火蓋の上下 39~松明(たいまつ)
アゾは松明に竃の火をもらった。
全ての準備が整った。
『見事なタイミングでありましたな。』
『飛んで火にいる虫だ。あとは、、』
『待つのみ。』
『もう少しアゾには辛抱してもらってなっ。』
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『宮殿に向かうぞ!!』
バスチアは兵に号令をかけた。
「補給の奴らはいると思うかい?」
「わからんが、いてもらわんと俺達は飢え死にだ。」
「何日もわけのわからん木の実を捥いで口にしただけだ。」
「打ち落とした鳥だってこの林の中じゃ、探すのにも一苦労。軍用犬のサラでさえ見つけられなかったからな、、」
「まったくだ。」
青い月明かりに照らされた集団は、地を這う煙の様に一歩ずつ古いジョラの村になだれ込んで来た。
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ザクッザクッザクッ
『来たな。』
『参りましたね。』
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『おい、誰だ? 誰かあそこに。』
バスチアは暗闇の中、揺れ動く火を見つけた。
『火を掲げてこちらに手を振っている?、、、』
『軍服を着ているようでありますが、、』
『小柄な兵だな、、』
『補給か?』
『Ⅽou!!Ⅽou!!』
「お!我らの言葉だ! 補給だ!補給だ!! 助かった~‼ 」
「あっ!手を振っているのは、アゾだ!アゾだ!」
「補給通訳の?」
「そうだ!そうだ!アゾだ!」
兵は沸き立った。
その集団の大きな笑い声と、アゾに向かい走って来る軍靴の響きが、ニジェの耳にも届いた。
『元気でおったか、アゾ。』
『はい、バスチア殿。』
『しかし遅すぎだ! 何をやっとた!!』
『なかなかの難攻不落な道中ゆえ、なにぶん先頭部隊ほどの精鋭ではございませんでしたので。』
『仕方あるまい、あの連中では。で、奴らは?』
『今は宮殿の方に。わたくしは、レノー殿の御命令で「いっときも早く先頭部隊の腹を満たせ」と。』
『なるほどっ。で、レノーの奴は迎えにも来んと。』
アゾはその言葉を無視した。
『で、山からほど近いここで、先に豆を炒っておりました。』
「おっ、何かいい匂いがする?」
『こちらへ、こちらへ。たくさん炒りましたのでちょっとお部屋が熱くなってしまいましたが。』
「かまわん、かまわん! 食べさせてくれ!」
「肉なぞと贅沢は言っておれん!」
『そこの10ある麻の袋に詰めてありますので、私が取り分けて差し上げましょう。』
まだ炒ったばかりの豆は、麻袋の至るから白い煙と香ばしい匂いを吐き出していた。
最初の200はバスチアを先頭に我に我にと、集会所に入って行った。
そして、すぐに後の50も追いついた。
「お前は最後だ。離れてろ! おい、お前が張っていろ!」
一人の兵が、太った捕虜の見張りをワリに告げた。
入れなかった兵は集会所の入り口で、今かまだかと屯った。
「アゾ。その松明、取り分けるのに邪魔だろ?」
『あ、そうですね。外に置いて参ります。ここは竃の火で明るいですからね。』
アゾはギュウギュウ詰めの兵の群れを掻き分け、入り口に向かった。
と、入り口で振り向いた。
『いくぞ~!!』
それはマンディンカ語の号令だった。
アゾは手に持った松明をその群衆の真ん中、麻袋目掛け放り込んだ。
すると、その『いくぞ』の合図と共に、一つだけ開いていた竃の上の小窓から、2本の火のついた矢が飛び込んで来た。
ビュ~ン!
ビューン!
麻の袋にグサと命中した。
Ⅾooッ!KaaaaaaN!
ドカドカ! バぁあああああぁン!!
バチバチバチ~!
ボォおおおお~ン!




