↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/99

29.過去-ダンジョン

 

 最初に『ゴーレムクリエーション』のこの応用を試したのは道化の悪魔としての活動中である。


 その日、俺たちはある奴隷の闇市場を潰したのである。

 別に奴隷自体が違法というわけではないが、ここの奴隷はいわゆる盗品が多く、財産の侵害にあたるわけだ。


 まあ、この世界で合法だろうが軽犯罪だろうがどうせ何処かしらでオイコノ子爵の資金源になるため潰したのだ。


 気に入らないから潰す。

 道化の悪魔は義賊的ともいえるが、しょせんは俺の利己心と独善的な行動に過ぎないわけだ。

 暴力が蔓延る世界で、暴力で対抗して自分の欲求を満たそうとする俺は、本当のヒックス君よりもよっぽどこの世界の人間らしい。

 まあ、それはどうでも良いだろう。


 そうして奴隷の闇市場を潰している中で、既に亡くなっている者やすぐに亡くなりそうと処分部屋に送られていた者もいた。


 教会程度では癒せない傷で、ラファータならば救えるのかもしれないが彼女を人間の醜悪を煮詰めたような状況に巻き込むわけにもいかない。


 これ以上苦しむのならば、楽にさせてやるべきかもしれないと、部屋にいる者を見た。


 一人の少年の紅い眼は、もう自分は長くは生きられないと思いながらも、それでも死にたくないと訴えていた。

 その強い意志の宿る瞳がこのまま消えることが、俺には非常に惜しいことであるように思われた。


 ハーベルを助けて、俺は彼を助けないのか?

 たとえ独善的な行為に過ぎないと思いながらも、そこまで自分の人間性を堕落させては、俺にヒックス君の代理人をこれ以上努める資格はもう完全に無いのではないだろうか。


 俺が自分の行動の理非を考えていた時にハーベルが呟いたのだ。


「もしも彼らがゴーレムならば、修復可能なのに」


 それは天啓だった。

 俺はほとんど無意識に、するすると目的に適した形に改変した詠唱を口にして少年に『ゴーレムクリエーション』を使ったのである。


 ゴーレムクリエーションが後世に残してはいけない禁忌の魔法となった瞬間である。

 この世界に与える影響があまりに大き過ぎるためだ。


 さて、過去は置いておいて現在の話をしよう。

 ゴブリンに酷い目に遭わされた女性は完全な無傷で復活した。

 彼女は俺のゴーレムとなったのである。


 戸惑う彼女に現在の状況を伝える。


 死にかけていたこと、魔法で生命を繋いだこと、これ以上生きたくないならすぐに息を引き取れること、生きるならば俺には服従しなければいけないこと、望むなら俺たちのことを話さないようにだけして元の生活に戻すつもりであること、俺が死ぬと同時に死ぬこと。


 俺の説明に彼女は混乱しているようだったが、それでも選択をしていく。


「死にたくないです」


 うん。


「村にも戻りたくないです。もう居場所がありません」


 ゴブリンに拐われて凌辱されていた以上、彼女を見る周囲の目は不快なものになるだろう。

 農村は閉鎖的な共同社会だろうしな。


「それなら教会だろうか。腐っている部分も多くあるが、良心もある」


 アルテナが提案した。

 国教である『聖令教』の教会もその権力者の中には、裏で違法奴隷を売買したり、麻薬の畑持っていたり、隠し金庫に大量の貴金属やら持っていたりするけれど、良心的な活動もしている。


「教会、ですか」


 女性の顔は浮かない。

 まあ、教会での生活も質素だし厳正だ。


 ちらりとハーベルに目を向けると、彼女は了承とばかりに目で伝えてきた。


「……他の道もありますよ。あまりお勧めはしませんが」


 そしてハーベルが簡単に説明すると、女性は頷いた。


「そうしたいです」




 女性を連れてギルドに戻り、アルテナが依頼を達成したことを報告した。

 保護した女性のことは伝えていない。


 ギルドでは、アルテナとハーベルを褒めそやすが、俺については何も言及していなかった。

 実際に俺は何もしてないから正しいのではあるけどさ。


 そのまま女性を見つからないように闇魔法で保護して、ヒックス邸に連れて行く。


 なんだか悪いことをしている気分になるな。


『連れ込みだぁ』


 人聞きの悪い。彼女にも失礼だ。


『う、確かに。ごめんなさい……』


 ちゃんと謝れるのはテトラくんちゃんの良いところである。


 女性をアルテナの部屋に連れて行き、そこから地下に潜らせる。

 ここで、俺たちは地上に残ってゴーレムでの遠隔誘導に切り替えた。


 幾つか分岐した道を通って、地下の広大な空間に辿り着く。


「こ、ここは……」


 女性が驚きと戸惑いの声を上げる。

 当然の反応だろう。


 地下には照明の魔道具ゴーレムで明るい。

 太陽光とほぼ同じ周期で明滅するように設定している。


 更には河川から引いてきた小川と眠っていた地下水から引いた小川が流れている。


 そして田畑と小さな集落が立っていて、人間を含む多様な種族が農作業をしている。


『偉大なる地下帝国さ。暫くはここで暮らしてもらうよ』


 こんなに長閑な地下帝国があるのか?

 そもそも帝国にするつもりはないが。


 ゴーレムと新入りに気付いて、農作業していた人々が止まって寄ってきた。

 そしてゴーレムの前に跪いた。


「これは大地の精霊の御使い様。本日も凛々しいお姿でいらっしゃいますね」


 もふもふの犬人間の老爺が代表として挨拶をする。


 彼らは違法奴隷で捕まった人間の中でも生命の危機にあって、俺の『ゴーレムクリエーション』でゴーレムに変化した人々である。

 助けた以上は仕方ないし面倒も見るかということでこの地下に匿っているのだ。


 お陰で彼らの住環境を整える手間がかかった。


『うむうむ、苦しゅうないよ。今日は新しい人が来たから色々と教えてあげるんだよ』


 テトラくんちゃんが操作するゴーレムが尊大な態度を取ってそう述べてから崩れた。

 まさかの丸投げである。


 彼らには最低限の約束をした後は、基本的に自治させている。

 彼らに何か成果や労働を求めているわけでもないため、もしもこの地下空間が俺の死等で維持できなくなった時の備えをさせている。


 まあ、一部の非常に忠誠心が強いゴーレム化した者には監視業務を手伝わせたりしている。先ほど言及した紅い瞳の少年にも監視業務を担ってもらっている。

 重大な情報が何かを教える教育や、報告、連絡、相談を徹底させるような指導もわりと根気のいるものだった。

 そもそも文字を教えるところから開始したくらいである。


 俺が剣聖との争いで生き残って、ヒックス家がどうしても追放や処刑のような憂き目に遭いそうならこの地下に避難させるのも選択肢の一つだろう。


 実を言うと別階層には隠し畑と呼ぶには大き過ぎるほどの畑用の耕作地をゴーレムの全自動で行なったりしている。

 大地の精霊の加護のおかげでとても肥沃な土地となっているため、その気になればいつでも農作物の価格破壊を起こせるほどである。

 現時点ではそうした経済的混乱を引き起こすつもりは特にないが。


 別階層では畜産動物と更には魔物も繁殖させている。

 魔物は基本的にはゴーレムの素材として有用であろうスライムや、もこもこ、グロースプラントなどである。


 義賊的に集めた財産は、さらに別階層に分散して貯蔵している。

 ひとまずは地下避難民たちの生活物資の購入等に充てているが、これもいざヒックス家が憂き目に遭った時には大放出しよう。


 今度は俺自身が監視システムの階層を訪れると、いつも通りに赤い瞳の少年が素早く駆け付けた。

 ちなみに彼はナッシュという名である。


「マスター、お疲れ様です。今日の報告もまとまっています」


 ナッシュは代理ゴーレムの前で跪いて、そう報告した。

 非常に忠誠心が厚く、少し怖い。

 監視業務はあまり向いていない気もするが、俺の役に立ちたいと強く請われたため任せている。


 ちなみに監視役には俺の正体を教えている。

 ゴーレムが使える時点で、監視中にどうせ察しがつくだろうから、それなら信頼を得るためにも「ここだけの話だが」と正体を明かした方が良いと判断したのである。


 ナッシュからの報告を聞いた後に、無理しない程度に頑張るようにと伝えると感激された。

 何だか悪いことをしている気分になるのは何故だろうか。


『詐欺とか情報商材の売り込みとかは向いてないね』


 誰がするか。


『それにしても、この地下空間ってダンジョンみたいだよね』


 何層にも渡っているし、魔物もいるし、宝もあるし、予備的に出入り口も作っている確かに似ているな。


『表の顔は冒険者、実はダンジョンマスター。まさにテンプレだぁ』


 テトラくんちゃんは嬉しそうだ。テンプレ好きだよね。


『みんな好きだから定番になるんだよ。ベタはベターなのさ』


 さてはまた異世界の知識引っ張り出して来ているな。


 まあ、俺もこういう箱作りは嫌いじゃないから良いけどね。




 しかし、問題はラファータである。


 農作業用ゴーレムについてのビジネスや、魔道具ゴーレムの改良と新規作成に地下空間の拡充、オイコノ領の暗部の諜報、道化の悪魔としての義賊行動、それとは別にアルテナと剣の鍛錬とハーベルとその他の魔法の開発と普通に忙しい。

 今回は冒険者デビューまで果たした。


 人間ゴーレムが代わりに担当している作業もあるが、俺でないと不可能な作業も多い。


 それらに時間がとられるせいでラファータと一緒にいる時間が短くて、彼女との距離が全く縮まる気配がない。


 最近は俺よりもシーフィアの方が遥かにラファータと仲が良さそうだ。いやそれは前からだろうか。


『そもそも君はラファータルートに突入する気が本当にあるの? 個人イベントを全くこなしているように見えないんだけど?』


 忙しくて中々接点が作れないから仕方ないだろう。

 あとヒックス君の恋心を恋愛シミュレーションっぽく言わないでくれ。


『ただでさえ仕事が忙しいのに、代理人君が本当に結ばれたいのは、仕事のパートナであるとかどうしようもなくない? ラファータルート突入できなくない?』


 そこはなんかさぁ、ほら、上手く収束してくれないかなって。


『発散するんだよなぁ』


 助けてテトラえもん! 役目でしょ!


『ボクは未来から来たどころか過去の遺物だから厳しいね。恋愛事なら碧水の精霊とか陽光の精霊の方が頼りになるよ』


 テトラくんちゃんも見た目はわりと美少女、美少女? なのにな。中性的だけどやっぱり少女っぽい。


『ボクは今の君たちの倫理観よりも大らかだからなぁ。例えるならばボノボだね』


 さすが大地の精霊である。


『男にも女にも、その両方同時にもなれるからね。逆に今はどれでもない中性なんだけど』


 大地の精霊ってすごいな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。