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3不毛な恋はもうやめたい

森に行った日の夜、夢を見た・・・


見たことのない山で見知らぬ人と山登りを楽しんでいる夢。


私は、見たことのない男のような服装をして、背中に荷物を背負って必死に先の人の後を追っている。


先を歩く男は顔がぼやけて見えないけど、たまに止まって待っていてくれて、


私が近づくと先に行ってしまう。意地悪されているのかなぁと、ちょっとイライラするんだけど、


彼は先に登って安全を確かめているんだなと気づいてからはなんだか嬉しくなる。


頂上に着いたときに手を差し伸べてくれて、「頑張ったね。」と褒められて、その声がとても優しくて。


私はこの人が大好きなんだと気づいたところで目が覚めた。



何だろう・・・変な夢。






さて、前回の森からの帰り道の出来事で私も少し考えた。


勉強のためとはいえ、やはり姉の婚約者と二人っきりになるのはよくないと思う。


あきらめるためにもできる限りのことはしなくてはと、お父様に切磋琢磨できるお友達と一緒に勉強したいと頼んでみた。


「確かに、貴族の子ならレイノルド様の指導を受けられると聞けば喜び勇んでやってくる奴らが大勢いるであろう。


しかし、エリザベスの勉強レベルと同じとなるとなぁ・・・まぁ、任せなさい。


可愛いエリザベスの頼みだ、何とかしてみよう。」


そうして、やってきたのがルッベルゲン伯爵家のアンソニー様だ。


なんでも、父がさりげなく探すつもりだったご学友も、レイノルド様から直々に教えを請えるチャンスとの噂が回り、希望者が殺到。皇太子まで学びたいと言い出して大変だったようだ。


さすがに皇太子と共にとなると、警備やらの関係で王宮に赴かないとならないし、レイノルド様が固辞されたので私の幼馴染とも呼べる親戚筋のアンソニー様で落ち着いたようだ。


私としてはアンソニー様は双子の妹アルル様がいらっしゃるせいかフェミニストでお優しい方なので安心して一緒に学べるし、さすがはお父様ナイスな人選だったと思う。


「レイノルド様のプリントはとてもわかりやすいですね。

学校で専門の教授にクドクド学ぶよりこのプリント一枚で凄い知識量が付くと思います。」


アンソニー様は金髪の碧眼、典型的な美男子だけれど、ちょっとたれ目なせいと素直な性格で大型犬を思わせる雰囲気がする。


要するに人懐っこいというか安心できるのだ。


高等学院はすでに卒業済みで学力も高いと評判だ、もちろんご令嬢たちにも大人気。


そんなアンソニー様が同性のレイノルド様を手放しで褒めるのだから、私もついつい嬉しくなって声が弾んでしまう。


「でしょ、でしょ。私、復習のためにレイノルド様のプリントを自分でもう一回書き写しているのよ。


それだけで私でも覚えられるのだから本当に凄いと思うわ。


よろしければ今までの私の書き写しプリントの方を差し上げましょうか?。」


アンソニー様が来て二週間、すっかり馴染んだ私たちは勉強後にお茶をしながら学んだ内容を振り返るのが習慣になっていた。


レイノルド様も今までは勉強が終わるとすぐに帰ってしまっていたが、アンソニー様が来てからはお茶を付き合ってくださるようになった。


ただ、無言でじっと私たちを見つめていたり、前みたいに過剰なスキンシップをすることも少なくなり、お疲れなのかとちょっと心配だ。


今だって無表情で私たちの会話を聞きながら紅茶を飲んでいる。


「アンソニー、今までのプリントは私の方が用意いたします。

エリザベス嬢の手書きプリントは大変貴重なものですから、私が預かりましょう。


エリザベス嬢の学習の成果を私も見たいですし、二人で頑張った証ですから。」


レイノルド様のお言葉にアンソニー様は感激したように


「レイノルド様、ありがとうございます。

本当にこのお勉強会に参加できまして僕は幸せです。


もとより学ぶことは好きだったのですが、今は楽しさだけでなく、奥深さも感じています。

次回の水泳指導も楽しみにしております。」


「・・・アンソニーは泳げるのではないかな?水泳は一人の指導者に一人の生徒で精いっぱいだ。


事故が起きてからでは遅いからね。次回は遠慮していただけるといいのだが。」


「ご安心ください。僕は泳げますので、今回は僕が妹のアルルに泳ぎを教えてやろうと思っております。


淑女に水泳を教えるなんて、今まではまったく考えておりませんでしたが・・・


水の事故はどんな時にやってくるかわかりませんよね。レイノルド様の先進的なお考えには感動いたします。


ぜひご迷惑はおかけしませんので、ご一緒させてください。」


「そうですか、この世に泉は沢山あるんですけどね・・・」


レイノルド様は困ったような呆れたような複雑なお顔をなさっている。


やっぱりお疲れなのかも。何か癒してさしあげる方法はないのかしら・・・





お二人が帰った後、私も自室に戻ると侍女がハンカチを持ってきた。


「お忘れ物ね。次回に私から渡しておくわ。」


シンプルなハンカチにRのイニシャル。レイノルド様のハンカチだ。


侍女を下がらせたあと、ベットに座りハンカチを撫でてみる。


シミ一つないハンカチは完璧な彼らしい。


そっと匂いを嗅ぐとレイノルド様が近くにいるような気がした。


すぐに、ノックがされて侍女が入ってきた。


「レイノルド様がお忘れ物を取りにいらっしゃいました。


応接間より、お嬢様のお部屋に行きたいとの事なのですが、お通ししてよろしいでしょうか?」


「えぇ、忘れ物だけだから大げさにしたくないのでしょう。こちらにお通しし「お邪魔いたします」」

言い終わらないうちにレイノルド様が部屋に入ってきた。

礼儀に欠く行動にびっくりしていると、レイノルド様は私の握りしめたハンカチを見てフッと微笑む。


「申し訳ありません。うっかり忘れまして、持っていてくださったのですね。」

撫でたり、匂いを嗅いだことがばれてしまったわけではないけど恥ずかしくて真っ赤になってしまう。


この時間帯はメイドや侍女にとっては、お茶の支度が終わり、ディナーの支度までちょっと一息つける貴重な時間だ。

側で待機していた侍女には、すぐに終わる用事だからと下がらせ休むように伝えた。


「次回、お会いした時にお渡ししようと思っておりましたのよ。

ところで、その・・・レイノルド様は最近お疲れのご様子ですが、何かご心配事でもおありなのでしょうか?」


「気にかけていただけたんですね。」


窓の外を見るレイノルド様の横顔はとても悲しそうで、私もなんだか泣きたくなってくる。


「何と言ったらいいか、最近自分の進んでいる道に疑問が出てきまして・・・

昔から欲しいものはたった一つしかなくて、手に入れるためなら何でもしようと思いやってきましたが・・・


自信がないんでしょうね。不安で仕方がないんです。」


 レイノルド様が不安になるなんて・・・欲しいものって何だろう。


それも気になるけれど、悲しそうなお顔が美しくて、それがまた辛くて私は何も聞けなくなる。本当は抱きしめて慰めて差し上げたい。


でも、その役目はお姉様でなければいけないのだ。

私が今何かしたら、弱ったところに漬け込む卑劣な女になってしまう。


小物入れの引き出しをあけ、中から私のお気に入りの匂い袋を取り出す。

それをレイノルド様のハンカチに挟んでお渡しした。


「この匂い袋、庭のローズマリーから作ったんです。

私が差し上げるとジェインお姉様が喜んでくださり、よくドレスの間に挟んだりしていますからお分かりになる匂いだと思いますわ。


ジェインお姉様は教会のお仕事がお忙しいみたいですが、すぐにお時間が取れるようになります。」


私の差し出したハンカチとポプリを受け取ると顔に寄せ、匂いを嗅ぐレイノルド様


「エリザベスの匂いだ・・・」


「わっ私も使っておりますが、ジェインお姉様も使っているんですよ!!」

誤解してほしくなくて真っ赤に弁明する私の頬をそっと触る。


「私にとってはエリザベスの香りです。明るくて素直で愛おしいエリザベスの匂い・・・ありがとうございます。大切にします。」


にゃーっっっ★◇□●!!!!固まってしまう。どうしよう、頬が悶え焼けてしまう!


レイノルド様の深いブルーの瞳がまっすぐ私を見つめ、私は深海の海に溺れそうになる。


美しいから好きなのではない、性格でも身体でもない、彼でなければだめなんだと心が騒ぎだす。


それに、ジェインお姉様にも感じるこの不思議な感覚。

遠い昔に見たことのあるような、懐かしい気持ちになるのは何故なのだろう。


何か大事なことを忘れているような・・・


「誓ってくれませんか。誰の者にもならないと・・・

せめて私とジェインが結婚するまでは誰とも婚約しないと。

私にそんな事を言う権利がないのはわかっています、でも2年、いやっ1年でいいですから待ってください。」


なぜ婚約してはいけないのだろうか。


あぁ、それよりレイノルド様はあと1年で結婚されるおつもりなのね。

式の準備は半年以上かかるから、もうすでに進めているのかもしれない、ジェインお姉様は何もおっしゃっていなかったわ。


なんでもすぐに教えて下さるのに。どうしよう、笑って送り出せる自信はまだないのに・・・


グルグルと自分の思考にこもってしまい黙っていると、レイノルド様は私の頬から手を放し、拳をきつく握りしめた。


「お答えいただけないという事はもう婚約したい人が見つかったということですか。

あなたの心はわかってます、アンソニーですね。

あなたの父上もそれを見越して連れてきたんでしょうから・・・さすがは、策略家のスターレイ伯爵。私の気持ちもご存じなのかもしれない。」


レイノルド様の握り続ける手から血がにじみ出てきた、自分の爪で傷ついているのだ。


ギョッとした私は慌ててレイノルド様の手を開かせるため両手でつかもうとする、しかし、逆に両手首を片手で捕まれ、あっという間にベットに押し倒されていた。


低い押し殺したような声でレイノルド様が覆いかぶさってくる。


「今まで我慢してきたのは、他の男にやるためじゃない。あなたに・・・

あなたに思い出して欲しいからずっと耐えてきたんです。


でも、いい・・・もういい。思い出さなくても構わない、新しい愛をこれから育みます。


今ここで既成事実を作ります。俺の子供をもう一度生んで。」


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