6姉の回想
前世の記憶が戻る前、私は普通の伯爵令嬢だった。
父のスターレイ・レオパルド伯爵にとっては初の子供だったし、男の子に恵まれなかったせいで女伯爵となるよう厳しく躾けられた。
伯爵となって領地を取り仕切ることに不満はなかったけど、女としてのマナーや外出時には下僕や護衛を付ける事には窮屈さを感じていた。
今の貴族生活は何というか真綿でじわじわと締め付けられるよな辛さを感じるというか・・・
10歳になったばかりのある時、夢を見た。
見たというよりやってきたという方がしっくり来るかもしれない。
私が拓斗だった時の記憶が唐突に思い出されたのだ。
自分が前世で地球の男の子だった事。日本という国で小学生をしていたこと。
ゲームが大好きで、空手を習っていた。両親はとっても仲がよくて一人っ子だったけど寂しさを感じないほど遊んでくれた。
でも、キャンプからの帰り道、トラックが突っ込んできて死んでしまったこと。
思い出すと同時に庭園が現れた。
ヴィクトリア様式の完璧に整えられた庭園だ。
ほっぺを抓ってみると痛くないのでこれは夢の続きなのだろう。
瞬きをしたわけでもないのに突然、目の前にたいそう綺麗なご婦人が日傘をさして現れた。
「私は創造主、世間でいうところ神様ってところかしら。
あなたにとって大事な話をするから、落ち着けるところが良いと思ってこんな感じにしたんだけど、どうかしら?
私の姿もどんな感じにも変えられるので、同性にしてみたんだけど、魔導士の老人バージョンもあるのよ?そっちの方が神様っぽいかしら?」
「過分なご考慮恐れ入ります。
内容の方が大事ですからどのような格好でも構いませんわ。ご用件は何でしょうか?」
「あらっ、突然の事なのに冷静ねぇ。
前世と合わせても22年しか生きていないとは思えないわぁ。
伯爵令嬢だからというより、魂の質が良いのね、ふふふ。」
いつの間に現れた、パラソルの下のテーブルにはお茶とお菓子の用意がされていた。
そこに座るよう示されると神様は日傘を閉じて椅子に先に座った。
「先に行っておくけど、創造主ってなんでも出来るわけではないの。
そりゃ、多くの事が出来るし、造ることは得意ね。
でも、魂の質は自然に決まるものだから、人がどんな性格でどんな人生を歩むかは決定できないし、生き返らすこともできない。
あなたは事故の事を恨んでいるかもしれないけど、私にはあの交通事故を止めることはできないのよ。」
言い訳がましいかしらと上目遣いで見てくる姿はどこから見ても可憐な少女だ。
都合よく見た目を変えるのは反則だと思うが、あえて口にせず一番聞きたいことを尋ねた。
「あの事故の後、両親はどうなりましたか?」
拓斗の人生は幸せだったし、死んだことは悲しいけれど10年前の事だ。
今は冷静な気持ちでいられる。
でも、一緒に乗っていた両親はどうしたのだろう。
死んだんだとしたらやっぱり悲しい、生きていても拓斗が死んだらきっと悲しむ。
「実はね、あの交通事故の後、貴方とお父様は即死で同じ世界に転生が住んでいるんだけど、お母様は重傷ながらも一命を取り留めてね。
息子と夫のいない世界に絶望していたわ。
何度も死のうとしたんだけど、その度に魔女の呪いに止められてしまって。
私にはどうすることもできなくて。本当に辛い10年を過ごさせてしまったの。」
「魔女??前世は科学の世界ですよ。なぜ魔女が母を狙うんですか。」
神様は紅茶を一口飲むとゆっくり話し始めた。
「貴方のお母様が高校生の頃、他の世界で滅びそうな国があってね。
そこの国王が聖女に助けてもらおうと異世界から呼び出したのがあなたのお母様なの。
お母様は最初は戸惑っていたし、ぶっちゃけかなりのドジよね・・・
だいぶハラハラさせられたけど、見事、聖女となり魔物を追い出したわ。
ただ、あまりの活躍と皇太子に愛された聖女は魔女に嫉妬されてしまったの。
魔物と一緒になって国を滅ぼそうとした魔女は皇太子に倒される前に聖女に呪いをかけたの。
聖女がひとたび不幸を感じたら、その不幸が死ぬまで続くようにと、さらに自分で死んで不幸が終わらせられないように自死ができないように二重の呪いをかけたの。
ホンっと性格悪すぎよね。
だから、皇太子に嫌われて結婚できなかったのよ。
って魔女は元侯爵令嬢で、皇太子の婚約者だったんだけど、卒業パーティーで婚約破棄されてねってこの話、世間に本当多いわよね。
個人的には好きな展開なんだけどってごめんなさいね。
こほんっ、話を続けるわね。
それを見ていた私はさすがに感情的にどうにかしたくなっちゃって、ルールに反するけど、お母様に世界を救ってくれたお礼をすることにしたのよ。
魔女の呪いを解くことはできないけれど、一つだけあなたの願いを叶えましょうと。
お母様は異世界から帰ってきても、いつも元気溌溂で嫌なことがあっても自分の事を不幸とは思わずに暮らしていたわ。だから、魔女の呪いはずーっと発動しないでいられたの。
でも、あの事故で家族を失って・・・お母様は人生に絶望して自分は不幸だと認めてしまったの。
事故の後遺症で仕事も生活も自分で出来る状態ではなかったから立ち直るきっかけもつかめないし、魔女の呪いで不幸な気持ちを忘れる事はできない。
何度も自殺しようとしても邪魔が入ったり、助かってしまったり。
詳しくは控えるけれど、晩年は精神的にもおかしくなっていたわ。
最後は病死でね。やっと二人の元に行けると喜んでいたから、悲しい気持ちにはならないでね。
だから、今度こそ家族で幸せになれるよう、貴方の妹として転生させることにしたわ。
転生先は私の権限で決められるし、なんか見ていて貴方達家族が個人的に好きになっちゃったのよ。
でも、10歳年下では母親には戻せないし、貴方の子供にするのも無理あるでしょ?
今度は姉として貴方が大事にしてあげてね。」
拓斗としてなのかジェインとしてなのか分からないけれど、私はとにかく泣いていた。
目からぼろぼろと零れてくる。
神様がそっとハンカチをくれたけど、今必要なのはバスタオルだ。
大好きな母さんがそんな目にあっていたなんて・・・
聖女の話だって一度も聞いたことなかった。
っていうか、拓斗と父さんのお弁当しょっちゅう間違えたり、何もないところで転ぶ母さんが聖女ってなんだよその人選ミス。
思い出されるのは私とポテチを取り合って本気のヘッドロックかましてた母さん。
韓流ドラマ見て泣いてた母さん。
でもいつも笑っていて皆に優しくて、父さんの前では乙女で可愛くって・・・聖女だったのか。
今度の人生では絶対に不幸になんかさせない。
私が姉として立派に守って見せる。
「わかりました。私の生涯をかけて母さんを、いや妹を大切にします。
それで、ついでですけど父さんはどうなったんですか?」
「ついでって、日本の父親の威厳のなさは生まれ変わっても健在ね・・・。
お父様は貴方と一緒に生まれ変わったから同じ10歳よ。
お父様は生まれ変わってもお母様を忘れなかったというか、愛の力というか、ぶっちゃけストーカーパワーで無理やり思い出したの。
今、血眼になってお母様を探しているわ。
たぶん、間違いなく出会うでしょうから、妹とうまくいくよう導いてあげて頂戴ね。」
「でも、妹が父さんを嫌だと言ったら引き離していいんですよね。
新しい人生なんだから新しい恋をすればいいじゃないですか。」
「ん~確かに嫌がったらね・・・でも、お母様はね。
たぶん嫌がらないと思う。
お母様が異世界から元の世界にもどるときに私が叶えた願い事っていうのがね
『皇太子のライト様と一緒にいたい』だったのよ。
それで、聖女として異世界に残ろうとしたんだけど、ライトが『この世界では魔女の呪いが強いから少しでも呪いから離れるよう舞花の世界に俺が行く』って言ってね。
本来の魔女の呪いは『永遠に不幸になる』だったけど、元の世界に戻って魔法の無い世界で暮らしたから『不幸を感じたらそれが永遠に続く呪い』にまで弱まったのね。
でも、好きな女のためとはいえ、皇太子なのに弟にすべてを譲り、今まで生きていた世界を捨てるなんて並大抵の事じゃないでしょ?
そんなお父様が諦めるとは思えないのよね・・・。」
「母さんの聖女だった話よりビックリなんですけど・・・。
なんだよ父さん異世界人だったの?
確かにそんな目で思い起こせば、子供の頃の話聞いてもはぐらかすし、アルバムとか学歴とかいろいろ不審な点あったわね。
顔も日本人離れしてたし。
まだ小学生だったから疑問に思わなかっけど、今も10歳だけどさ・・・どうやって戸籍とか手に入れたたのかしら。
普通にパソコンとかスマホ使いこなしてたヨ、なんで?
わぁ、なんか人って見かけと違うんですね・・・怖いわぁ・・・」
「急に人間不信とかにならないでね、これ以上の設定は面倒だから・・・ってワケで。
お父様は放っておいても現れるから、大丈夫よ。
拓斗の人生を引きずらせてごめんなさいね。
貴方の幸せ、いいえ、貴方達家族の幸せを願ってるわ。」
神様なのに誰に願うの?と心の中で突っ込みつつ、お礼を言おうとしたら目が覚めた。
ただの夢だったのかもしれないけれど、枕は涙でびっしょり濡れている。
私は信じてる。前世の事を、そしてこれから生まれてくるであろう母さんを。
二人目の子は諦めていた今の母上が懐妊した時は、屋敷中大喜びで、父上も無事に生まれてきてくれれば男でも女でも良いと公言するくらい喜んでいたし、私も安心して妹の誕生をまっていた。
エリザベスは小さい頃から、新しい世界にも、貴族の生活に不満がないようで毎日ニコニコしていた。
エリザベスの笑顔は皆を幸せにする。お父様もエリザベスには激甘だし、屋敷の者は皆エリザベスの好きな物、エリザベスの喜ぶ事をしようと一生懸命だ。エリザベスが悲しむから屋敷の中で喧嘩や小競り合いはしないし、専属メイドに皆がなりたがるので、エリザベスのメイドは交代制だ。
本人はわかっていないようだが、妹は本当に可愛らしい子に育っている。
柔らかな金茶の髪はつるつるでいつも結わえてあげても色んな所からほつれてしまう。
目は小鹿のようにパッチリしていて、澄んだブラウンの目に金の粒が星が瞬いたように散っているのが、なんとも言えなく神秘的でいつまでも見つめていたくなる。
前世の母さんに似てなくもない感じも余計に嬉しい。
世間的には確かに私も美人だ。拓斗時代に自分を見たら、惚れたと思うし喜んだでしょう。でも妹の可愛さはそれと違った美しさなのだ。
私の方前世の記憶が戻ってからだいぶ変わったわ。
まず、部屋も拓斗の趣味が入ってシンプルになりました。
室内でお勉強してても、天気が良いと外で遊びたくてウズウズするようになったの。
ただ、服装は顔やスタイルに合わせて女性らしく、拓斗も可愛らしい女性が好みだったせいか、レースとかリボンとかつけても
『私に似合うわぁ。』
としか思わないから、拓斗とジェインがうまい具合に溶け合ってきたんだと思う。
前世の記憶が戻ってから、慈善事業にも積極的になり、頻繁に教会や孤児院にお手伝いに行くようになりました。
拓斗時代に教会のボーイスカウトに入っていたせいで、ボランティア精神が根付いていたし、動いている方が性に合っていたみたい。
そこで知り合ったのが、牧師であり、隠れ魔導士でもあるリンデル様なの。
牧師として孤児や貧しい人たちの手助けをなさったりしているんだけど、実はそれだけでなく陰では困っている人を助けるために悪を成敗したり貧しい人の家に硬貨を投げ入れたりする、闇の仕事人っていってもわかんないかぁ、そんな感じの人なのよ。
日曜礼拝があった次の日にね。ちょっと用があって朝早く教会に行ったら、リンデル様が血だらけで倒れてて、
私も微弱だけど癒しの魔法が使えるし、お金はあるから薬も買ってあげたりなんだりで助けてあげたところから
だんだんと話すようになって、まぁぶっちゃけ好きになっちゃったのね。
そのリンデル様を訪ねていらしたのが、レイノルドなんだけど。
あの再開は全く想定外だったわね。