婚約破棄されましたが······
久しぶりの短編です。
「漸く着いたわね······」
汽車を降りて私は深呼吸した。
「早く休みたいけど······、まずはやるべき事をやらなきゃいけないわね」
私は早速目的地を目指して歩き始めた。
「これはこれは義姉上、遠路はるばるお疲れ様です」
「いえいえ、此方こそ急に押し掛けて申し訳ありません」
「義姉上でしたら大歓迎ですよ!」
ニコニコ笑顔で出迎えてくれたのはサーフル・エンパニオン皇太子様。
この方、私の妹の婚約者でもある。
「義姉上、ところで今回の訪問は?」
「ご報告しなければいけない事がありまして······、実は私、婚約を破棄されまして」
「······はい?」
うん、固まるよね、でも本当の事なんですよ。
私、ルナール・ランクルはつい数日前に婚約破棄されたのだ。
「確か王太子と婚約されていたんですよね?」
「えぇ、それが王太子様に別に好きな方が出来たみたいで······、先日貴族学院の卒業記念パーティーで婚約破棄を一方的に宣告されたんです」
「酷い話だ。 誰ですか? 義姉上から婚約者を奪った不届き者は?」
「······妹です」
「え? ······妹って私の婚約者の?」
「はい、シンシア・ランクルが奪ったんです」
私の家、ランクル家はオリビア王国の公爵家である。
家族は両親と私と妹の4人、更にメイドやら執事、使用人がいます。
私が王太子ことクレイシス・オリビア様と婚約したのは4歳の時、それ以来王太子妃になる為の教育を受けた。
しかし、妹が全てを奪った。
妹は私の持っている物を欲しがる性格でアクセサリー、小物、人形、服その他諸々を『欲しい欲しい』と駄々をこねた。
最初は幼いゆえのわがままだろうから私も姉として妹にあげていたが王太子様から初めてもらったプレゼントを『欲しい』と言われた時は流石にあげる事は出来ず大喧嘩になった。
両親が何とか宥めてくれたがこの頃から妹はおかしくなった。
妹はやたらとクレイシス様に纏わりつきはじめおねだりを始めたのだった。
クレイシス様も満更でもないし私の妹と言う事もあり妹に優しくした。
妹は可愛いし、まぁ愛想も良い。逆に私は周りからは冷たい感じがするらしく両親も妹の方を可愛がっている。
しかし、私は危機感を感じ両親に妹にも婚約者が必要では?と提案してみた。
両親も思う所があったみたいで私の提案に賛同してくれた。
父は外交の仕事をしており、他国との繋がりもある。
そして、父が持ってきたのがこの大陸でも1番力のあるエンパニオン帝国の皇太子であるサーフル様との婚約だった。
内心『やっぱり妹の方が大事なのか~』と思ったりしたがこれでもう落ち着くだろう、と安心していた。
しかし、甘かった。
妹はサーフル様と婚約関係になったにも関わらずクレイシス様の側を離れる事は無かった。
クレイシス様もだんだんと私と距離を置くようになり妹と接する時間が多くなった。
その結果がコレである。
「······と言う訳でしてサーフル様には本当に申し訳なく思っております」
私は今までの出来事をこと細やかに説明した。
サーフル様は顔色が悪く絶句しております。
「し、しかし僕は定期的にプレゼントや手紙を贈っていたはずだが?」
「手紙は読んでないしプレゼントは見向きもせず封も開けておりません」
「返事は来ていたけど······」
「······私が代筆しておりました。『適当に返事しておいて』と」
正直、騙しているみたいで申し訳なく思っていました。
「私が思うに妹は『私の物』に興味があって『自分の物』には余り興味は無いみたいなのです。それが今回この様な形になって出てしまったみたいで······」
「話はわかりました。義姉上も大変でしたね。この件に関しては父上と話し合いをします。事と場合によっては······」
「それは覚悟しております。ですからこうして来ているのですから」
こうして最初の話し合いは終わった。
私はサーフル様のご配慮で暫く城内の客間で住まわせて頂く事になりました。
それから1週間後、私はサーフル様からお呼びだしをされました。
「義姉上の話を聞いて父上に相談しました。すぐにオリビア国に抗議と説明要求の書簡を出しました」
「そうですか······」
「その返事が来たのですが·······」
私は返事の手紙を読ませて貰いました。
オリビア国の国王様は帝国からの手紙を読んで顔面蒼白、すぐにクレイシス様とシンシア、その他関係者を呼び問い詰めたそうです。
しかしクレイシス様とシンシアは『自分達は愛し合っている! 真実の愛に目覚めた!』とか何とか脳内にお花が咲いているとしか思えない発言をするばかり。
国王様はぶちギレてクレイシス様を鉄拳制裁をしたそうです。
シンシアは両親からかなりキツいお説教を喰らったみたいですが反省の色は無し。
現在、2人は軟禁中で関係者は処分する、との事。
帝国が処分するなら帝国の意思を尊重する、らしい。
手紙を読ませてもらい私は頭が痛くなりました。
「なんで、こうなっちゃったんでしょうね······」
「本当に······、人を見た目で判断しちゃいけない、とつくづく思うよ」
私とサーフル様はため息を吐きました。
「それで、皇帝陛下は?」
「まぁ、我が国を舐めて来たんだからね、それなりのペナルティは受けて貰う。特に主犯2人には、ね」
サーフル様は笑いましたが目は笑っていません。
さて、その後ですが1ヶ月で結果は出ました。
クレイシス様、シンシアは帝国に人質として連行されました。
クレイシス様は皇帝、サーフル様の尋問で漸く自分が犯した過ちに気付きましたが時すでに遅し、莫大な慰謝料を支払う事になり鉱山にて強制労働となりました。
シンシアも漸く自分が玉の輿を逃した事に気付きましたが此方も時すでに遅し、修道院行きとなりました。
オリビア国に対しては管理不行き届きとなり暫くの外交断絶となり経済的に弱体化を余儀無きされました。
まぁ、死人が出るよりマシでは無いでしょうか。
さて、私はと言いますと帝国での永住権を手に入れ父と同じ外交官として帝国の為に働いております。
帝国では女性でも才能がある者は活躍する場を用意してくれていてお陰さまで充実な日々を過ごしております。