火蓋の上下 38~降り立った青い群れ
少しだけ月が登った。
青く光るその月は山裾を徐々に照らし出した。
『出て来た。』
麓から湧き出した集団は青い月の光に照らされ、銀の腹を持つ青魚の群れのようにヨロヨロと蠢いていた。
『数は?わかるか?』
『、、、、ざっと200。』
『まだ来るか?』
『遅れてくる者もありましょうから、もうしばらく。』
『ん?黒い魚が2人。フランス? 見えるか?』
兵は目をこらした。
『ここからではわかりませんが、1人は軍服を着ているようでありますがぁ、、もう1人はぁ、、暗くてわかりませんが黒?』
『ん?黒?』
『裸? ジョラ?』
ガーラ達がその二人の背中を目で追っていると、またぞろと青い魚が湧き出した。
『ガーラ殿、また後ろから。』
『、、、この配置。たぶん、真ん中の2人は捕虜と警護だ。』
『なるほど。ではこの後ろの人数が、、』
『捕虜が逃げた時の支えだ。』
『では、この一団が切れれば、それが全軍?』
『たぶん。』
『ジョラは?』
『ニジェ様の言う通り。いない。あの黒く裸の魚が気になるが、、』
フランス全軍は山から降り立つと、皆そこに座り込んだ。
『ん?休息をとるぞ! 降り切ったばかりだからな。』
『では。』
『走るぞ!奴らの足はヘロヘロだ。先回りするぞ!』
黒い3匹のアメンボはスーイスイと乾いた土の上を音も立てずに滑っていった。
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『ニジェ様、フランスの兵は総勢250。ただし、1人気になる者が、、』
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『レンズ豆の麻袋を持ってまいれ~!』
『詰めろ!詰めろ!気をつけろ~!!』
『ほれ!一か所に!まとめてエ!』
『もう来るぞ!フランスが来るぞ~!!』
『アゾ!ガンガン炒って!!』
『ほいきた!ほいきたぁ!』
集会所の土床にはポタポタと兵の汗が流れ落ちたが、熱せられた部屋は素早くそれを蒸発させた。
『アゾ!もっと熱くなるぞ! 小窓を塞ぐ! お前の頭上の窓だけは開けておくが。』
『ホイホイ!好きにやっとくれ!』
『ガーラ、この竃の裏手に倉があった。たぶんグリオ達が楽器や衣装を保管してあった場所だ。強いだろ? しっかりした造りだ。』
『ほう、これは頑丈。』
ガーラは拳でコンコンとその壁を叩いてみた。
『アゾ!これ。』
アゾは鉄鍋の豆を振りながら、横目でニジェの方を向いた。
『松明! レノー殿から頂いた物の中に補給用の鯨油があった。塗りつけてある。』
アゾはニコと笑った。
『まかしときぃ!』
『アゾ、「おまかせあれ」と言えんのか!』
ガーラはニジェの隣で笑った。
『良い良い、緊張ムードがほぐれてよろしい!』
ガーラの隣でニジェは笑った。




