつもりなんだ?」
「どこに行こうか。ひとまず東に進もうかな。ああでも、紀行文を渡しに行くつもりだったんだ。人間の寿命からしてあの貴族も生きていないかな。長いことサキュバスに捕まってしまっていたし」
紀行文という言葉に思わず反応する。
「あんた、もしかして大樹海パンドラ紀行の筆者か」
「おや、気付いてなかったのか。その通りだよ。今回も溜まった紀行文の写しを物好きな知り合いに渡すつもりだったが、流石にもう亡くなっているだろうね」
「それなら俺に預けてくれないか。熱心な読者なんでな」
大樹海パンドラ紀行にはかなり助けになる知識があったし、それに実際娯楽の少ないこの世界での楽しみでもあった。
もちろん俺も目を通すが、ちゃんと出版されるように手配したいとは考えている。
しかし男はくすくすと笑った。
「ふふ、君に預けたって死に戻りしたら意味がないだろう」
その言葉に改めて目の前の男を強く警戒する。
「……どこまで知っているんだ? 何者なんだ?」
「僕なんかを警戒しても仕方ないさ。僕は不老不死なだけの弱者だ。竜気も霊気も使えない。ただし身動きが取れない時は『遠視』という異能で記録を綴れるのさ。君のことはそれで知ったに過ぎないよ」
「勝手に人の私生活をのぞくなよ」
『なにその特大ブーメラン』
『オイコノ領全土に監視システムを構築した者の言うことではありませんわよね』
そこ、静かにしなさい。
「すまないね。……ふむ、せっかく記録したものを読んでくれる人がいるなら、まあいいかな。問題なく読めるなら読んでくれるかい」
そういうと男は何処かから大量の紙束を取り出した。ちょっとした紙束の雪崩が起きたと表現できるほどだ。
いや、本当に何処から出したんだ。
「凄まじい量だな。数日かけても読み切れなさそうだ」
『ざっと視界に入れておいてくれればボクとペンテが後で記憶から抽出して読み込んでおくよ』
テトラくんちゃんからの有り難い申し出に感謝する。
自分で活字を読めないのは惜しいが、さすがにこの量は剣聖と戦う23日後までを全て活用しても読み切れないからな。
しかしざっと紙面を見るだけでもかなり時間がかかった。
「せっかくだしもう一つ有益な情報を教えよう。疾風の精霊の現在位置なんてどうだい? 疾風の精霊はかなり前から眠りに目覚めて自由に飛び回っているからね。君は精霊を探していると思うがこのままだと中々遭遇できないだろう」
そうなの?
『疾風の精霊は自由奔放ですもの』
『疾風の精霊は鳥頭なんだよね。困ったちゃんだよ。ボク以外の他の精霊も大概だけどね』
テトラくんちゃんが中々失礼なことを言っている。
そうして疾風の精霊の居場所を聞き出した俺たちは大樹海パンドラ紀行の筆者と別れた。
「あと数日はそこに居座っているんじゃないかな。まあ、向かうつもりなら今すぐ直行した方がいいだろうね」
数日で疾風の精霊の現在地まで行ける気がしないんだが。
いや、今ならペンテお嬢様の加護があるから間に合うのだろうか。
「分かったよ。紀行文もあとでちゃんと内容を確認させてもらうよ。これからも良い作品を書いてくれよな」
「私は記録をするだけだが……ありがとう。アレクセイに勝利できることを祈っているよ」
最弱の不老不死の男は俺が追加で作ってやった木の靴ゴーレムで再び歩き始めた。
彼はいつまで記録の旅を続けるのだろうか。
『次は疾風の精霊を仲間にするのかな? 位置的に次は夜闇の精霊だと思ってたけど』
まあ、所在地を聞いたし、そこにいる時間にも制限があるようだし次は風の精霊だな。
個人的には応用性から闇の精霊ともコンタクトを早く取りたいところだが、そちらは所在地が確定しているようだし、動くことも無さそうであるため後回しでも良いだろう。
まあ、今回は疾風の精霊は後回しにしようと思う。
現在の一番の目的地はオイコノ領だ。
まずは重魔リリスと再戦するつもりである。
今度はナッシュだけでなく誰も犠牲にせずに倒してやるさ。




